ハイラックス、テスラetc. 個性の違う4台の愛車と暮らす、ガラス作家・平勝久のカーライフ

ガラス作家として活躍する平勝久さん。自宅と作業場を兼ねたスペースを構える長野県の敷地に並ぶのは、それぞれに個性が違う4台のクルマたち。これらのクルマに見える、平さんの暮らし方と考え方の変遷を辿る。

photo: Taro Hirano / text: Taku Takemura

クルマ選びに重要なのは、その用途と目的。そして考え方

ガラス作家の平勝久さんの工房〈STUDIO PREPA〉があるのは長野県上伊那郡。東京からだと中央自動車道に乗って3時間と少し。アルプスの山々に囲まれ、澄んだ空気がおいしい場所に工房がある。

「海外から仕入れたガラスの原料の水揚げ場所が名古屋港なんです。ここからだと名古屋まで150kmくらい。大阪、東京へもアクセスが良くてのんびりできる場所で探したらここを見つけたんです」

ガラス作家・平勝久の工房
ガラス工房の中心にある大きな窯。

ゆったりとした敷地には平さんの自宅とガラス工房のスタジオ。そしてその風景に4台のクルマがなんとも良い位置関係に置かれている。まず最初に目に入ってきたのは、白のハイラックス。今では見かけることが少なくなった一台だ。

「クルマの基本は人を乗せて移動する、荷物を積んで運ぶ、だと思うんです。僕にとってクルマは道具。クルマはすごく好きですが、いわゆる車体を愛でるクルマ好きとはちょっと違うのかも。所有している4台それぞれ使う用途が違います。このハイラックスは屋号を立ち上げた年に新車で購入しました。1999年製ですね。小さなリアシートが付いたエクストラキャブのハイラックスって当時の4年間だけ日本で販売されたレアな車種なんです」

このハイラックスも2024年で25年。走行距離はなんと40万km超!ガラス作家の平さんにとって、荷台は重要なポイント。

トヨタ「ハイラックス」
国内では4年間しか販売されなかった幻のエクストラキャブ仕様。
〈STUDIO PREPA〉を立ち上げた1999年に新車で購入したトヨタ「ハイラックス」。リアシートには、キャリーケースや靴など平さんの私物が整然と載せられていた。その積み荷にもドライバーの個性が表れる。現在の走行距離40万km超!

「ガラスの材料を運ぶためには積載量たっぷりの荷台が必要。コンパネとか長い木材とかも運ぶので、それを載せるには荷台のあるピックアップがマスト。そのために買ったハイラックスは我が家では長老です。今ではこの近所を走る時に乗る“足クルマ”。農家の人にとっての軽トラみたいな感覚で乗っています。サイズも小さいので農道のような細い道も楽々走れますよ。今でもこのトラックが一番しっくりきますね」

長い間乗り続け、サスペションが弱くなってきたハイラックスの役目を引き継いだのが、5.7リッターV8エンジンを載せたトヨタの逆輸入車「タンドラ」だ。

「ハイラックスよりもっと多くの荷物が載せられるクルマが必要になって。日本で販売されているトラックだと2トントラックになってしまうんです。それがあまり気に入らず、逆輸入車の『タンドラ』を選択。見た目は普通ですが、重い荷物を載せられるように足周りを補強しました」

トヨタ「タンドラ」
泣く子も黙る5.7リッター、V8エンジンのピックアップトラック。
日本ではこのサイズのトラックが販売されていないため、1年落ちの中古車をアメリカから逆輸入した。足周りは積載重量に耐えるためにさらにカスタムが施されている。5.7リッターの大排気量ながら「空荷だとリッター10km以上は走ります」と平さん。

その横には、2台に比べるとだいぶソフィスティケートされたゴルフ7のスポーツグレードGTI。よく見るとタイヤはミシュランパイロットスポーツ5が装着されている。

「スポーティな走りを求めて、タイヤだけはいいものを選ぶようにしています。僕はエンジンが好きで、クルマを買う時にエンジンで選ぶことが多い。このゴルフにはEA888というフォルクスワーゲン社の名作エンジンが搭載されているんですよね。高出力で速いモデルなんですが、見た目は地味で普通のハッチバックというのも気に入っています」

フォルクスワーゲン「ゴルフ GTI」
地味で速いのがいいんです。ハッチバックの世界的ベンチマーク車。
クルマはエンジンで選ぶという平さん。フォルクスワーゲンの名機、EA888エンジンを搭載した「GTI」。「見た目は地味なのに速いんですよね。それにアクティブクルーズコントロールが付いているのも嬉しい。すでに16万km走行しています」

エンジン好きが選んだ“最後の一台”はなんと⁉

そして最後の一台。たった今、クルマはエンジンで選ぶと話していたのに、最後はエンジンを搭載していないEV、テスラ「モデル 3」!

テスラ「モデル 3」
「まだ化石燃料に頼ってるの?」。すべてを覆されたEV車。
「クルマはエンジン」と考えていた平さんが最近購入したのはエンジンのないEV車。これから買うクルマはEV以外に考えられないとのこと。「ガソリン車を買うのはこれからガラケーを買うみたいなもの」ときっぱり。

「そうなんですよ(笑)。僕の仕事は二酸化炭素を多く排出する職業。ガラス作りではひと月で1トン近いガスを燃やすんです。そのため少しでもカーボントレードを取り入れようと思って敷地には木々を植え、屋根にはソーラーパネルを設置していて、将来的にはテスラの動力エネルギーの確保を自宅で完結できたらいいなと思っています。

それに動力性能もガソリン車とは比べものにならないくらい良いですから。これまでガソリンエンジンの長い歴史の中で達成できなかったことをさらりと超えてきたと感じています。クルマの形としてはトラックが自分の生活に合っているので、トラック型EVが出たらすぐにでも欲しいですね」

ガラス作家・平勝久の自宅 外観、トヨタ「ハイラックス」、テスラ「モデル 3」
平さんと〈STUDIO PREPA〉を一緒に営む妻の瑞穂さんと共にガラス作りの材料になるリサイクルの瓶を荷台から下ろす。いつもの日常の風景に道具としてしっかりと役割を果たすトヨタ「タンドラ」。