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UKジャズを支える重要人物。レックス・ブロンディンが語る、現在地

ロンドンでは、一体何が起きているのだろうか?ここ10年、世界のジャズシーン、さらには他ジャンルにも影響を与えてきた。しかし、その実よくわからない部分も多い。重要人物レックス・ブロンディンに聞いた、UKジャズの現在地。

photo: Jack Orton / coordination: BRUTUS

2010年代後半からロンドンで生まれたジャズのムーブメント。それは、才能あるミュージシャンが多く出現したことも大きな理由だが、もう一つ大きな理由は、そのミュージシャンたちが、クリエイティビティを存分に発揮し、自由に活動できる“遊び場”のような場所があったことが大きい。

その代表が、〈Church of Sound〉、そして、もう一つが〈Total Refreshment Centre〉(以下TRC)。そのどちらの創立にも関わっているのが、レックス・ブロンディンだ。

「約20年前にパリからロンドンに来たんだ。その頃は、サウスロンドンにあったコロラマという元印刷工場の箱で多くの時間を友達と過ごした。そこに住む人々はDIYして、住む環境を作っていたし、劇場、バー、アートギャラリーに加え図書館などもあった。地下にはスタジオがあり上の階にはレイブができるスペースといくつかの寝室があるような場所だった。TRCのインスピレーションの一つは僕がそんなスペースをぶらぶらしてきたことが大きいとも思っているよ」

このDIY精神が、ミュージシャンたちにとっても心地よい空間になり、TRCはシーンのハブとなった。

「TRCがロンドンジャズシーンの中心となったのは最初の頃に出入りしていた人たちが彼らの周りの新しい人を連れてきたり、レコーディングスタジオがあったりしたのも大きいことだったと思う。確か、サックスのシャバカ・ハッチングスとドラマーのマックス・ハレットが一緒にギグをしたのはここが初めてだったと思うし、ユセフ・デイズも1年ほどスタジオを構えていた。そこからユセフ・カマールも始まったんだ」

UKシーンは多様な才能が挑戦できる場所

このようにして、アーティストが互いに影響を与えながら多くの情報を共有して、TRCではコミュニティが形成されていった。それが、そのままUKシーンの魅力にも繋がっていく。

「ここは音楽をやるだけのスペースだとは思っていないんだ。今でも12部屋のスタジオがあり16人程度の人が日常的に出入りしているような場所。多くの人と出会い、気の合った人とハングアウトする。それはアーティストの一つの仕事でもあると思う。そこでの会話から多くのコラボレーションや新たなアイデアが生まれていく。様々なバックボーンが集まるこの場だから生まれたムーブメントだと思う。

現在のジャズに関しては、伝統やそれぞれのルーツを大切にしながらもUKに根づく幅広いサウンドがジャズと融合している側面がある。多くの才能が共同作業しながら多彩にアウトプットしていく。各自が色々なことに挑戦している。その多様性というのが今のUKシーンの面白いところじゃないかな」

〈Total Refreshment Centre〉創立者・LEX BLONDIN

レックスが選ぶUKの“今”を知る5枚

『Where We Come From』Makaya McCraven
シカゴを拠点に活動するドラマーによる一枚。テオン・クロスやカマール・ウィリアムスといったロンドンの若手ミュージシャンとのライブ音源。アルバムジャケットはTRCの天井。
『Transmissions from Total Refreshment Centre』Various Artists
TRCで活動するメンバーが集結し、ブルーノートからリリース。サッカー96、バイロン・ウォーレンらロンドンを代表するミュージシャンを起用。コミュニティを象徴する一枚。
『I Was Not Sleeping』Danalogue, Alabaster DePlume
シンセサイザー奏者のダナローグとサックス奏者であるアラバスター・デプルームのデュオによるTRC録音のアルバム。4曲目は、TRCでの初期セッションから生まれたもの。
『On Our Own Clock』On Our Own Clock
アラバスター・デプルーム、テオン・クロスはじめ、UKを中心とした総勢14人のミュージシャンによるプロジェクト。コロナ禍の影響で、リモートで録音された一枚。
『As Above So Below』Soccer 96
ダナローグとベータマックスことマックスウェル・ホーレットのデュオ。ジャズファンクやニューウェーブディスコなどが融合した音で、シャバカ・ハッチングスも参加。