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鹿児島のクラフト&アートフェア「ash」で偶然出会えた、木工作家の盛永省治さん。現在地と少し先のこれからを聞く

取材を終えて鹿児島市内への帰り道。今回の出張でお世話になったフォトグラファー、通称イソくんが「ちょっと寄りたいところがあるんですけどいいですか?」と言う。寄り道について行ったら、そこはなんと木工作家・盛永省治さんのアトリエ(!)せっかくなので、いろいろお話を聞いてみました。

photo: Hiroki Isohata / text: Ado Ishino

周囲を深い緑に囲まれて、くねくね曲がる県道をひたすら走っていると、ロードサイドに横たわる巨大な木の塊を確認する。僕らを乗せたイソくんのボルボ240はその丸太の近くに車を停めた。

突然の来訪者に少し驚いたようだったが、作業する手を止めて「こんにちは」と工房の奥からひとりの男性が出迎えてくれた。工房の入り口には「Crate furniture service」のサインが。

工房前に置かれていた巨大なクスノキ
工房前に置かれていた巨大なクスノキ。

ということは目の前にいるのは木工作家の盛永省治さんじゃないか!こうしてわれわれは期せずして孤高のウッドターナーのアトリエ訪問の機会を得た。口数少なく行き先を告げないフォトグラファーのおかげだ(笑)。

盛永作品にじっくり触れる、眺める

工房に隣接する一軒家に入れてもらう。家の中はギャラリーになっていて、台所にはウッドボウルやプレート、居間にはスツールやオブジェがずらりとディスプレイされていた。そうそうたる景色にたかまる興奮を抑えつつ、窓から入る陽光に照らされ優しい光沢を放つ作品たちをしばし眺めた。

聞けば、ちょうど僕らが鹿児島滞在時に通称「アッシュ(ash DESIGN & CRAFT FAIR 2022)」が開催されていて、盛永さんも久しぶりに参加。いつもはクローズしているこの一軒家をギャラリーとして一般開放しているタイミングなのだそうだ。

「アッシュ」とは、鹿児島の秋の恒例イベントとして親しまれるデザイン・クラフトフェア。街の雑貨店やカフェ、生花店など多種多様な店舗を会場として、陶芸家や彫刻家、イラストレーターなどさまざまなジャンルの作家が展示や販売を行う。2008年からスタートし、2022年で15回目。

鹿児島のモノづくり仲間たちで小さくはじまった取り組みは、いまや国内から128組の作り手が参加、会場も鹿児島から宮崎まで計91店舗と過去最大規模なのだそうだ。会期中はイベントも目白押しで、訪れる人々はアッシュが発行する無料ガイドブックを片手に街をめぐる。そうして街のいたるところであらたな交流が生まれている。

盛永さんの作品は、ウッドターニングという手法で一本の生木の丸太を削り出し乾燥させ、研磨することで生まれる。なめらかな曲線とダイナミズム溢れる彫刻的フォルムの存在感は、その空間を支配してしまう強さを宿す。

杢や節、さらには虫食いや病気の跡など、樹木そのものの生命活動のなまなましい痕跡は活かされ、柔らかな光沢と品格をもってそこに在る。乾燥の過程で起こる割れや反りもそのまま。ひとつひとつの個体と正面から向き合う盛永さんの誠意や正直さが内包されているようだ。

ウッドベース
色の濃淡、杢のコントラストが印象的なウッドベース。

進化する制作システムと循環するエコシステム

圧巻だったのは、どっしりと鎮座する数々のスツールたち。
「スツールはもともとアルマ・アレンがつくっていて自分も始めたもの。数をつくれるようになったのはここ2、3年のことで、これまでは年に1、2個ぐらいが限界でした」。なかでも特に時間を要するのは「乾燥」の工程。

自然乾燥させるとなれば2年(!)はかかるらしく、盛永さんは乾燥用の窯を使わせてもらったりしながら制作システムをアップデートさせてきた。そうして完成するまでに要する時間はおよそ2カ月となったそうだ。

「すぐ近くに木材をチップにする工場があるんです。山を切り開くために伐採したほとんどが硬い広葉樹で、使い道がないから燃料とかにされるんですけど、そこで加工される前の丸太ごと買わせてもらっています」

さらに削り出しの際に出る大量の木屑は、近所で畑をやってる方々が引き取ってくれるそう。こうして調達の入り口から廃棄の出口までが循環するシステムが見事に出来上がっているのがすごい。

木工旋盤を使用する際にテストされた丸太の切り口
木工旋盤を使用する際にテストされた丸太の切り口。ここから削り出して形を生み出していく。

これから少し、先のこと

独立して15年。国内外に顧客を持ち、各地で個展を開催、取り扱う店舗やギャラリーも増えた。2022年はいろんなメディアで「盛永省治・個展開催」のニュースを何度か見聞きした。作品完成までの時間を考えると、すごいハイペース、精力的である。

「スケジュール管理が下手なのと、断れないのが原因なんです……」と意外すぎる返答に、一同大爆笑。それでも個展をひらけば作品はどんどん売れていく。作品を求めている人も増えているのは事実、すごいことだ。

そんな状況でも、盛永さんは制作はもちろん、その他業務すべてをひとりで行う。人を雇ったり規模を大きくしようと考えたことはなかったのだろうか。「人を雇う予定もないかな。あと、やっぱり鹿児島が落ち着くんですよね。いまの環境を抜きにしても、鹿児島がいいです」と静かに笑う。

この素朴で純粋な人間性が、じっくりと時間をかけて強く美しい作品をつくり出していることに大いに納得。そして盛永さん自身にもファンが多いことにも合点がいった。雄大な緑に抱かれたこの工房から生まれる盛永作品を、これからも楽しみにしていよう。