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動物写真家・岩合光昭の愛猫“タマトモ”との暮らし。「僕が飼っているのではなく、僕が彼らに飼われている」

キジトラ柄とアメリカン・ショートヘア柄の兄弟猫、玉三郎と智太郎、通称タマトモ。ご主人は、動物写真家の岩合光昭さん。半世紀以上にわたりライフワークとして猫を撮り続けている岩合さんだが、「猫と暮らす」のは実に30年ぶりのことだったそう。タマトモの成長を見つめることで改めて猫の魅力に気づく日々と、岩合さんは言う。

初出:BRUTUS No.936「猫になりたい」(2021年4月1日発売)

photo: Mitsuaki Iwago / edit: Izumi Karashima

ここは東京ど真ん中。東京タワーを間近に望む閑静な住宅街に岩合さんの自宅兼事務所はある。3階建ての家を見上げると窓辺に座り外を眺める猫の姿が。

「今朝も彼らの写真を撮ってたんです」と岩合さん。「今年(2021年)はインドでトラを撮る予定でしたが、コロナ禍でダメになってしまって。どうしたものかと思っていましたが、ふと足元を見れば彼らがいる。ああ、うちに小さなトラがいるじゃないかって」

動物写真家・岩合光昭の愛猫、トモ、タマ
生後5ヵ月目。左がトモ(智太郎)、右がタマ(玉三郎)。名前は、タマは映画に出演したときの役名、トモは映画に友情出演してくれた中村鴈治郎氏の本名にちなむ。

岩合さんちにタマトモがやってきたのは2018年。キッカケは、初監督した映画『ねことじいちゃん』。
「老夫婦が生後1ヵ月ほどの仔ネコを保護するシーンがあって、それを2月に撮ることになったんです。ただ、その時期に仔ネコが生まれているのは非常に稀。方々探したら、伊豆半島のとある個人宅に兄弟がいると。それで、キジトラ柄のタマに出演してもらったんです。撮影後、ご主人は引き取ってくれる人がいればお願いしたいとおっしゃるので、2匹とも僕が引き取ったんです」

30年ぶりに猫を家族に迎え入れた岩合さん。タマトモが不自由なく暮らせる家も建てることに。リビングルームの壁にはキャットウォークを造り付け、寝室もお風呂もトイレも地下の事務所も、家のすべてにアクセスできるよう猫ドアも設置。猫にとって理想の家となった。
「だから、僕が飼っているのではなく、僕が彼らに飼われ、好きなように扱われているのが実情です(笑)」

それにしても、世界中の猫を何万匹と取材してきた岩合さんが、ようやく縁を結んだのがごくありふれたミックス猫だったのは興味深い。

「でもね、キジトラは深い。イエネコの原型といわれているので、ネコのルーツを感じるんです。だから、タマはとってもプリミティブ。動き方も性格も野性的でヒトに媚びない。比べるとアメショ柄のトモは人間的。ヒトの様子をいつも観察しヒトが食べるものにも興味を示す。柄も違いますが行動も全然違う。同じ母親から同じ日に生まれたけれど、ネコは交尾排卵する動物なので、父親が違うのかもしれないなって」

なぜそんなに美しいの?それはいちばんの謎です

ところで、岩合さんは、猫を撮影するときに「いいコだね」「カッコいいね」と褒めるのが有名だが、タマトモを撮るときはどうだろう?

「もちろん褒めます。“今日は最高だよ”って(笑)。面白いことに、“左に5度、顔傾けてくれる?”と言うとやるし、“あくびしてくれる?”と言うとそうする。これはタマトモだけじゃなくどのネコもそう。長年の経験で、ネコがこれからどうするかがわかるときもあります。
でも、謎は深まるばかり。なぜそんなしぐさをするのか、なぜそんな目で見つめるのか、好きだからもっと知りたくなり、なぜ?と思うことばかり。中でも、なぜそんなに美しいの?はいちばんの謎。だから“いいコだね”とか“カッコいいね”という言葉が出てしまうんですね」

動物写真家・岩合光昭の愛猫、トモ、タマ
コロナ禍、本意ではない人生初の長期休暇で落ち込んでいた岩合さんに寄り添い、またカメラを手に取らせたタマトモ。その姿は写真集『岩合さんちのネコ兄弟 玉三郎と智太郎』(クレヴィス)に収められている。 ©Mitsuaki Iwago

2021年2月に3歳になったタマトモ。内面の成長も著しく、それとともに「ヒトの心も試されている」と岩合さんは言う。「ヒトもまた、ネコと共に成長する」のだと。

「ロケの準備をしていると、また出かけるの?という目でタマトモが見るんです。そういうとき、つい“ごめんね”という気持ちになってしまうんです。世の中が戻れば僕が長期間家を空けることも多くなる。心を鬼にして突き放さなければって。どうやら、僕の心が離れがたくなっているんです。撮影旅行に出るたびにキャットシックになりそうだなって。いや、確実になりますね(笑)」