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ジャズ喫茶とリスニングバーの名店が寄稿する、ディスクリコメンド。Vol.1

日本のジャズシーンを支え、豊かにしてきたジャズ喫茶とリスニングバー。日々ディグを欠かさない店主の選曲は、いつも新しい音楽を教えてくれる。好調なシーンに呼応するように、新しいジャズをかける店が増加中。全国15の名店が寄稿するディスクリコメンド!

photo: Masanori Kaneshita / text: Ryota Mukai (Silencio, Hello Dolly)

LISTEN(神奈川・横浜

店主・長谷川直哉

Q1:2023年、一番かけた一枚は?

『Oh My Beloved』Purnamasi Yogamaya

オープンして間もない店に幅広い世代の方が訪れる中、店内で過ごす限られた時間に居合わせるどの方にも響く作品とは、と選ぶ時このレコードを最もかけた。プルナマシは非常に優雅で慈悲深い人、ヨガマヤは自分の心の中で精神的な現実と愛の本当の深さにつながる人、を意味する。これからも彼女の音楽を美しいと思う心を持ち続け、分かち合いたい。

Q2:近年登場した好きなプレーヤーと、その魅力を感じる一枚は?

『Sen Am』Duval Timothy

フランク・オーシャンのプレイリストでデュヴァルの作る音楽を知り、魅了されている。彼の真髄が滲(にじ)み出ている作品はこの一枚である。立ち現れてずっと一緒にいられると思うのに、すぐに姿をくらますような儚(はかな)い存在感。動画サイトに上がっている収録曲「Whale」のライブは必見。彼を取り囲む人々の眼差しが物語っていて何度観ても涙が自然とこぼれる。

Q3:最近手に入れ、2024年たくさんかけていきたいと思う一枚は?

『蔭凉寺ライヴ』Sławek Jaskułke

これまでアルバムで聴いた曲が全く違う次元に到達している。3曲目から4曲目への連なりを聴き終えた時、あなたの寂しさは優しく抱きしめられるはずだ。渋谷〈Bar Music〉の中村智昭さんから「日本で一番彼の名を広める人になれ」と命じられてから時機を捉えて彼の作品を再生し、多くの人の耳へ届けてきた。働く場所が変わっても役目は変わらない。

Q4:閉店後に自分のためにかけたい、個人的お気に入りの一枚は?

『The Wind Collector』Gigi Masin & Alessandro Monti

Gigi Masin & Alessandro Monti『The Wind Collector』
自分が音楽を聴き続ける理由を最も率直に言うと「鎮めるため」である。この作品には生を喜ぶ陽光、辿ってきた時を見つめるエレガンス、そしてすぐ隣り合わせにある死までもが詰まっている。Windは「変化への意志」を意味するとジジ・マシンは言う。悲しみが隠すことなく表されその先に一筋の光が差し、聴くとなんとか歩みを止めずに進もうと思える。
横浜〈LISTEN〉店内
2023年11月に横浜にオープンしたリスニングバー〈LISTEN〉。スピーカーはBBCにも使用される英国の〈Harbeth〉製。

ダウンビート(神奈川・横浜

店主・吉久修平

Q1:2023年、一番かけた一枚は?

『Dinner Music』Carla Bley

もともと当店ではよく流れるアルバムの一枚だったが、カーラ・ブレイ氏の訃報に接してからはより頻繁に流すようになった。特にB面の緩急ついた流れが美しく、それは夜のジャズ喫茶の賑わいと落ち着きをそのまま体現するかのようなムード。数多くカバーされている至高の名曲「Ida Lupino」はこのアルバムに収録されているバージョンが一番好きです。

Q2:近年登場した好きなプレーヤーと、その魅力を感じる一枚は?

『Gold』Alabaster DePlume

全体的にスピリチュアルでアンビエント的だが、それだけの言葉では説明し切れない不思議なメロディの楽曲で構成されている。サックスの吹き方も特徴的。太い音ではなくかすれた細い音を鳴らし、それがオリエンタルな楽曲においてはまるで二胡のように響く。インタビューから窺える彼の人間性も含めて、今後もチェックしたいミュージシャン。

Q3:最近手に入れ、2024年たくさんかけていきたいと思う一枚は?

『Family』Gard Nilssen's Supersonic Orchestra

ピアノレスのオーケストラバンド。変拍子のうねるグルーヴに乗って強烈な熱量で演奏される楽曲のテーマは一見キャッチーだが、ジョン・ゾーンのようなクレズマー風のメロディが挟み込まれたり、超フリーキーなソロがバンバン放たれたりする。その展開の激しさと構成の豊かさはジャズ喫茶でじっくり聴いて味わいたくなる。たくさん流します。

Q4:閉店後に自分のためにかけたい、個人的お気に入りの一枚は?

『Sunset Mission』Bohren & Der Club of Gore

10代の頃、ドゥームメタル/アンビエントなどを聴いているうちに知ったバンド。意外と活動歴は長いが音楽性はずっと変わらず、スローで陰鬱なジャズをやることに徹底している。訥々(とつとつ)と紡がれるテナーサックスの音がやけに耳馴染みがよく、閉店後の疲れた気分をさらに奥底まで沈み込ませてくれる。店の片づけは全くはかどらない。

Bar meijiu(東京・飯田橋

店主・松本圭祐

Q1:2023年、一番かけた一枚は?

『Blues and Bells』Siril Malmedal Hauge & Kjetil Mulelid

透明感のあるシーリル・マルメダール・ハウゲのボーカルに寄り添うようなシェーティル・ムーレリッドのピアノが美しいデュオアルバム。ジャズスタンダードを中心にニック・ドレイク、ボニー・レイット、コクトー・ツインズなど選曲も素晴らしい。普段から小編成の音楽が好きで選盤することが多いのですが、特にこのレコードに何度も針を落としました。

Q2:近年登場した好きなプレーヤーと、その魅力を感じる一枚は?

『Through the Blurry Window』Chin Sooyoung

最近は韓国のジャズシーンが気になって色々と聴いているんですが、今特にお気に入りなのがジャズピアニストのジン・スヨン。中でも写真家ソール・ライターの展示会のためのサウンドトラック『Through the Blurry Window』はどこかメランコリックで温かみのあるピアノソロアルバムでおすすめの一枚です。只今レコード探し中。

Q3:最近手に入れ、2024年たくさんかけていきたいと思う一枚は?

『Gabrielle Cavassa』Gabriel Cavassa

ガブリエル・カヴァッサは、2023年ブルーノートからリリースされたジョシュア・レッドマンのアルバムにも大々的にフィーチャーされていたジャズボーカリスト。気になってデビューアルバムをチェックしてみたらあまりにも素晴らしくて即オーダー。都会的でメロウなオリジナルのバラードを少し気だるいムードで歌い上げるカヴァッサのボーカルが最高です。

Q4:閉店後に自分のためにかけたい、個人的お気に入りの一枚は?

『Solo』Paul Brändle

今最も好きなジャズレーベル〈Squama〉のジャズクインテット〈Fazer〉のギタリスト、ポール・ブランドルによるソロギターアルバム。空間をたゆたうように、物憂げに爪弾かれるギターの音色が仕事終わりの疲れた体に染み入る。中でもアイルランドの民謡「Danny Boy」のカバーは、奥行きのある滋味深い演奏で、何度聴いても心を打たれてしまう。