所在地非公開の完全予約制。少しばかり高いハードルは、それまで10年にわたり大阪や奈良で店を営んできた店主・ハヤシユウジさんがさらなる進化を目指して決めたもの。
「店を続けるうちに考えるようになったのは、ただものを売るだけの店をやりたいのではないと。数をたくさん売るのは大切だし、経験もしてきたけれど、ずっと続けたいことではない。扱うもの一つ一つにも、来てくださる方一人一人にも、しっかり向き合い大事にしたい。そう気づいたのです」とハヤシさん。入口がわかりづらく、地元の人でも迷うこと必至の路地からつながる物件に出会い、思い描くスタイルが実現できるのではと心が決まった。
「京都出身の僕は、いつか京都にも店を構えたいと思っていました。共に店を営む妻と自分たちらしさをイメージしたとき、それは町家でもないし古民家でもない。ここに店を構えることで、これまで京都になかった風が吹くのではないかと」
かくして作られたのは、いかにも〈HS〉らしい白くミニマルな部屋。主張はせず、柔らかな光が満ちる、ものと人とを際立たせる空間だ。
オープンするのは展覧会の期間のみ。石井直人やキム・ホノ、吉田次朗らの陶芸作品、瀧川かずみの帆布バッグなど、現代作家の企画展に加え、『HSがみた沖縄』『HS別注作品と寄り添う器』といった、常設展という名の展覧会もある。常設展には石井直人、イギリスの陶芸家、ジャック・ドハティやロンドン在住の館林香織らのアート作品、沖縄の陶芸家による器、時代を経たものも加わり、独自の世界が展開する。
「アフリカのプリミティブで民藝の美を感じる椅子や、沖縄の國吉清尚や中川伊作らの器、古物を写した眞島拓の漆のカトラリーなど多くはないけれど、古いものも欠かせません。それはHSにとってスパイスのようなもの。生活の中で古物を織り交ぜるのと同様に、調和させることがポイント」とハヤシさんは話す。
アポイントメント制の〈HS-kyoto-〉では、多くの場合が1組だけ、時には1人で店と向き合う。
「一生ものという言葉がありますよね。それを僕たちは一生使えるものという意味ではなく、一生を共に過ごしたくなる、心を通わせたものとの出会いなのだと思っています。アートでも日用品でも古物でも。完璧である必要はないけれど、心が通っていれば壊れたら直してでも、ずっと一緒に歩みたいと思うでしょう。そこにフォーカスしたいし、気づかせてくれるものを届けたい」
ハヤシさんの情熱に好奇心がくすぐられ、新たな世界を開くものとの出会い。それこそが贅沢と実感する。
SELLING POINTS
● じっくりものに向き合えるアポイントメント制。
● 器から洋服、椅子など企画ごとの変化ぶり。
● 常設展という名の展覧会もユニーク。