Talk

Talk

語る

渋谷直角『世界の夜は僕のもの』とヒコロヒー 『きれはし』。2人が互いの著書を読んで対談

90年代の若者たちの夢や恋愛、友情を描いた『世界の夜は僕のもの』を上梓した漫画家・渋谷直角さんと、下積み時代のことからスポットライトを浴びるようになった最近のことまで、自らの心情を赤裸々に綴ったエッセイ『きれはし』が話題のお笑い芸人・ヒコロヒーさんが、お互いの著書を読んで語り合った。

Photo: Eri Morikawa / Text: Izumi Karashima

漫画とエッセイ、ゴーイングマイウェイな2人の表現一本道

ヒコロヒー

直角さんの漫画、一気に読みました。めっちゃ面白かったです。

渋谷直角

伝わりました?

ヒコ

もう、むちゃくちゃ伝わります。私は、1989年生まれなので、描かれているのは物心がつく前の頃の話なんですが。なぜ、90年代の話を?

直角

僕の青春時代ということもあるんですが、あの時代を否定的に語る人が結構いて。でも俺は楽しかったけどなって。全肯定であの頃のことを描こうと思ったんです。渋谷を発信源とするカルチャーやファッションのこと、お笑いのこと、時代の「気分」を残しておきたいなって。

世界の夜は僕のもの|渋谷直角
(左)『世界の夜は僕のもの』渋谷直角 『i-D JAPAN』に渋谷パルコ、ディスクユニオン、レディステディゴーにダウンタウン……90年代カルチャーとその時代を生きる若者たちの青春群像劇。扶桑社/¥1,320。
(右)『きれはし』ヒコロヒー 下積み時代の情けないエピソードから、上京し注目を集めるようになった最近の心情までをユーモラスに、そしてシャープな筆致で綴った初のエッセイ集。Pヴァイン/¥1,628。

ヒコ

しかも90年代のことだけど、描かれているのは何者でもない若者たちがもがく姿で。70年代80年代もそうだっただろうし、ゼロ年代10年代20年代、この先も続いていくであろう普遍の話やなって。しかし、渋谷がそんなに怖い町だったとは知らなかった(笑)。

直角

センター街を歩くのはめちゃめちゃマズかったです、当時は。いいスニーカーを履いてると狩られますから(笑)。

ヒコ

私が強く共感したのは、やっぱり、お笑い芸人を目指す若者の話。テレビでネタを観て、見よう見まねで自分も書いてみるとか、私もやってきたんです。YouTubeとか媒体も増えましたけど、いまの子たちもそうやろなって思うし。

「芸人志望の若者がめっちゃ刺さりました。ブッチャーブラザーズさんの話も最高。ブッチャーさんは普遍です」とヒコロヒーさん。

直角

ヒコロヒーさんのエッセイも普遍的な若者の思いが綴られていて。ただ、「所持金6円」の日々も、注目されるようになったいまも、諦観みたいなものが一貫して書かれていて、芸人さん的なガツガツした感じとは質が違うなって。

ヒコ

私が始めた10年ぐらい前は、お笑いの賞レースが盛んで、競争的な空気感が蔓延していて、それがすごく苦手だったんです。ネタは創作であり表現。それを競技化する意味はあるの?って。

直角

お笑いも「表現活動」という意識は強いですか?以前ラジオで、「何年かに1度、漫画を描きまくりたくなる」っておっしゃってましたよね。自分の抱える何かを表現できるなら、お笑いの型じゃなくてもいいって感じですか?

ヒコ

生意気言うと、漫画や文章は膿を出すような感覚なんです。やっぱり、いちばん好きなのはお笑い。入れるものはなんでもいいんですが、それを抽出したときにお笑いになっていたいんです。

渋谷直角|ヒコロヒー