心を掴まれる音楽との出会いは、いつも偶然訪れる
「ラジオ、聴きまくってます。好きな番組が何本かあってタイムフリーですっごい聴く。聴いたことがない楽曲に突然心を捉えられる瞬間が好きなんです」。そう語るのはフィッシュマンズの茂木欣一。たまたまラジオで、街で、シャッフル機能で、流れてくる音楽がこの後の人生の宝物になることもある。「新譜や旧譜にとらわれない、そんな聴き方ができるのはサブスクならではなんじゃないかな。90年代の僕らの音楽が、フィッシュマンズを知らなかった若い世代や外国にまで届いている。そういう実感が得られるのはうれしいです」
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常に音楽に夢中だった者たちの、歴史と記録
「アーカイブはいつかやろうと思ってたけど、もっと年を重ねてからだと思っていました。ドキュメンタリー『映画:フィッシュマンズ』が公開されたとき、丁寧に歴史を紐解いていく手嶋悠貴監督の映像に胸を打たれて。自分たちが持っていたカセットテープの音源をベースに、映画のサウンドトラックになるようなものを作れたらと思って、それが始まりでした。2023年にツアーをやって、すごく手応えがあった。今までは、佐藤(伸治)くんの音楽を丁寧に拾ってきたと思います。これからはより自由にフィッシュマンズの音楽を演奏してアレンジしていきたい。バンドとして次の扉を開きたいんです」
『HISTORY Of Fishmans』の中にはリリースされていない楽曲のほか、アンセムである「いかれたBaby」を渋谷La.mamaで初めて演奏したときの音源も。
「その頃のフィッシュマンズはバンドとしての分岐点に立っていた。自分たちが奏でたいと思う曲だけやろうと、その一歩目が『いかれたBaby』」
アルバムの装丁にも愛や、そのこだわりが。
「音楽を聴く体験って、まずジャケットから始まると思うんです。今回のアルバムは『空中キャンプ』の歌詞カードも作ってくれていた伊藤桂司さんにお願いして、サイケデリックな超良いデザインに仕上がってきました。サイズはLPレコードと同じ大きさで。音が始まる前のちょっとした儀式のような感覚もモノとして楽しんでもらえたら」
幅広い年代に愛されてきたフィッシュマンズ。バンドメンバーとして歴史を作ってきた茂木が今、思うことは。
「僕は、佐藤くんの作る音楽が大好きだった。当時も今も、彼の音楽を未来にこれから生まれてくる人たちに残す、この音を途絶えさせてはいけないんだという気持ちは変わりません」
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