マニアックさでは随一の深掘り兄弟
ヨーロッパにおいて最も人気のある昆虫、カミキリムシ。そんなカミキリムシの中でも、ノコギリカミキリ亜科だけに集中して、トコトン掘り下げているのがマラッツィ兄弟だ。
コレクターでありながら分類学研究も行っており、活発に国内外のコレクターや研究者と交流を築くことで、ノコギリカミキリに関してのコレクションや知見は他の追随を許さない。世界中で、博物館を除く個人コレクションで所有しているのはおそらく彼らだけ、というようなとてつもなく珍しい種を複数所持しているのだ。
「伝説の種」と呼ばれる幻のカミキリムシ
例えばオーストラリアから程近い南国フィジーのヴィチレヴ島にのみ生息する、幻のカミキリムシ、ガングルバウアーオオウスバカミキリ(Xixuthrus ganglbaueri)は、歴史上数頭しか発見されていない種。これまで様々な人間がこの種を得ようとフィジーに乗り込んだが、成功した者はほとんどおらず、絶滅したともいわれている種だ。コレクターの間では「Legendary species(伝説の種)」といわれる大珍品である。
「こんな面白い箱もありますよ。スカブリペンニスオオウスバカミキリ(Olethriusscabripennis)を入れたこの箱は、私たち兄弟が昔フィジーを訪れた際に実際に採集した個体をもとに作成しました。中央に配置した木材は実際に現地で標本と一緒に採集したもので、それを持ち帰って標本箱に収まるようカット加工したのです。この木を入れた状態で蓋が閉まるように、厚さ約8cmの標本箱も特注しました。
この木の標本には実際に幼虫がさなぎになるための蛹室(ようしつ)が付いており、その中にいたさなぎの標本も収めています。幼虫、さなぎ、成虫の標本をまるで生きているかのように動きのある状態で配置することによって、この種のライフサイクルを再現したかったんです」とお手製の生態標本も見せてくれたマラッツィ兄弟。彼らの箱は研究向けの整然としたレイアウトで、プランディとは対照的だ。
標本箱はぺフ(標本を針で刺すために箱の底に敷かれるポリフォームの板)の上に方眼紙が貼られた仕様のものを使っており、そのマス目に沿って標本やラベルを並べるための緑色の仕切り線が引かれている。
この仕切り線をよく見るとペンなどで書かれたものではなく、極細の糸を張っているのが彼らの特徴だ。ペンで書いてしまうとレイアウトを変えられなくなってしまうが、糸であれば、張る場所を変えるだけですぐに調整できる。非常に機能的に考えられた箱だった。