
ジャングルプランツの宝庫、ボルネオ島へ 〜後編〜
林業が盛んなマレーシアでは森が失われつつあるが、産油国であるブルネイでは濃い森がそのままの姿で守られている。これまではわりと沿岸部の森を探索したが、ウルトゥンブロンではもう少し内陸部を探してみることに。
「このエリアにもブセファランドラ オブランセオラータがいるんですが、この種もかなりモトレイアナに似ていて。もしかしたら、ここのオブランセオラータもモトレイアナなんじゃないかな、と思い、確かめたくて」。
ULU TEMBURONG, BRUNEI/ブルネイ・ウルトゥンブロン国立公園


ブセファランドラ オブランセオラータ
Bucephalandra oblanceolata
故・堀田満博士によりブルネイから記載されたブセファランドラ。モトレイアナと混同されている種の一つだが、葉のサイズや付き方などに違いが見られた。

Bucephalandra oblanceolata
故・堀田満博士によりブルネイから記載されたブセファランドラ。モトレイアナと混同されている種の一つだが、葉のサイズや付き方などに違いが見られた。
ガモグイネ ブルビゲイ
Gamogyne burbidgei
かつてはピプトスパサに分類されていた聞き慣れないサトイモ科。6種あるガモグイネ属の一種でサラワク州北部の固有種。特徴は……あまりない。

Gamogyne burbidgei
かつてはピプトスパサに分類されていた聞き慣れないサトイモ科。6種あるガモグイネ属の一種でサラワク州北部の固有種。特徴は……あまりない。
ホマロメナ アルドゥア
Homalomena ardua
艶のある赤い葉が非常に美しい中型ホマロメナ。西カリマンタンにまで広く分布しているが、個体数はそれほど多くないようだ。今回もここでしか見られなかった。

Homalomena ardua
艶のある赤い葉が非常に美しい中型ホマロメナ。西カリマンタンにまで広く分布しているが、個体数はそれほど多くないようだ。今回もここでしか見られなかった。
ホマロメナ不明種
Homalomena sp.
葉模様を持つ未記載種。このグループのホマロメナはサバから西カリマンタンにかけてあちこちで見つかっている。

Homalomena sp.
葉模様を持つ未記載種。このグループのホマロメナはサバから西カリマンタンにかけてあちこちで見つかっている。
バークラヤ ロツンディフォリア
Barclaya rotundifolia
ナイトトレッキングで出会った、夜から朝方にかけて開花する熱帯性スイレンの仲間。ボコボコとした葉の質感も面白い。

Barclaya rotundifolia
ナイトトレッキングで出会った、夜から朝方にかけて開花する熱帯性スイレンの仲間。ボコボコとした葉の質感も面白い。
目的地はこの国立公園の最深部にある滝だ。順調に川を上るも、しばらくすると操縦士たちがあれこれ話し合いだして、一度川岸に下りることに。試行錯誤するも、難所が乗り越えられず、先に進めなくなった。
「じゃあ、そのへんから少し森に入ってみましょうか?良さげな細流も見えるし」との長谷さんの提案で、進めなくなった場所から森に入る。局所的に水深の深い場所もあり、太ももまでどっぷり浸かりながらも奥へと進むと、見事にブセファランドラを発見!
「これはどうなんだろ、なんか、少しモトレイアナとは違う気がするなぁ。おそらくオブランセオラータでしょうね。葉が小さめで、着き方も違うし、付属体の形状も少し異なります」
ロッジに戻ってからも、その周辺を探索。「そこにスキスマトグロッティスがありますね」。ユニークな葉模様なので必死に撮っていると「まぁ、そんな珍しいものでもないですけど」と言い放つ長谷さん。
あまりに淡々と植物を見つけ出し、長谷的感動度合いが全然わからないので、見つけるごとに星5つでその感動度合いを見える化してもらうことにした。「んー、そのスキスマは星1.8かな」。ちなみにモトレイアナは星4だったそう。星4を超える草にこの旅で出会えるのか?新たな楽しみが生まれた。
EASTERN LIMBANG DIVISION, MALAYSIA/マレーシア・リンバン省東部


ボルネオア不明種
Borneoa sp.
軟毛に覆われたビロード状の葉に銀の葉模様を持つ面白いサトイモ科。2024年に新属としてスキスマトグロッティスから分けられたボルネオアの未記載種。

Borneoa sp.
軟毛に覆われたビロード状の葉に銀の葉模様を持つ面白いサトイモ科。2024年に新属としてスキスマトグロッティスから分けられたボルネオアの未記載種。
ピプトスパサ インシグニス
Piptospatha insignis
かつては複数種存在し、安価な渓流サトイモの代名詞だったピプトスパサだが、現在は本種のみの1属1種。今回は見られなかったがスパイクを持つ付属体が非常に特徴的。

