自分が見た光を正確に写し出す
初めてカメラを買ったのは中学生のとき。高校時代には友人に薦められ、ジャンク品のフィルムカメラをいじって使っていたという井之脇 海さん。映画の勉強をしていた大学時代は、演技と同時に撮影技術についても学び、以来写真を撮ることが自然と趣味になっていた。
「街中で見つける光が好きなんです。アスファルトを照らす木漏れ日とか、工事中の壁に映る木の影とか、同じ場所でも時間によって変化する光の色とか。刻一刻と形が変わっていき、その瞬間にしか存在しない、美しい景色に惹かれます」
被写体は、井之脇さんの琴線に触れた“光”。日課の散歩中、仕事の行き帰り、お酒を飲んだ帰り道、富士フイルムのハイブリッドインスタントカメラ「INSTAX mini Evo」(以下「mini Evo」)を相棒に、心の赴くままにシャッターを切った。“チェキ”シリーズの最上位モデルで、デジタル技術を搭載したこのカメラは、高画質で撮影した写真を、いつでもどこでもカードサイズのチェキにプリントすることができる。今回は彼にこの「mini Evo」で撮った写真を使って、チェキ日記を作ってもらった。
「8日間の記録です」と持ってきてくれた小さなノートには、見開きを1日分として、左ページに「mini Evo」で撮影したチェキプリント、右ページに言葉がつづられていた。
「目に映った主観的な世界を、なるべくそのまま日記にしたかったんです。『mini Evo』のプリントは高画質で、対象物の細かなテクスチャが綺麗に表現されるから、僕が見ていた本物の光景との齟齬がほとんどない。フィルムならではのザラリとした粒子感も好きだけど、今回みたいな鮮明でクリアな質感もいいですね。リアルに被写体の表情を写し出してくれました」
「mini Evo」には10種類のレンズエフェクト、10種類のフィルムエフェクトが搭載されており、本体のダイヤルを操作して組み合わせを変えることで、計100通りの表現で写真を撮ることができる。
「『モノクロ』や『淡い』という少し滲んだ質感のフィルムエフェクト、『ハーフフレーム』のレンズエフェクトなど、本体のモニターを見ながらいろいろ試せて楽しかったです。でも実際に撮ったものをプリントして並べてみたら、ノーマルエフェクトのものがほとんどだった。今の自分には、この質感が一番しっくり来たんです」
そんな中、偶然エフェクト付きの写真が撮れた日も。8月30日、親友とのドライブ中に撮った一枚だ。
「車中でたまたま指が操作ダイヤルに触れて、意図せず『キャンバス』というフィルムエフェクトがかかっていた。家に帰ってから日記をつけようと、写真をプリントしているときに気づいたんですが、写真の中にそういう偶発的なライブ感が存在しているのは面白いなと。何より、エフェクトは撮影時に選ぶことはできても、シャッターを押したあとは変更できない。そこにリアルなアナログ感があって素敵です」
心を“撮るモード”に変えてくれる
チェキ日記とは別に井之脇さんが持ってきてくれたのが、シルバーのフィルム(INSTAX mini Evo専用フィルム「ストーングレー」)を使用した、山中の風景。4、5年前から趣味の登山中にスマートフォンで撮っていた画像を、専用アプリを経由して「mini Evo」でプリントしたものだ。
「カメラでありながらスマホの画像もプリントできるというのは素晴らしい機能ですよ。山の風景をスマホで撮影するとぼやっと写ることが多いから、いつもあとから露出や色味を調整していて。それをそのままチェキプリントにできるのは、ちょっとした発明ですよね」
高級感漂うクラシックな本体のデザインは、プロダクトとしても魅力的だ。井之脇さんはこの“モノ感”について、自身が写真を撮るうえで大切な要素だと話す。
「写真に向き合うときは、ちゃんと“写真を撮る”というモードでいたい。だからカメラを持つことは、自分の世界に入るスイッチになる。『mini Evo』はほどよい重量感があるから、スマホやトイカメラよりも“カメラ”として強く意識できる。あと単純に、この硬派な見た目が好み。チェキプリントを出力する際も本体のレバーを引く仕様になっていますが、カチカチとフィルムを巻き上げているような操作感がたまらない。遊び心も夢もある」
自分の世界がインスタントに、手元に現れる体験。「mini Evo」との写真生活を経て、自分の中にある写真に対する思いに気付いた。
「プリントして、“自分が実際に見たもの”を手に取って眺めたり、一枚一枚並べて『こんな視点を持っているんだ』とか『あの瞬間はこう思っていたな』とか、思考を整理することもできる。チェキという一つのフォーマットを通して、普段よりも少し特別な感覚で生活に向き合えたなと。
僕は、撮った写真は光の当たらないところで保管して、たまに見返すほうがいい。部屋に飾って日常的に目にしていると、そこにいろんな感情や記憶が上書きされてしまう気がするから。写真には、シャッターを切ったそのときの情景や感情を、純度高く記録しておきたいんです。そういう意味で今回つけたチェキ日記では、瞬間的な感情を素直に保存できた。写真と言葉をノートに残しておけば、ページをめくるだけで、心が動いたワンシーンを思い出す装置になる。今後も続けて、いつか撮りためたもので写真展をしてみたいです」