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イタリアンコレクター列伝。「標本箱はアート」と言い切る伊達男、マッシモ・プランディ

今、一番熱い昆虫コレクションはどこにある?研究熱心なお国柄のドイツ?世界最大の昆虫フェアが行われるフランス?いやいや、それはイタリアにあった。情熱的で芸術的な大コレクターが割拠するイタリアは、今、最も注目すべき昆虫大国となっているのだ。そんなイタリアを代表するコレクター、マッシモ・プランディのコレクションルームを訪れた。


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photo: Rie Yamada / coordination: Kazuho Kobayashi / edit: Shogo Kawabata / special thanks: Yoshiko Wakayanagi

「標本箱はアート」と言い切る伊達男

ヨーロッパの昆虫コレクターたちの間でとりわけ盛んなのが、大型甲虫のコレクション。そんなカブトムシやハナムグリ類の世界的コレクターとして知られるのがマッシモ・プランディだ。彼はコレクターとしてだけではなく、特にゾウカブトの研究でもよく知られている。そして、そのコレクションを保管する標本箱を「アートのキャンバス」として仕立てることでも知られる実に多才な男だ。

「標本箱がただ安全に標本を保管できる場所というだけではつまらない。僕はそれを、素晴らしい標本を引き立てるためのアートとして捉えて作っているよ。見ているだけでフィールドの景色が思い浮かぶようなね。箱は単に華やかに装飾するだけでなく、その虫の分布がわかるようなマップや、そのエリアの環境がよくわかる自然写真や記載者の顔写真、国旗や州のマークなどのグラフィックに加え、繁茂していた植物の実物標本まで一緒に収められている。その昆虫標本に付随する情報を集めてレイアウトしているんだ」

それらの多彩な情報が組み合わさることで、フィールドからプランディの手元にやってくるまでのストーリーが、まるで雑誌の誌面のような楽しげなディスプレイにまとめられている。

また、単に装飾的なデザインがされているわけではなく、多くの個体が入る箱の中でも、特に重要な意味を持つ標本に、金の額縁のような装飾をつけたり、目立つ色の紙を敷いたりなどして、その箱の見どころが素人でもわかりやすいようになっており、その貴重な標本の魅力を最大限に引き出すことにこだわっている。こうした虫をただ収めるだけでなく、ディスプレイとして突き詰めて仕上げる、というのはヨーロッパ独特の文化だろう。

華やかさを裏打ちする深い知識と分析力

もちろん、レイアウトだけでなく、収められている個々の標本も文句なしにすごい。彼は南米の大学や博物館に毎年のように通い、しっかりと資料を調べたうえで分類考察などの論文を書いている。そうした骨太な知識がベースにあってこそ、こうした楽しいディスプレイが可能となっているのだ。

特に南米の大型カブトムシのコレクションは群を抜いており、彼自身が記載したヴァズデメロゾウカブト(Megasoma vazdemelloi )や、その近縁種のフジタゾウカブト(Megasoma fujitai )をそれぞれ1箱びっしり埋めた状態で揃えるなど、変異の比較検討もしっかり行えるようコレクションされている。これらは研究用に南米の大学から譲渡されたもので、これだけ詳細なデータのついた様々な珍しい南米の大型カブトムシのコレクションを、南米以外の国で所有しているのは世界でもおそらく彼だけだろう。

美しい仕上がりの展足技術も欧州随一

標本の稀少性とともに、その展足(標本のポーズを整える作業)の仕上がりが丁寧なのも彼の特徴だ。まず跗節(ふせつ)(脚の先端の節)を地べたに寝かせる典型的なヨーロッパ式の展足がされており、きっちり左右均等に、そして大型カブトムシが最も太く迫力の出るように工夫された型で制作されているのがよくわかる。

今、ヨーロッパで活躍するコレクターの中でも随一といわれる展足技術だ。華やかな標本箱のレイアウトについ目が行ってしまいがちだが、そんな彼の遊び心は、深い知識と細やかな展足技術によってしっかりと支えられたものだった。


壁一面にオーダーメイドのキャビネットが備えられた自宅地下のコレクションルーム。
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