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英語はネイティブに習うな!高野秀行の「超実践的ブリコラージュ外国語学習法」〜後編〜

「外国語が話せれば仕事の幅が広がりそうだけど、何回挑戦しても挫折。大人になってからの語学習得は無理?」。そんな悩みに力強く「できる!」と答えるのはこれまで25以上の言語を学んで使ってきたノンフィクション作家の高野秀行さん。その秘訣は自分に本当に必要なスキルに的を絞り、集中的に学ぶこと。自身の経験から編み出した超実践的&合理的な学習方法を伝授!前編はこちら

photo: Jun Nakagawa (portrait), Yoshio Kato (notebook) / text: Yuriko Kobayashi

高野秀行の超実践的「ブリコラージュ」外国語学習法7つのポイント

POINT4

○固有名詞って大事!
×総合的に語彙力を上げる

語学を始めたいという人からよく質問を受けるのが、「何から勉強したらいいですか?」ということです。単語を覚えたり、文法を理解したり、例文を暗記したり、学んでおいた方がいいことを挙げたらキリがありませんが、忘れがちなのが固有名詞です。

学生時代の授業を思い出してみても、固有名詞がテストに出たことなんてほとんどなかったですよね。でも実際に外国語を話すシーンでは、その土地の大通りや駅、バスターミナル、スーパーマーケットやレストラン、ホームセンターなど、会話のほとんどに固有名詞が入ってきます。

どれだけ文法を理解していても、それが聞き取れないと相手が何を言っているのかさっぱりわからず、会話にならない。逆を言うと、固有名詞さえわかれば、文法が多少めちゃくちゃでも話は通じますし、相手の言っていることも理解できるのです。

ではどんな固有名詞を重点的に覚えたらいいのか。それは人それぞれで、旅行をするなら駅や通り、観光名所などの地理的な固有名詞が役立ちますし、ビジネスで使うならその職種や分野にまつわるものがもちろん重要になります。

車関係の仕事なら車種やメーカー名、ワイン関係ならブドウの品種や銘柄、シャトーの名前など。日本のカタカナ的呼び名は現地の発音と大きく異なる場合があるので、必ず実際の発音を聞いてチェックします。「マクドナルド」だって英語で発音すると全く別物ですから、耳で覚えるというのは本当に大切です。

こうした固有名詞は一般的なテキストブックには載っていませんし、その土地にしかない名前がほとんどです。そういう点においても現地出身の人との生の会話から学ぶのがベターです。

POINT5

○必要がないことは覚えてはいけない
×雑談から始めよう

ブリコラージュ学習法とは「そのときどきで必要なことをだけを学び、現場で臨機応変に対応していく」ものだと冒頭に述べました。これまで挙げた4つのポイントを見てもわかる通り、実践の場で即役立つ言語を学ぶには、汎用性ではなく専門性を高めることです。裏を返せば、自分に必要がないことを覚えたり練習したりするのは無駄で、学んではいけないのです。

語学スクールの会話レッスンではよく雑談タイムが設けられますが、雑談というのは話題の幅が広すぎて、かえって難しい。そんな時間があるなら、商談で必要になってくるフレーズを集中的に覚えた方がずっと実践的ですし、現場で役立ちますよね。人間の記憶力のストレージは無限ではありませんから、できる限り効率よくそのメモリーを使うことが鉄則です。

そのために有効なのが自分専用のテキストを作ること。私は一般的な教材は使わず、現地で必要になりそうなフレーズだけをピックアップして集中的に練習します。まずは日本語で例文を作り、それをネイティブの人に現地語に翻訳してもらいます。それをノートに書き留めつつ、実際に声に出して読んでもらった音声を録音。家に帰って繰り返し読んだり発音したりして覚えるのが定番の学習法です。

自分専用のオーディオテキストブックを作るような感じです。この時重要なのは、どんなフレーズをピックアップするかです。最初にお伝えしたように、「どんなシーンで」「誰と」「どんな会話をする」のか、それをしっかりとイメージして例文を作らないと意味がありません。それが明確になっていないなら、今はまだ語学を始めるタイミングではないのかもしれません……。

POINT6

○超合理的!YouTube学習法
×好きな映画を教材として使う

対面レッスンに加えてサブ教材としておすすめしたいのがYouTubeです。世界中の人がパーソナルな動画を投稿するYouTubeは現地での生の会話や言い回し、ローカルな固有名詞などを耳にできる最高のオーディオテキスト。

例えば僕はオーストラリアのシドニーに親戚が住んでいるのですが、現地に行った時にスムーズに買い物ができたらいいなと思って「シドニー/スーパーマーケット」で動画を検索してみたんです。そうしたらごく普通の中年女性が、ただスーパーで買い物するだけの実況動画がヒットして(笑)。

何も面白いことはないのですが、調味料や瓶詰の陳列コーナーは「pantry」と呼ぶのかとか、「商品を棚から取る」という行為には「grab」という動詞を使うのかとか、すごく実践的な言葉を学ぶことができたんです。

もしかしたらこの表現はほかの都市では使われないものかもしれませんが、一向に構わない。だって今、私が知りたいのはシドニーで使われている言葉や表現であって、普遍的である必要は全くないわけです。こんなふうにYouTubeは場所やシチュエーションなど自分に必要な言葉をピンポイントかつ超実践的に学べるという点で非常に便利なツールなのです。

POINT7

○現場第一!言語は体で覚える
×学習計画は綿密に立てる

語学は一人コツコツ勉強するものと思いがちですが、それも大きな間違いです。言語はコミュニケーションツールであって、一人で使うものではありません。いつまでも“壁打ち練習”していないで、できるだけ早く実践の場に飛び込むことをおすすめします。

最初はうまくいかないし、恥ずかしい思いもするでしょう。でも不思議と、その時出会った単語やフレーズは忘れないものです。現地の人と話す時、声はもちろん身ぶり手ぶりも交えて会話をします。これは脳科学でも証明されていますが、頭だけより体も一緒に使った時の方が脳に記憶が定着しやすいそうです。スポーツや楽器の演奏なども、体を使って覚えた技術は長い年月が経っても忘れませんよね。語学も同じで、体とセットで学んだ方が、格段に速く覚えられます。

生の会話をすると、その言語が持つ特有の“ノリ”みたいなものもわかってきます。中国人は大きな声で堂々と話すんだなとか、タイ人は優しくて繊細な話し方だなとか。発音に限らず、口調や話す態度、表情なども含めて、そうしたノリを真似してみると、これまた不思議と自分の意思が伝わりやすくなり、相手の言葉も聞き取りやすくなってきます。何よりノリが合えば相手と打ち解けやすくなりますから、モノマネは会話上達のための一番の近道です。

どんな言語であれ、その向こうには必ず人がいます。もし語学の道に迷い挫折しそうになったら、こう自問してみてください。自分は誰と、どんな話がしたいのか。そこに立ち戻れば、今自分が何をするべきか、自ずとわかってくるはずです。

高野さん自作の学習ノート
高野さん自作の学習ノート。左はコンゴやザイールで話されるリンガラ語、右はミャンマー語。