ことばにならない“欲しい”を調べる
キャンプ歴10年の小濱潤平さんは、子どもが生まれたタイミングや仕事の独立など、ライフスタイルが変化するなかで一度、キャンプから離れていた時期がある。しかし、それこそが「バンキャンプ」に目覚める契機でもあった。
いまから4年前、当時の日本では「バンキャンプ」はおろか「バンライフ」というワードはあまりヒットしなかった。小濱さんも「車中泊」というワード以外で調べる術を持たず、ゆえに検索結果に現れる画像は求めているものではなかったのだという。
「クルマの後部座席を倒して、家にあった布団を敷いてただ寝ているような写真しか出てこなかったですね。それは想像しているものとは違うし、あまり魅力を感じなかったんです。クルマを快適な部屋のようにしたいとおもって、ひたすら参考になりそうな画像をPinterest上で検索し続けました」
では、なぜPinterestだったのか。
「普段はフリーランスのデザイナーをしているのですが、以前から仕事でPinterestを活用していたんです。たとえば、ウェディング関連のペーパーなどをデザインする際に「結婚式」と検索しても型にハマった日本のものしか出てこない。それよりも「ウェディング(Wedding)」で検索したほうがお庭やカフェ、ビーチであったりと場所も内容も自由度の高い海外の事例がヒットする。そういう経験があったので、車中泊を調べるときにPinterestを使うのは自然な流れでした」
気になった画像があればタップして、ときにピンを保存しながら、またスクロールを繰り返す。そんななか、ふと海外ユーザーが保存したピンが目に留まる。そのピンからさらなるイメージをたぐり寄せるかのように、深く深くアイデアを求めていく。
その結果、ついに「バンライフ」というワードと出合う。
「バンライフ」とは、かつてラルフ・ローレンのデザイナーだったフォスター・ハンティントンが生み出した造語。バンで気ままに旅をしながら、同じように暮らしをしている人たちを写真に収め、ハッシュタグを付けてSNSで発信。それが話題となり、2017年に『VAN LIFE』という写真集にまとめられている。
「フォスター・ハンティントンは、ファッション業界で仕事することに疲れて、バンで旅に出たらしいです。僕もアパレルブランドでインテリアデザイナーをやっていたので、なんだか共通するものを感じました」
売ってないからつくる。見ながらつくる
小濱さんの愛車は、〈三菱デリカ・スペースギア〉のロング・ハイルーフタイプ。車中泊といえば、ハイエースや日産キャラバンなどが主流だが「もうちょっと変わったクルマで個性を演出したかった」と、いまのクルマを見つけた翌日には購入していた。
「ベースがクルマというだけで、内装は部屋と同じ感覚でつくりました。なので、住宅の内装写真など『バンライフ』以外の写真も集めていましたね。関連画像を直感的にタップし続けるだけで、想像していなかった画像が出てきて、あらたなアイデアと結び着いていく。それがすごくおもしろかったです」
「Pinterest上で『バンライフ』の写真をたどっていくと、みんな天井と床を板張りにしていることに気づいたんです。クルマの中で寝ることが前提なので、見上げたときに素材が剥き出しだと味気ないですから。その先は、カントリー調にするひともいれば、西海岸をイメージして改造するひと、山小屋みたいに手を加える人もいます」
伝えたるための方法も、見つける
車中泊を調べ始めたときには、最適な検索ワードを知らなかった。それが画像を手がかりに「バンライフ」というワードにたどり着き、いまやあらたなキャンプスタイルを確立するに至った。最適な検索ワードを知ったことで精度も上がったのだとすれば、やはり画像検索よりもワード検索のほうが目的にたどり着きやすいということか。
「たしかに『車中泊』から『バンライフ』に検索ワードを切り替えましたけど、視覚だとより直感的に入ってくる。とくにアプリで検索するときは、画像を触っているような感覚になるんです。話を聞くのとも、文字で読むのとも違う。1枚の画像から世界が広がっていく感覚は、Pinterestならではの体験です。インスピレーションを得ることも多いので、やはり画像検索のほうがメリットは大きいと思います」
Pinterestには、ピンを拡大した部分に写ったをピンポイントで検索できる「ズームイン検索機能」もある。たとえばクルマの後部座席に置かれたブランケットを拡大すると、そのものに類似した関連画像が出てくる。海外ユーザーのピンに写り込んだ、ブランド名がわからないアイテムでも、ビジュアルを頼りにしていつしかたどり着く、といった使い方もできる。
「モノ自体を探すのも便利ですが、内装のアイデアを知るのにもよさそうですね。ぼくが見つけたアイデアだと、棚にゴム紐を通すというのがあります。そうすることで、クルマの揺れによる落下を防げる。そこからズームしていって、さらなる収納のアイデアにも辿り着けそうじゃないですか」
最後に「オートキャンプ」とは異なる「バンキャンプ」の魅力とはなにか。あらためて小濱さんに訊ねると「手軽さ」だと答えてくれた。
「キャンピングカーはハードルが高いですよね。『バンキャンプ』なら、もっと手軽にキャンプを楽しめます。クルマで出かけていって、バックドアを開けて、椅子を出せば、それだけでキャンプができる」
近年は「バンキャンプ」の魅力を広めるイベントも積極的に開催している。本業ではもちろん、イベント会場の装飾や什器をつくる機会も増えているとのことで、「今後もPinterestで検索したイメージをデザインソースとして活用していきたい」と語ってくれた。
「流行りでキャンプを始めて、数年でやめてしまうひともいますよね。でもやめるにはなにかしら理由があるはず。ぼくがそうであったように。もしかしたら、それは『バンキャンプ』で解決できることかもしれない。なので、キャンプの選択肢としてもっと認知してもらえるように今後も魅力を伝えていきたいです」