
ジャングルプランツの宝庫、ボルネオ島へ 〜前編〜
世界一有名なブセファランドラの、“本物”探しへ
世界中を巡り、まだあまり知られていないジャングルの植物を紹介している植物探検家の長谷圭祐さん。そんな長谷さんと今回、自生地探検に行く計画を練り、決まった行き先はボルネオ島の「ブルネイ」。
熱帯雨林植物の宝庫といえば定番のボルネオ島だが、特に北半分はさまざまな地形を有し、多様な植物がある。中でも飛び地的にあるブルネイ領の内情はなぜかあまり知られておらず、またブルネイに隣接するマレーシア領ボルネオのエリアも情報が少ないので面白いのではないか、という。
ブルネイは、ボルネオ島北部にある国で、ちょうど日本の三重県くらいの大きさだ。東京からはロイヤルブルネイ航空の直行便で約6時間。アクセスも良く、熱帯植物好きなら一度は行ってみたいと願うボルネオ島にありながら、なかなか情報が出てない、ってことはなにか不都合なことがあるのでは?
散々ボルネオ島を訪れている長谷さんもなぜ行ってなかったのか?
「うーん、知り合いもいないし、検疫などに関する情報もあまりないし、そもそもマレーシア側でも見られるものが多いんじゃない?という感じじゃないですかね」。
そんなふんわりとした理由でボルネオ島に未知のジャングルが残ってくれているならありがたい限りだ。こうして「知っているようで知らないボルネオ島」の旅は始まった。
BRUNEI-MUARA DISTRICT/ブルネイ・ムアラ地区


旅のスタートはブルネイのムアラ地区から。ここは、今回の旅における長谷さんの大きなテーマの一つである「ブセファランドラモトレイアナ」の真相解明のための第一歩となる。モトレイアナといえば、ブセファランドラ属として初めて記載された種で、ブセファランドラを知る人なら誰もが一度はこの名を聞いたことがある世界一有名な普及種だ。ところが、それらすべてが実は本当のモトレイアナではない、という不思議な状態なのだという。
「1858年にモトレイアナが記載されているのですが、そのオリジナルの標本を採集した植物学者のジェームズ・モトリーが、標本のローカリティを残さないまま、バンジャルマシン戦争で殺害されてしまったので、どこで採取した標本なのかわからず……。160年くらい行方知れずになっていた、幻のブセファランドラなんです。
2022年にマレーシアの植物探検家マイケル・ローさんのチームが、記載論文や標本などを照らし合わせて、ボルネオ島北部のこれまでブセファランドラ オブランセオラータとされていたものが、実は本物のモトレイアナなんじゃないか、と突き止めて。そんな真のモトレイアナと思われるブセファランドラを、まずはなにより見てみたいと思い」。ということで、マレーシアから来たマイケルさんとも合流し、ムアラ地区の森へ入り、細く緩やかな川を上っていくと、早速岩場にブセファランドラらしき植物が。
ブセファランドラ モトレイアナ
Bucephalandra motleyana
世界一普及するブセファランドラだが、実は現在流通するモトレイアナは、別のなにか。記載されている正真正銘のモトレイアナは、ボルネオ島北部のこのエリアのものだとされる。

Bucephalandra motleyana
世界一普及するブセファランドラだが、実は現在流通するモトレイアナは、別のなにか。記載されている正真正銘のモトレイアナは、ボルネオ島北部のこのエリアのものだとされる。
ペンタフラグマ不明種
Pentaphragma sp.
1科1属となるペンタフラグマ科ペンタフラグマ属のおそらく未記載種。研究が進んでおらず、ボルネオ島の各所から未記載種と思われるものが確認されている。

Pentaphragma sp.
1科1属となるペンタフラグマ科ペンタフラグマ属のおそらく未記載種。研究が進んでおらず、ボルネオ島の各所から未記載種と思われるものが確認されている。
ベゴニア ノソバラメンシス
Begonia cf. nothobaramensis
葉にツノが生える面白い個体。日本で流通するノソバラメンシスとはやや形態が異なるものの、個体差の範疇(はんちゅう)だと思われる。葉の形状、色、模様など変異が大きい。

Begonia cf. nothobaramensis
葉にツノが生える面白い個体。日本で流通するノソバラメンシスとはやや形態が異なるものの、個体差の範疇(はんちゅう)だと思われる。葉の形状、色、模様など変異が大きい。
「お、これは、モトレイアナっぽいですね」と咲いている花を念入りに調べる長谷さん。「最終的に研究者に判断してもらわないと断言はできないですが、花や葉の感じも、記載されているモトレイアナ、という感じがしますね」
念願のモトレイアナに出会うも、わりと淡々と観察する長谷さん。ついに会えた!みたいなのとかは、あまりない?
「まぁ、最初見た時は、おっ!ってなりましたよ。数年前にはこれを探して、全然違うエリアで無駄に山中泊もしましたから」。モトレイアナの真贋と同じくらい長谷さんの感動の度合いもわかりづらい。
WESTERN LIMBANG DIVISION, MALAYSIA/マレーシア・リンバン省西部


