【DAY5】ザルネンで見つけた「ちょっといい世界のカタチ」のヒント
ザンクト・ガレン修道院を後にして向かったのは、スイスアルプスに囲まれた小さな村、ザルネン。ここには僕がずっと愛用しているハーブオイル〈nahrin〉の本社がある。
創業は1954年、村に自生するハーブを使った自然食品を作り始め、その後、フードグレードの原料を用いたコスメやアロマの開発と製造を開始、現在は体の内外から美容と健康をサポートするブランドに成長、世界25カ国以上で商品展開を行っている。
一番愛用しているのは、同社のシグネチャーアイテムである「ハーブオイル33+7」。文字通り40種類のハーブがブレンドされたエッセンシャルオイルで、前回訪れたザンクト・ガレン修道院で中世に作られ、書き残されていたレシピをもとに作られた香りだ。
今回の「香りをめぐる旅」に出るきっかけをくれた〈nahrin〉のハーブオイル。それがどんな場所で、どんな人たちの手によって作られているのか、この目で見てみたい。そんな僕の願いを快く受け入れ、オフィスや工場を案内してくれた副社長のニコルさんはじめ、スタッフのみなさんには改めて心からの感謝を伝えたい。
この日は、とても暑い日だった。スイスアルプスに近いザルネンは夏でもそこまで暑くなることはないそうで、オフィスや工場に冷房設備はない。でも今年は日本と同じく気温が高いようで、スタッフのみなさんはTシャツやポロシャツなど、カジュアルな装いで暑さをしのいでいた。
オフィスに入ると、おいしそうなリンゴが入ったボックスが目に留まった。「Free Apple」ということで、誰でも食べていいそう。フロアにはいくつかキッチンスペースがあって、自由に料理を作って食べていい。日本の会社とは全然雰囲気が違っていて、リラックスした空気感がすごくいい。
オフィスや工場、ショップなど、至るところに「働く人の心がいい状態になるように」という心遣いがあって、「働く」ということの価値観が、いい意味で大きく変わるような風景を見せていただいた。
目に見えない部分にも驚きがあって、なんと工場やオフィスなどに使う電力は太陽光や地熱を使った100%クリーンエネルギーだそう。社員のほとんどがマイボトルやマイマグカップを持っていて、使い捨てのアイテムの姿は見当たらない。
日本では最近しきりに「SDGs」という言葉を聞くようになったけれど、そんな標語めいたものがなくても、みんなが当たり前のこととして極力環境に負荷を与えない選択をする。そんな風土が根付いていることに静かに感動を覚えたし、同時に、自分の国における環境意識について改めて考えるきっかけになった。
もうひとつ、心に強く残った風景があった。オフィスの階段の壁面には1954年の創業時から今に至るまでの歴史を紹介する展示があって、当時の写真や製造商品なども飾られている。
新商品の登場や工場の拡張など、会社の「発展」と並行して紹介されているのは、環境に配慮した本社ビルの建設や、太陽光パネルの設置、水素カーの導入など、時代ごとの環境に対する取り組み。
何よりも素敵だと思ったのは、その展示スペースが2030年まで用意されていたこと。会社が目指すよりよい未来を、社員みんなで考え、行動していこう。そんなポジティブなメッセージを自然と受け取れる、すごくいいアイデアだなと思った。「持続可能な発展」と言葉にするとひとことだけれど、一歩一歩進んでいくことでしかそれは実現できない。それを体現している〈nahrin〉のあり方に深い感銘を受けたのだった。
〈nahrin〉のハーブオイルには、人を癒やす力があると僕は実感として知っている。その他のアイテムも同様で、その根底には植物と、それを育む自然の恵みがある。それを誰よりもよく知っているからこそ、この会社の人たちは地球を健やかに保ち、後世にその恩恵を引き渡そうとしているのだと思う。
ここに来るまでの過程で、野生の植物に出合い、それらが根付く山々を歩いてきたからこそ、より深くその思いに共感できたのだと思う。
明日はいよいよ〈nahrin〉のプロダクトの命である香りが生まれる調香ルームに入れていただく予定。どんなインスピレーションをもらえるか、今からとてもワクワクしている。