競馬歴30年の麒麟・川島明が語る、年末の風物詩、有馬記念の思い出

ファン投票によって出走馬が選ばれる年末の大一番、有馬記念。競馬ファンにとって「有馬記念を観なければ、年を越せない」というほどの風物詩になっている。「競馬はもはや生活の一部」という麒麟・川島明さんに、思い出のレースを通じて、有馬記念の魅力について語ってもらった。

photo: Taro Hirano / stylist: Mikiko Taniuchi / hair & make: Yuri Kitahara / text: Toshiya Muraoka

間近に迫った有馬記念で、ドラマチックな年末を

10代前半で競馬に目覚め、高校生の時には仲間たちのために競馬新聞を自ら作って回し読みをしていたほどの生粋のファンである川島明さんにとっても、有馬記念は特別なレースという。年末の超多忙の中でもどうにか時間をつくって、千鳥のノブさんやナイツの土屋伸之さんら、芸人仲間と集まるのが恒例行事で、本番1週間前からはグループLINEでの予想がずっと止まらない。

「月曜から土曜までに本命を7頭くらい変えるんですよ、絶対に答えはもう出ているのに」と、ギリギリまで予想を楽しんでいるという。では有馬記念の何がそれほどまでに特別なのか、川島さんに解説してもらった。

「何せドラマチックなんです。有馬記念のコースは2500メートルと通常のレースよりも距離が長く、しかも中山競馬場には日本一高低差の大きい坂がある。速いだけでは勝てないんですね。最後の馬力が必要で、波乱が起きることもある。決してエリートが必ず勝つレースではないんです。

例えば芸人にとってのM-1グランプリは、競馬における日本ダービーに近いと思うんですね。漫才師はM-1に向けて頑張っているけれど、向き不向きがあるから、人間はおもろいけれど勝てない人たちがいる。有馬記念は、M-1王者も、存在がおもろい芸人も、どちらにもチャンスがあるレースと言えるかもしれない。有馬記念は、オールスター戦なんです。人気、実力を兼ね備えた馬しか出ることができないレースですから」

有馬記念の出走馬はファン投票によって選ばれ、昨年の投票数は、なんと502万票強。川島さんが語るように、一年の総決算として有馬記念がある。

競馬の写真と川島明
思い出のレースを振り返る川島さん。パネルは第39回有馬記念。

金色に輝くオルフェーヴルが今も目に焼き付いている

競馬の写真と川島明
騎乗した池添謙一騎手と、オルフェーヴルの最後の勇姿を思い出しながら、「圧倒的に強かった」と川島さん。

もう30年以上、有馬記念の観戦を続けている川島さんには、いくつかの思い出深いレースがある。第58回、2013年の有馬記念は、暮れの中山競馬場に足を運び、オルフェーヴルの最後の勇姿を目に焼き付けた。

「引退レースということで、千鳥のノブと二人で観に行ったんですが、もうとんでもない数のファンがいましたね。オルフェーヴルは、一筋縄ではいかない馬なんです。レースが終わった後にすぐに引退式が行われたけれど、なかなか会場に出てこない。あっという間に日が暮れて真っ暗になった会場に、ものすごい数のフラッシュが光ったんです。オルフェーヴルの金色の馬体が輝きながら歩いてくる。筋肉ムキムキでまだ走れるだろうっていう仕上がりで、まるで馬が引退したくないって拒んでいるようで、圧倒的に美しかったことを覚えています」

競馬の写真と川島明
ヒシアマゾンが1着でゴールした第19回エリザベス女王杯の写真を見ながら「ただ強いというよりも、出遅れてしまったり、不器用な馬が好き。ヒシアマゾンも、そんな馬でしたね」と川島さん。

もう一つ、深く思い出に残っているレースが、川島さんの「初恋の馬」であるヒシアマゾンが出走した第39回の有馬記念だ。競馬にのめり込むきっかけの一頭となったヒシアマゾンが、三冠馬であるナリタブライアンに挑んだレースだった。

「僕は本当に運が良かったんですが、ナリタブライアンとヒシアマゾンという、三冠馬と横綱がいっぺんに生まれたような年に競馬を始めたんです。この2頭が、故障やスランプもありつつ、その後の競馬界を引っ張っていくんですね。圧倒的に主役になれる2頭と出会えたことは、競馬人生でもっとも幸運なことかもしれない」

実家近くの京都競馬場で、初めてパドックでヒシアマゾンを観た際に、アマゾンの名の通り荒々しい姿だったのが印象的だったという。今でもヒシアマゾンがプリントされたTシャツを大切に着ているほど思い入れは深い。有馬記念でナリタブライアンと競り合うことができたのも、ヒシアマゾンだからこそ。他を圧倒する2頭のレースは、往年の名勝負として刻まれている。好きな馬を見つけることは、競馬の世界へと足を踏み入れる最良の方法と言える。

往年の名レースは、何度観ても飽きることがない

川島さんは、晩酌をしながら過去のレース映像を振り返ることもしばしばあり、頭の中には思い入れのあるレースの展開はすべてインプットされているという。すでに何十回観たかわからない、2013年のオルフェーヴルの引退レースを改めて観てもらった。ジョッキーの池添謙一さんとのコンビネーションが素晴らしかったという。

「序盤の場所の取り合いも面白いんですね。オルフェーヴルは馬が渋滞して前に出られなくなることが一番嫌なので、最初は低いポジションで構えているんです。でも、最後のコーナーを回るあたりで、一瞬で出てくる。もちろん他の馬もマークしているんです。でも、『何が起こったんだ?』っていうくらい一瞬で外に出て、圧倒的なスピードで引き離していく。全力疾走でゴールした後にもケロッとしていて、引退するなんて信じられないくらい。そして、ゴールした後にも池添さんはガッツポーズしないんですね。下手に手を上げて喜んでいたら、振り落とされてしまうから。それくらい、オルフェーヴルは賢くて、意志が強い馬だった」

ドラマが生まれる有馬記念で、年を越す準備ができる幸福

第70回有馬記念のポスターと麒麟・川島明さん
今年で第70回を数える歴史あるレース、有馬記念。川島さんも仕事をどうにかやりくりして、仲間と観戦する予定だ。

「有馬記念は、年末ジャンボ感があるから、一年の締めくくりとして楽しく勝負するには最高です」と川島さん。初めて競馬に挑戦する人にとっても、最適のレースという。

「有馬記念から入るのはめちゃくちゃいいと思いますね。中国の歴史を知らなくても漫画『キングダム』が面白いように、過去の歴史を知らなくても、有馬記念は最高ですから。競馬は、ずっと続いている大河ドラマのようなものなんです。

今年の有馬記念にはどんな出走馬が揃うのか、今から楽しみです。予想が止まらないですがどう転んでもドラマが生まれるでしょうね」

「生きている限り、競馬をやめるなんてない」と笑う川島さん。一年の頑張りを労らいながら、競馬が繋いでくれた友と盃を交わす。その幸福を味わうことのできる有馬記念がもうすぐやってくる。

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