先生:松下マサナオ(ドラマー)
時空間を自由に率いるジャズドラム
松下マサナオ
ドラムに求められている重要なことは「始まり方」と「終わり方」のセンスだと思います。息が詰まるような緊張状態のイントロから、フレーズ一つで開放的な世界へ連れていくセンス。空気を読み合いつつ「もちろん、こう終わるだろう?」とイニシアチブを取る力。
石塚真一
始まりと終わり、つまりすべての時空間を主導するんですね。
松下
それができているバンドは見ていて気持ちがいいし、場の空気が淀んでない感じがしますね。
石塚
ドラムという楽器の特性は?
松下
管楽器は口で楽器に、ピアノは指で触れる。でもドラムは、スティックやブラシという道具を介して太鼓に触れる。バスドラも足で太鼓を蹴るわけじゃなく、ビーターと連動したペダルを踏んで叩きます。脳の「叩け!」からビーターが太鼓を叩く「ドン」までに段階があるわけで、その連動のスピードを上げる訓練が必要なんです。
石塚
じゃあセッションする時の楽器やメンバーはどう選んでますか?
松下
セッションギグをやる時は、僕が想像し得なかった次元に連れていってくれる人や、おもちゃ箱をひっくり返したような演奏をする人を選びます。崩壊することを全く恐れないメンツの集まった現場が好き。僕もがむしゃらでいたいし、カッコつけてたいですもんね。
石塚
ドラマーは本能的であれ、と。では松下さんにとっていい奏者とは。
松下
楽器の世界では、ジャン!って鳴らした瞬間に奏者がわかる……みたいに言われることがありますが、ドラムの場合、それはフレーズやタイミング、間合いや音色の集合体であり、なんならそこにあるものすべてが含まれると思うんです。だから僕にとって「その人たらしめるもの」は、見た目も大きいと考えています。
例えばジャック・ディジョネットのドラムが大好きなんですけど、彼があの叩き方で、あのセッティングで、あの表情じゃなかったらここまで惹かれないかもしれない。エナジーやエモーショルな部分の話。その場を少し壊すような違和感を持つドラマーに憧れます。
ジャズドラマーとは自分の中に自由な軸を持つ人
石塚
小学生に「どうしたらうまくなるか」と聞かれたらどうしますか。
松下
逆に「なんでうまくなりたいの」って聞きますね。目的が見えていればやることも見えてくるし上達も速い。今ってYouTubeとかで世界中のハイレベルな超若手たちの映像がすぐ観られる。焦りも憧れも嫉妬も同時進行で、レベルアップのスピードが全然速いんです。楽しく練習するだけの時代じゃなくなっている印象は強いです。あくまでプロを目指すならだけど。
石塚
リアルですね。では最後に、楽器によって演奏は変わりますか?
松下
ジャズ箱でのライブ時は基本、会場のものを使うし、あまり関係ないかな。もちろん自分の楽器の方が圧倒的に自由度は高いですよ。
石塚
それは楽器よりも自分の体の方に軸があるということ?
松下
はい……いや、軸が常にブレてると言った方がいいのかもしれません。軸がしっかりしてなきゃダメな楽器と思われがちですが、自分の軸を自由にブレさせられる人、軸の配置を無造作にできる人が、強いドラマーなのかもしれないですね。
ドラムの時代を変えたイノベーターたち