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俳優ジョン・マガロを探すことが、2024年、良作映画と出会うための秘訣です!

ジョン・マガロという名前に聞き馴染みのある人は、まだまだ少ないかもしれない。しかし、先頃公開されたケリー・ライカートの傑作『ファースト・カウ』のあのドーナツ屋と言えば、ピンとくる人も多いだろう。それにしても、アメリカの開拓時代を描いた西部劇において、あれほど非マッチョな文化系男子を主役にした映画がかつてあっただろうか。そのクッキーという役を見事に演じたのがジョン・マガロである。

text: Mikado Koyanagi

気鋭から巨匠までラブコールが止まらない俳優

まず印象に残るのは目元だ。同世代のフランスの人気俳優ヴァンサン・マケーニュも彷彿とさせる、やや下がった目尻が、優男の雰囲気を醸し出す。いや、それだけではない。瞳そのものも、イノセントな光を放っているかのようだ。ライカートも、彼を主演に抜擢した最大の理由は目だと、かつてあるインタビューで語っていたように。

オハイオ州の田舎町で生まれ育ったマガロは、高校から演劇を始め、その後ニューヨークに出て俳優活動を行うようになったが、もともと不安神経症を抱えていたこともあって、この世界での成功をそれほど期待してはいなかったという。そんなマガロに転機が訪れたのは、2015年のことだった。この年、トッド・ヘインズの『キャロル』で、ルーニー・マーラ演じるテレーズに絡むニューヨーク・タイムズの記者を、また、アダム・マッケイの『マネー・ショート 華麗なる大逆転』で、サブプライム住宅ローン危機の中で、空売りで儲けたトレーダーの一人を演じたのだ。どちらも高い評価を受けた話題作だったこともあり、マガロの存在は一躍注目されるようになった。

特に、ヘインズの『キャロル』に出たことは大きかった。ヘインズといえば、ライカートの師匠格の存在で、そのことも、『ファースト・カウ』での主役抜擢の後押しになったようだが、続く『ショーイング・アップ』でも、ミシェル・ウィリアムズ演じる主人公の彫刻家の、神経症気味で突飛な行動をする厄介な兄を演じているのだ。

『ファースト・カウ』
ケリー・ライカートの7作目。生き馬の目を抜くような開拓時代のアメリカで、ドーナツで成功を夢見たマージナルな男たち2人の友情を描いたライカート流西部劇の傑作。マガロは主人公のクッキーを演じる。現在も一部の劇場で公開中。
『ショーイング・アップ』
ケリー・ライカートの最新作。米・ポートランドのインディペンデントなアートシーンで切磋琢磨する女性アーティストたちの日常を描く。ミシェル・ウィリアムズ主演。マガロは、その彫刻家の神経症気味な兄を演じる。U−NEXTで配信中。

乗り遅れたくない、マガロの快進撃

また、『キャロル』の脚本を書いたフィリス・ナジーの初監督作の『コール・ジェーン −女性たちの秘密の電話−』でも、その縁もあってか、ワンポイントながら魅力的な役を与えられている。

この映画は、人工妊娠中絶が違法だった1960年代のアメリカで、望まない妊娠をした女性たちの駆け込み寺となった〈ジェーン〉という、女性たちによるアンダーグラウンドな支援団体の活動を描いたものだ。その映画で、マガロは、その団体の摘発にやってきたのかと思いきや、実は友人の女性を助けてほしいと依頼をしに来た、ヒッピー然としたリベラルな刑事役をやっている。

『コール・ジェーン −女性たちの秘密の電話−』
『キャロル』の脚本家フィリス・ナジーの初監督作。人工妊娠中絶が違法だった頃のアメリカに実在した非合法の中絶の支援団体〈ジェーン〉の活動を描く。エリザベス・バンクス主演。マガロは謎の刑事を演じる。3月22日、全国公開。

さらに、マガロの快進撃は続く。今年最も注目されているA24映画で、すでにアメリカではあまたの賞を受賞している『パスト ライブス/再会』にもマガロは出ている。

初恋同士だった幼馴染みの韓国人の男女が、女性の方がカナダに移住したことで離れ離れになり、彼女はその後結婚してアメリカで暮らしているのだが、ずっと彼女への思いを抱いていた男性が急にニューヨークにやってくることになり、2人は24年ぶりの再会を果たす。そのことで、妻の気持ちがどう揺れ動くのか、夫は気が気ではないのだが、マガロはその難しい夫役をこの上なく繊細に演じているのだ。

『パスト ライブス/再会』
韓国系の女性監督セリーヌ・ソンのA24からの長編デビュー作。韓国人の幼馴染み同士の初恋の、その後の24年の軌跡と再会を描く。主演にグレタ・リー、ユ・テオ。マガロは、女性の結婚相手の作家を演じる。4月5日、全国公開。

実は、マガロの私生活上の妻も韓国系の女性で、マガロはこれほど等身大の役柄を演じたことはなかったというが、3人がバーカウンターに並んで飲むシーンでの、不安を抱きながらも、出しゃばることなく、2人の成り行きを優しく見守るかのような、マガロの距離の取り方や空気感の出し方など、まさに絶妙としか言いようがない。それは、映画を超えて、今あるべき男性の理想像を示しているかのようだ。

ジョン・マガロの時代が間違いなくやってくる。みなさんも、ぜひその目で確かめてほしい。