レックス・ブロンディンと共に、〈Church of Sounds〉(以下CoS)を立ち上げた、スペンサー・マーティン。教会でジャムセッションを行うというアイコニックな企画でもあるこのイベントは、いかにして生まれたのだろうか。
「教会とジャズに関連があってこのイベントを始めたわけではないんだ。僕自身、教会のオルガニストでもあったし、バンドマンとしてよくリハーサルもしていたから、もともと身近な存在だったんだ。2014年に初めてTRCでギグをした際にレックスと仲良くなった。
ちょうどその頃彼はTRCの騒音問題で困っていた。そんなタイミングで何回か僕が教会でリハーサルしているところに来たことがある。そうこうしているうちに教会で何かギグができれば面白いかも、というアイデアが2人の中で自然と膨らんでいったんだ」
その後開催できる教会探しが難航するなど紆余曲折がありながらも、2016年4月に、イーストロンドンのクラプトンにある聖ジェームス教会でユセフ・デイズとカマール・ウィリアムスによる1回目のイベントが開催された。
しかし、それだけでは、ロンドンシーンで注目されるイベントにはならない。アーティスト、関係者、観客がステージを囲むように円形に配置された空間で自由にご飯を食べながら演奏を聴く、そんな特別感が、スペンサーが感じるこのイベントの魅力だという。そして、ほとんどの企画は、彼とレックスの2人がミュージシャンを選ぶ。それぞれの人脈、なにより、キュレーターとしての視点の鋭さが、このイベントをここまで著名にしたのではないだろうか。
ロンドンの多様さが、ジャズの壁をなくした
2017〜18年が、CoSにとっても、UKジャズシーンにとってもエポックメイキングな時期だった。
「そのタイミングでCoSが色々なミュージシャンと共にギグを企画できたのは良かった。それらのイベントがあったからロンドンのシーンはCoSが中心だったという人がいるのかもしれないけど、好きな人をキュレーションして集めていたら結果そうなったという感じ。色々なルーツ、スタイルを持った一つのジャンルにくくれないミュージシャンがたくさんいたこと。それがロンドンジャズの形で、多様性がある。
コラボレーションしながら多くのミュージシャンがスケールアップしていく風土があるんだ。お客さんも色々な音楽を聴いている人が多く多様性を受け入れる土壌があると思う。正直捉えどころがないのが今のジャズかなと思うよね。いわゆるこれがジャズだという定義がほとんどなくなっている感じというか。様々な音楽のジャンル、民族、文化があるロンドンだからこのようなアウトプットになったのだと感じるし、だからこそジャンルの壁が消えているんだよね」
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スペンサーが選ぶUKの“今”を知る5枚
UKジャズ界の重鎮である、トランペッター、イアン・カーによるバンドの70年代の名盤。2021年にリマスター盤で復刻。UKジャズの歴史を振り返るうえでの重要作。
ロンドンの音楽教育機関〈Tomorrow's Warriors〉出身のドラマー、トム・スキナーの別名義によるセッション録音。70年代後半のディスコブームから影響を受けている。
ロンドンジャズシーンに現れたサックス奏者タマール・オズボーン率いるプロジェクトの2ndアルバム。スピリチュアルやアフロビートなどに影響されたサウンドが印象的。
トム・ヨークとジョニー・グリーンウッドらの新プロジェクト〈The Smile〉でも演奏するロバート・スティルマンのアルバム。即興による、アンビエントで実験的なサウンド。
サックス奏者シャバカ・ハッチングス率いるグループの3rdアルバム。近年のUKジャズシーンを代表する一枚。アメリカの名門インパルスからのリリースというのも注目。