次にブルネイから陸路で国境を越えて一度マレーシア側に渡り、リンバン省西部へ。ジャングルへ入ると、ネペンテス ラフレシアナやアンプラリアがボコボコとある。「なんかいろんな種が混じったような中間的な特徴のネペンテスがあたり一帯にありますね」。そして、この川では、ブセファランドラの中で最小種の一つであるホマロメナ ミヌティッシマ近似種を見ることができた。
「小型という意味ではもっと小さいのもありますが、葉の細さという意味では最細の種です」。その後、一行はマレーシアを後にして、再びブルネイに入り、内陸のウルトゥンブロン国立公園のロッジに宿をとった。
ホマロメナ ミヌティッシマ
Homalomena cf. minutissima
sp. Limbangとして流通する小型のかわいいホマロメナ。流れが緩やかな渓流の岩盤に群生していた。現在確認されている中では最も葉が細いホマロメナではないだろうか。

Homalomena cf. minutissima
sp. Limbangとして流通する小型のかわいいホマロメナ。流れが緩やかな渓流の岩盤に群生していた。現在確認されている中では最も葉が細いホマロメナではないだろうか。
ネペンテス ラフレシアナ
Nepenthes rafflesiana
東南アジア広域に分布する大型のウツボカズラ。模様の美しい個体が人の顔ほどもある大きなピッチャーを付けていた。周辺には交雑した個体も散見された。

Nepenthes rafflesiana
東南アジア広域に分布する大型のウツボカズラ。模様の美しい個体が人の顔ほどもある大きなピッチャーを付けていた。周辺には交雑した個体も散見された。
フィマタルム ボルネンセ
Phymatarum borneense
ブルネイより記載された1属1種のサトイモ科。水中適性が高く、産地によっては水草として川底を覆っていることも。

Phymatarum borneense
ブルネイより記載された1属1種のサトイモ科。水中適性が高く、産地によっては水草として川底を覆っていることも。
エトリンゲラ ブレヴィラブルム
Etlingera brevilabrum
美しいまだら模様の葉を持つ、大型のショウガ科の植物。ボルネオ島の熱帯雨林では欠かせない種の一つである。

Etlingera brevilabrum
美しいまだら模様の葉を持つ、大型のショウガ科の植物。ボルネオ島の熱帯雨林では欠かせない種の一つである。
ラフィドフォラ メガスペルマ
Rhaphidophora megasperma
下葉に光を当てるためか、虫食いに擬態しているのか、主脈に沿って不規則な穴が並ぶ大型のサトイモ科クライマー。

Rhaphidophora megasperma
下葉に光を当てるためか、虫食いに擬態しているのか、主脈に沿って不規則な穴が並ぶ大型のサトイモ科クライマー。
ネペンテス アンプラリア
Nepenthes ampullaria
ピッチャーを地面に敷き詰めるように群生し、虫ではなく落ち葉などを分解して栄養にしている。

Nepenthes ampullaria
ピッチャーを地面に敷き詰めるように群生し、虫ではなく落ち葉などを分解して栄養にしている。
憧れのボルネオ島へは、ロイヤルブルネイ航空で!
多種多様な動植物が息づくボルネオ島に行く際は、ブルネイの国営航空会社の「ロイヤルブルネイ航空」を利用するといい。成田空港からブルネイへの直行便を週4便(日、月、水、金)運航しており、約6時間30分のフライトでボルネオ島(ブルネイ・ムアラ地区)へと辿り着くことができる。
ロイヤルブルネイ航空は「小さな心配りが、特別なおもてなし」というモットーを掲げ、高いホスピタリティで快適な空の旅を届けている。その確かなサービスは、世界中の航空サービスをリサーチし評価するスカイトラックス社で4つ星、APEXで最高の5つ星の評価を受け、ワールドクラスの航空会社として知られているのだ。
またロイヤルブルネイ航空は、ブルネイのムアラ地区にあるブルネイ国際空港を拠点に、ボルネオ島内はもちろん、近隣のシンガポールやクアラルンプールをはじめ、メルボルン、ロンドン(ドバイ経由)、ドバイへも直行便を運航している。
ブルネイの正式名称「ブルネイ・ダルサラーム」とは“永遠に平和な国”という意味。国土の7割が熱帯雨林という豊かな自然と、豊富な資源により、優しさに満ちた人々が暮らす魅惑の島へ、ロイヤルブルネイ航空で旅してみてはいかがだろうか。