Wear

Wear

着る

〈ジル サンダー〉ルーシー&ルーク・メイヤーが語る、色と感情の関係

カラフルな洋服は着る人の気持ちを明るくする。多くのメゾンが華やかなコレクションを展開した今春。中でも強く印象に残った〈ジル サンダー〉を手がけるメイヤー夫妻に、色と感情、そしてクリエイションの関係を聞いた。

Photo: Reiko Toyama / Interview: Sara Waka

ジル サンダーのカラーイメージは?と聞かれたら、ブラックやネイビーといった落ち着いたトーンを思い浮かべるだろう。しかし、今シーズンはどこか違う。

ピンク、パステルイエロー、ライトオレンジ、セージと見るからにパワフルな色使い。「幸福」「希望」といったポジティブな言葉が連想される明るいコレクションに、2人はどんな思いを込めたのか。

ルーシー

今シーズンは、私たちの人生において、とても特別な時期でした。2021年の6月に待望の娘が生まれたのです。この幸福な出来事だけが、パステルやビビッドカラーを選んだ理由ではないのですが、無意識のうちに「明るい未来」を望む思いが強くなったことは間違いありません。

それに加え、今も続くパンデミックから逃げ出すのではなく生き抜くことで、より明るくエネルギッシュな時代を迎えることができる。そのためのポジティブな感情を得るためにも、色選びは重要です。

ルーク

今までのように大好きな場所への旅行ができなくなり、家で過ごす時間が当たり前に。ありきたりな日常が続く今だからこそ、今シーズンは気持ちを明るくしてくれる色にこだわりました。

パワフルな色が恋しくなったのは僕だけではないはずです。優しく包み込むようなナチュラルトーンやパステルカラー、活気のあるビビッドな色合いは僕たちに再び感情の高まりを与えてくれる。

そしてそれだけでなく、自身の価値観や視点、感情を表現できるパワフルな色を使おうと。言葉にせずとも好きな色を選び身に着けることで、誰もが個性を表現できることを伝えたかったのです。

以前、自身のクリエイティビティに関して「削ぎ落としていった先にあるシンプルなエモーションを大切にしている」と語っていた2人だが、“色”というファクターを加えたことで、服作りのバランスに変化はあったのだろうか。

ルーシー

サイジングやパターンは特に変えていませんが、カラーリングが重要な役割を果たしています。多くの人々がクローゼットに溢れ返るほどの服を持ち合わせている今でも、“色”は人を惹きつけます。

それは、色が私たちを幸せな気持ちにしてくれるからです。30年以上にわたり、ブラックやネイビーのコートを作り続けているこのブランドにおいても、異なるテイストを取り入れることはとてもいいことだと思います。

ルーク

色によって印象は大きく変わるということを、今回のコレクションで証明できたのではないでしょうか。シンプルなフォーム、ピュアなラインカットやテーラリングに色を組み合わせることで、イメージやコンテクストを変えることもできるのです。

例えば、とてもエレガントな素材のジャパニーズウールを使ったロングコートに温かく柔らかなピーチカラーを合わせることで、楽観的でフレンドリーな雰囲気を演出し、新しいバランスを作り上げました。

僕たちはクリエイションを通して物事をポジティブに見せる方法を探ってきましたが、今季はそのツールとして色を用いるのが面白いと考えたのです。

着る人が明るい気持ちになれる服作りを心がけていると語る2人だが自身の感情や気分がクリエイションに影響を与えることは?

ルーク

感情や気分は、僕たちのクリエイションに大きな影響を与えています!

コレクションが僕たちのクリエイションを伝える媒体である以上、自身の視点や物事に対する感情をそこに投影し表現することは本当に重要なこと。今は特に、僕たちのコレクションで人々を少しでもポジティブなマインドにできたらという「希望」が、制作における重要なモチベーションなんです。

クリエイションを通じて何ができるだろうかということを、いつも考えています。

ルーシー

パンデミックに執着したくはないですが、ポストコロナは私たちの未来でもあるのです。それをどう生きるかが今後のカギとも言えるのではないでしょうか。
だからこそ、すべての人に、明るくポジティブな時間を過ごしてほしいという願いが、今回のコレクションに反映されています。

色もグラフィックも素材も
「自由」に楽しむことが大切。

今季のジル サンダーに見られた新鮮さは色だけではない。ツバがスクエアなベースボールキャプや襟元を隠すスカーフ、ナンバリングを配したセーターにスーパーのプライスタグから着想を得たニットベスト……。

ルークの原点ともいえる“ストリート”のエッセンスが落とし込まれたアイテムたちも、その要因の一つだ。

ルーク

遊び心を表現したくて。フレッシュなカラーに加えて、グラフィックの要素を盛り込みました。手の届かない高価なアイテムではなく、身近に感じられるようなエッセンスを取り入れることで、日常の中に美やアートを見出す喜びを表現したかったのです。

ルーシー

ルークも言っていたように、旅を恋しく思う気持ちも今回のコレクションにつながっています。誰もが旅先でほかの都市からエネルギーやインスピレーションを受けていた頃を恋しく感じていることでしょう。

だからこそこのコレクションでは、多様性に溢れる大都市をイメージさせるようなエキセントリックな個性を追求しました。

例えば、強い色彩に始まり、大きなポケット、コントラストの効いた銅製のジッパー、ウールモヘアにヒョウ柄のプリントなど。思わず街に繰り出したくなるようなファッションや型にはまらないファッション、纏っているだけで個性的に感じられるコレクションを実現させたかったのです。

鮮やかなカラーリング、遊び心あるストリート感、そして根底を支える美しいテーラリングや素材使い。すべてが絶妙なバランスで絡み合い、今までにない新鮮なコレクションに仕上がったというわけだ。

2人が掲げたシーズンテーマの一つ「自由」のごとく、彼ら自身がクリエイションを自由に楽しんだように感じられた。

ルーク

そう感じてくれたことはとても嬉しいことですし、そうでなくてはならないと思っています。僕たちは、常にベストを追い求め、最大限の努力をしています。それは、時にとても厳しい作業です。しかし同時に、僕たち自身もその過程を楽しむべきなのです。

ルーシー

実際のところ、どのコレクションを作る時もワクワクしています。どんなに経験を積んでも、新しいものを作り出す時や、自分のクリエイションが誰かのインスピレーションになる瞬間は興奮が巻き起こり、期待と喜びで胸が高まります。

ルーク

僕たちは、一つのアイデアにとらわれるのではなく、「自由」にクリエイションすることを心がけています。

だからといって、今まで手がけてきたコレクションを崩してゼロから作り上げるのではなく、「進歩」を大切にしています。 ブランドの持つスタイルに少し遊びを加えてみたり、人々を驚かせるような意外なアイデアを提案してみたり。

でも、それがどこかで、僕たちが築いてきたストーリーにつながっていたりもします。ブランドとしてのストーリーの延長上にある新しいアイデアを「進歩」としてつなげていけるようなクリエイションを目指しているのです。

〈ジル サンダー〉共同クリエイティブ・ディレクター/ルーシー ルーク・メイヤー
(左)ルーシー・メイヤー、(右)ルーク・メイヤー。