【DAY.6】香りとアウトドア、自然をリスペクトする2つの会社で学んだこと
自然豊かなザルネンの土地と調和するようにあるナチュラルコスメ/ウェルネスブランドの〈nahrin〉。その本社を訪れて、改めてそのものづくりの姿勢に感銘を受けた。そして何より感激したのは、20代の頃からずっと愛用している同社のハーブオイルが作られる現場、特に香りが生まれる「調香ルーム」を見せてもらえたことだった。
旅の最初にグラースで見学した〈国際香水博物館〉にも劣らない、数えきれないほどの種類の香料が並ぶ空間。様々なブレンドを試しながら新しい香りを作っていく過程は、ワクワクする実験のようでもある。
実は今回、僕は大きな夢を日本から持ってきた。それは僕がファウンダーとなって展開しているサステイナブル・コスメブランド〈Kruhi〉と〈nahrin〉とで、前代未聞のコラボレーションを実現するためだった。
僕が知る限り、〈nahrin〉ではこれまでコスメブランド同士のコラボレーションは行ったことがない。この旅に出る前、本当にダメ元という気持ちで同社の日本総代理店を通じてコンタクトを取ったところ、信じられないことに前向きな返答をもらったのだった。
日本から持参した〈Kruhi〉の香りを確かめて、意見交換する〈nahrin〉のスタッフたち。まさか、こんな幸せな日が来るなんて……。
〈Kruhi〉の石けんシャンプーとトリートメントは、鹿児島県南大隅町産の良い物なのに廃棄される規格外フルーツなどを原料に使い、“アップサイクル”を実践している。水を加えないでパッションフルーツ蒸留水を100%贅沢に使い、タンカンなど9種類の植物から取った精油をブレンドし、オリジナルアロマ「キャンディフォレスト」の香りで、自然由来成分100%の生分解性の高い健康と環境に配慮したプロダクトだ。
「タンカンは日本のフルーツね、初めて体験する香りだわ」とか、「パッションフルーツを使うのは斬新!」など、〈nahrin〉のスタッフも大勢集まってきて、どんどんコラボレーションのアイデアが湧いてくる。ここからどんな化学反応が起きるのか、その過程が自分でも楽しみだ。
楽しい時間はあっという間に過ぎて、次の街へ。帰国を数日後に控えて、そろそろチューリヒに戻らなくてはいけないのだけれど、どうしても立ち寄りたい場所があった。それはハーブオイルと同じく、僕が長年愛用するスイス生まれのアウトドアブランド〈MAMMUT(マムート)〉の本社だった。
登山やクライミングのウェアやギアを展開する〈MAMMUT〉。今や世界的な人気と信頼を得ているが、その歴史の始まりは、のちにブランド創業者となるカスパー・タナー氏が作っていた一本の農業用ロープだった。頑丈なロープは高所登山やクライミングに欠かせない。いつしか登山家たちの間で評判になり、登山用ロープのブランドとして発展したのだとか。
僕はこのストーリーがとても好きで、ウェアやザック、シューズなど、ロープではないプロダクトを身につけるときも、創業時と変わらず、人の命を守るために真摯にものづくりをする人々の思いを感じる。
実際、ウェアやザックは日本のブランドよりずっと細身のラインで、デザインにも無駄がない。それはきっとスイスアルプスの険しい岩場でもスムーズに歩くことができるように設計されたものだ。僕はそこまでハードな登山やクライミングはしないけれど、それでも〈MAMMUT〉のプロダクトが一緒だと思うと、どんな状況でも心強く、安心できるのだ。
〈MAMMUT〉の本社はチューリヒから西へ30kmほど離れたセオンという街にある。ここは創業者が家族経営で事業を始めた村に程近い場所で、グローバルブランドになった今でもローカルに根差している点にも胸打たれる。
本社の中には160年以上続くブランドの歴史を製品や映像とともに振り返ることができる展示スペースがあり、社員はもちろん、ゲストも自由に見ることができる。
また〈nahrin〉の本社と同じく、廊下には2025年までに社として達成すべき環境面における目標が掲げられていて、今、どの課題をどの程度解決できているのかが、一目でわかる。例えば、レインウェアなどに撥水加工を施すために使われるPFCという化学物質は、人間にも自然にも悪影響を及ぼすと言われている。同社ではすでにPFCフリーを90%達成していて、ほかの素材についても日々、より良い選択肢を追求している。
他にもできる限りゴミを出さない製品作りを徹底するなど、機能面と環境面を両立させる努力に終わりはない。実際に本社を訪れ、働く人々の姿を見ることで、そんな強い意思が、ダイレクトに伝わってきた。
僕はこれからも尊敬と共感の念を持って、〈MAMMUT〉のプロダクトを使い続けるだろう。そして、その姿勢と魅力を僕なりに伝えていきたい。
明日はいよいよ最終日。チューリヒの街をゆっくりと楽しみたいと思う。