Piptospatha insignis
かつては複数種存在し、安価な渓流サトイモの代名詞だったピプトスパサだが、現在は本種のみの1属1種。今回は見られなかったがスパイクを持つ付属体が非常に特徴的。
アデニア コルディフォリア
Adenia cordifolia
三つまたに分岐した葉が特徴的。アデニアというとマダガスカルの塊根が有名だが、東南アジアの熱帯雨林にも自生する。

Adenia cordifolia
三つまたに分岐した葉が特徴的。アデニアというとマダガスカルの塊根が有名だが、東南アジアの熱帯雨林にも自生する。
プラティセリウム コロナリウム
Platycerium coronarium
自生地ならではの、すさまじく巨大なビカクシダ。そこかしこに着生していたが、この木を取り囲むように着く様子は圧巻。

Platycerium coronarium
自生地ならではの、すさまじく巨大なビカクシダ。そこかしこに着生していたが、この木を取り囲むように着く様子は圧巻。


3日目は、またブルネイから、マレーシアのリンバン省東部へ。ここでは、この旅のもう一つの大きな目的だったピプトスパサ インシグニスを見た。
「昔は複数種あって、マレーシアから来る安価な渓流サトイモの代表みたいな存在だったんですけど、最近、色々再編されてここのインシグニスのみが1属1種になったんです」。
細葉で表面がビロード状になっている深緑の葉は、とても上品。「星4.2かな」。最後に星4超えを果たし、この旅のクライマックスを迎えた。
BELAIT DISTRICT, BRUNEI/ブルネイ・ブライト地区


デンドロビウム プロストラツム
Dendrobium cf. prostratum
倒木に着生していた小型の蘭の仲間。多肉質な葉がざらりとしたテクスチャーをまとった魅力的な種。ムカデが這うように生長して、黄色の花を咲かせる。

Dendrobium cf. prostratum
倒木に着生していた小型の蘭の仲間。多肉質な葉がざらりとしたテクスチャーをまとった魅力的な種。ムカデが這うように生長して、黄色の花を咲かせる。
エリア ディスカラー
Eria cf. discolor
地上から30mほどの樹上に着生していた蘭の仲間。遠いため花は確認できなかったが、等間隔に並んで生える姿がかわいらしい。

Eria cf. discolor
地上から30mほどの樹上に着生していた蘭の仲間。遠いため花は確認できなかったが、等間隔に並んで生える姿がかわいらしい。
プネウマトプテリス不明種
Pneumatopteris sp.
新芽が粘液に覆われる触手のようなシダ植物。かなり珍妙だが、ごくごく一部に熱狂的なマニアがいる。

Pneumatopteris sp.
新芽が粘液に覆われる触手のようなシダ植物。かなり珍妙だが、ごくごく一部に熱狂的なマニアがいる。
イバニア不明種
Ibania sp.
2024年にスキスマトグロッティスから派生したばかりの新属である、イバニア属の未記載種。葉の表面に奇妙な凸凹のテクスチャーが出ている。

Ibania sp.
2024年にスキスマトグロッティスから派生したばかりの新属である、イバニア属の未記載種。葉の表面に奇妙な凸凹のテクスチャーが出ている。
ミルメコナウクレア ストリゴサ
Myrmeconauclea strigosa
ボルネオの渓流に広く分布するアカネ科のアリ植物。枝の途中に小さな空洞が作られ、そこをアリが利用する。花も珍奇。

Myrmeconauclea strigosa
ボルネオの渓流に広く分布するアカネ科のアリ植物。枝の途中に小さな空洞が作られ、そこをアリが利用する。花も珍奇。
コスミアンテマム不明種
Cosmianthemum sp.
網目のような葉模様を持つキツネノマゴ科の仲間。比較的小型なので、パルダリウムなどに向いていそうだ。

