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加賀美 健が読み解くサザンオールスターズの新しい音楽。『THANK YOU SO MUCH』視聴会レポート

さまざまな分野で活躍する人たちの耳に、ニューオリジナル・アルバム『THANK YOU SO MUCH』はどう届いたのか?BRUTUSでは今回、聖地・ビクタースタジオで開かれた試聴会に集結したサザンを愛する方々へインタビューを実施。特に気に入った楽曲とそのフレーズに触れながら、サザンに魅了されるその理由について、たっぷりと語ってもらった。加賀美 健さんの心を、そして人生を。サザンオールスターズの曲はいかにして揺さぶってきたのか。生の声をお届けする。

photo: Masamitsu Magome / text: Katsumi Watanabe

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サザンの真骨頂は、最高の楽曲群に、荒唐無稽なジャケットの組み合わせ

母がファンだったおかげで、いつも台所あたりでサザンの曲がかかっていました。物心ついた頃から、初期のアルバムや楽曲が大好きになり、一人の時はずっと『熱い胸さわぎ』や『10ナンバーズ・からっと』を聴き続けていたくらい。

桑田さんのしゃがれた声、聴き取れない節回しの歌詞など。とにかく夢中になって、大人になった今でも、毎日のように聴いています。

音楽はもちろん、ジャケットデザインにも衝撃を受けました。『タイニイ・バブルス』や『人気者で行こう』、若い頃には、サザン好きの友達と江の島へ出かけて『NUDE MAN』のジャケットの真似をしたりして。今では怒られそうですが(笑)。LPレコードのサイズでこそ成立するインパクトのあるものだったと思います。

そんな中で、自分の中で特に印象深いのが「Ya Ya(あの時代(とき)を忘れない)」と「シャッポ」が収録されたシングル盤の、予防接種をする医師と子供のイラスト。美しい楽曲とかけ離れたアートワークですよね。そんな桑田さんの芸術的センスは、僕自身も作家として影響を受けていると思っています。作品にひとひねり加える時、桑田さんのセンスの影響が無意識のうちに出ているんじゃないかな。

音楽面はもちろん、ジャケットデザイン的にも『THANK YOU SO MUCH』は最高です。初期から中期あたりのサザンのセンスを感じますね。50年近い歴史を誇るバンドのアルバムジャケットが、日本人形の横顔。選んだ理由はわかりませんが、そのセンスがめちゃくちゃかっこいいですね。

音楽面で言うと、初期バンドサウンド好きとして、デビュー前に作曲された「悲しみはブギの彼方に」を、この時代に聴けたのはやはり感慨深い。ノンストップで次の「ミツコとカンジ」へつながっていく流れにも痺(しび)れました。それから美しいメロディと曲調の「桜、ひらり」は、語尾の伸ばし方、そしてファルセットボイスが最高です。

そして今回、特に心を掴(つか)まれた曲の一つが「ごめんね母さん」かもしれません。実は、これまで歌詞に重きを置いて聴いてきませんでしたが、桑田さんのご時世柄を踏まえたメッセージソングということで、真剣に耳を傾けてみました。

不穏な空気が漂うスリリングな曲ではありますが、中盤に突然「また駐輪場で吐いたよ」というフレーズが……。前後の文脈を見直しましたが、まったく関係なく唐突に出てくるんです(笑)。

桑田さんは英語のフレーズを、日本語に置き換えて歌詞にすることがよくありますが、ここではハッキリと発音されていて。めちゃくちゃインパクトを残すという。支離滅裂で、ワケのわからないところに、すごく惹かれるんです。

どこまで計算されて作られているのか、まったく予測がつきませんが、円熟期を迎える中で、とにかくパワフルなアルバムを聴かせてくれました。これからも、好きな音楽のジャンルを聞かれたら“サザン”と答え続けたいと思います。

Hit Me Lyric

また駐輪場で吐いたよ

「ごめんね母さん」より

My Favorite サザン

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