『In The World - From Natchez To New York』Olu Dara(1998年)
ナチェズ生まれの、
ニューヨークの伊達男。
少なくともきっかけとしては、オル・ダラはNASの親父だからデビューできたんです。NASがアトランティックのA&Rに「僕の親父もいいミュージシャンだから、レコードを出すチャンスを与えてください」というようなことを言ったらしいです。
ただオル・ダラ自身は、自分のレコードを出したいといった野心は特に持っていなかったと思います。彼はミュージシャンとして長い経歴を持っていて、ニューヨークのロフト・ジャズのシーンで、コルネットやポケット・トランペットのプレイヤーとして多くのレコーディングに参加しています。多分、そんな暮らしに満足していたんでしょう。むしろ息子がそこまで言ってくれたなら、というような気分だったんじゃないかな。
僕はジェイムズ・ブラッド・ウルマーのアルバムで彼のことを知っていたのですが、ヒップホップはあまり聴かないのでNASのことは当時知らず、多くの人とたぶん順番が逆で、へぇ、オル・ダラの息子ってラッパーなのか、という認識でした。
生まれ故郷のナチェズからニューヨークに移る間に、彼は数年、海軍に在籍しています。海軍だから世界中を回るわけで、そのときにいろいろな音楽と接することができたんですね。すでに楽器をやっていた彼は、海軍のバンドにも参加していたはず。その世界の音楽に触れた経験が、後の人生に生きたんだと思います。
彼は2001年に来日したんだけれど、それはそれは素晴らしいステージでした。オル・ダラはオーラを身に纏っていて、とにかく伊達男。「Your Lips」という曲ではお客さんの女性をいじったりして、盛り上げるのがすごく上手で、エンタテイナーぶりを存分に発揮してました。
このアルバムの2曲目に「Rain Shower」という曲があって、彼が育ったディープ・サウスの、高温多湿な雨期の雰囲気を感じさせるスローテンポの曲ですが、僕は梅雨入りが宣言されると毎年必ず、番組でこの曲をかけます。こっちでもよかったけれど、1曲選ぶとすればやはり「Okra」かな。
CD-1:「Okra」
ディープ・サウスの路上市場の雑踏の雰囲気で始まるこの曲は、実に夏らしい一曲です。Okraとは野菜のオクラのこと。ニュー・オーリンズのソウルフード、ガンボでもわかるように、アフリカ系の人々にとってオクラは最重要野菜と言ってもいい存在。アフリカを感じさせる素朴で温かい歌です。