Cosmianthemum sp.
網目のような葉模様を持つキツネノマゴ科の仲間。比較的小型なので、パルダリウムなどに向いていそうだ。

熾烈な生存競争を勝ち抜く、小さな草たち
ジャングルは、地球上で最も植物多様性が高い生態系の一つだ。年間を通して高温多湿な気候が維持されており、雨量が豊富で日射量も多い。ボルネオ島のジャングルを歩いていても、高い樹木の高層、中層、下層や、林床など、階層ごとでさまざまな生存戦略が見てとれる。
つる植物や着生植物、湿地を好む種類などが、残された「生き場」を求めてひしめき合っているのだ。また、地質や標高差などによりさまざまな環境があるため、地域ごとに固有種が生まれやすく、多様性が促進されている。
「強すぎる太陽光や強風、乾燥に適応して進化したのが多肉植物や塊根(かいこん)植物であるなら、樹冠に遮られた後に地面まで届く弱い光をどうやりくりするか、多すぎる雨、河川の増水をいかに受け流すかというように、いわば真逆の方向に適応しているのが熱帯雨林の植物たちだと思います。自生地の攪乱(かくらん)や多種との競争も激しく、華やかな模様の草花が多いパラダイスのように見えて、実はそれぞれが厳しい淘汰を経て獲得した形質であるというところにロマンを感じますね」と長谷さん。
非常にか弱い存在に見える小さな草本たちだが、巨大な樹木を踏み台にして光を得るという熾烈な戦いを生き抜く、たくましい勝者たちなのだ。
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巨大ダンゴムシのようだが、オオタマヤスデ。タマヤスデは頭まで球の中に入るので防御力が高い。
巨大ダンゴムシのようだが、オオタマヤスデ。タマヤスデは頭まで球の中に入るので防御力が高い。 -
ウルトゥンブロンの宿、フレームフォレストロッジ。バードウォッチングの聖地で、周辺でサイチョウも見られた。
ウルトゥンブロンの宿、フレームフォレストロッジ。バードウォッチングの聖地で、周辺でサイチョウも見られた。 -
ツノグモの一種、Macracantha arcuata。標本では褪色して茶色になるため、色鮮やかな生体を見られて感動!
ツノグモの一種、Macracantha arcuata。標本では褪色して茶色になるため、色鮮やかな生体を見られて感動! -
「渓流ではクロックスが最強」という長谷さんの言葉を信じ、取材班全員クロックスで出撃。グリップも排水も◎。
「渓流ではクロックスが最強」という長谷さんの言葉を信じ、取材班全員クロックスで出撃。グリップも排水も◎。 -
ナイトウォークではビワハゴロモなどの昆虫もたくさん見られた。そして、猛毒コブラには運良く遭遇せず!
ナイトウォークではビワハゴロモなどの昆虫もたくさん見られた。そして、猛毒コブラには運良く遭遇せず! -
バナナの葉で巻いた焼き魚など、ジャングル気分な夕食。ラマダン期間で昼食抜きだったので、余計に旨い。
バナナの葉で巻いた焼き魚など、ジャングル気分な夕食。ラマダン期間で昼食抜きだったので、余計に旨い。 -
ウルトゥンブロン名物のキャノピーウォーク。地上約45mの高さから、樹上の植物を間近に観察できた。
ウルトゥンブロン名物のキャノピーウォーク。地上約45mの高さから、樹上の植物を間近に観察できた。 -
高い樹上でしか結実しないFicus punctataの実が観察できたのも、キャノピーウォークならでは。
高い樹上でしか結実しないFicus punctataの実が観察できたのも、キャノピーウォークならでは。 -
ボルネオの川にはちょいちょいワニに注意の看板が。「ワニは目が弱点」というガイドからの助言も……。
ボルネオの川にはちょいちょいワニに注意の看板が。「ワニは目が弱点」というガイドからの助言も……。 -
長谷星1.8のSchismatoglottis roseopedes。たしかにそこら中に生えていて、旅の後半は目に留まらなくなった。
長谷星1.8のSchismatoglottis roseopedes。たしかにそこら中に生えていて、旅の後半は目に留まらなくなった。 -
マレーシアの植物探検家、マイケル・ローさん。近年のボルネオ島での新種発見の大半は彼によるもの。
マレーシアの植物探検家、マイケル・ローさん。近年のボルネオ島での新種発見の大半は彼によるもの。 -
産油国のブルネイは飲料水よりガソリン代が安く日本の約3分の1。ロケバスもガス代は請求されなかった。
産油国のブルネイは飲料水よりガソリン代が安く日本の約3分の1。ロケバスもガス代は請求されなかった。

東南アジアに位置する世界で3番目に大きな島で、インドネシア、マレーシア、ブルネイの3国にまたがる。多様な動植物が生息する生物多様性の宝庫で、今回行った北部はサトイモ科が特に多く、この旅だけで50種以上見られた。
憧れのボルネオ島へは、ロイヤルブルネイ航空で!
多種多様な動植物が息づくボルネオ島に行く際は、ブルネイの国営航空会社の「ロイヤルブルネイ航空」を利用するといい。成田空港からブルネイへの直行便を週4便(日、月、水、金)運航しており、約6時間30分のフライトでボルネオ島(ブルネイ・ムアラ地区)へと辿り着くことができる。
ロイヤルブルネイ航空は「小さな心配りが、特別なおもてなし」というモットーを掲げ、高いホスピタリティで快適な空の旅を届けている。その確かなサービスは、世界中の航空サービスをリサーチし評価するスカイトラックス社で4つ星、APEXで最高の5つ星の評価を受け、ワールドクラスの航空会社として知られているのだ。
またロイヤルブルネイ航空は、ブルネイのムアラ地区にあるブルネイ国際空港を拠点に、ボルネオ島内はもちろん、近隣のシンガポールやクアラルンプールをはじめ、メルボルン、ロンドン(ドバイ経由)、ドバイへも直行便を運航している。
ブルネイの正式名称「ブルネイ・ダルサラーム」とは“永遠に平和な国”という意味。国土の7割が熱帯雨林という豊かな自然と、豊富な資源により、優しさに満ちた人々が暮らす魅惑の島へ、ロイヤルブルネイ航空で旅してみてはいかがだろうか。