この映画は、地球上のある一点にカメラを固定し、その地で暮らしてきた人々や生物を恐竜時代にまで遡り、そこから現代までの様々な時代をスキャンしながら、まるで定点観測のように描く。そして、その壮大なタイムトラベルの中で、核となるのが、『フォレスト・ガンプ』で共演したトム・ハンクス演じるリチャードと、ロビン・ライト演じるマーガレット夫婦の愛の物語だ。
この映画の原作となったのは、コミック表現に革新をもたらしたといわれるリチャード・マグワイアの2014年発表のグラフィックノベルの傑作『HERE ヒア』。実際、ページを見ると、ある家の居間の一角が同じ画角、距離で捉えられ、時間が行きつ戻りつしながら、さらに小窓が様々な時代のイメージを映し出し、一つの画面の中に歴史が重層的に捉えられているのがわかる。このような驚くべき仕掛けの原作を生み出したきっかけを、マグワイアは次のように語った。
「これの基になった1989年版の『HERE』を描いた時、当時新しいアパートに引っ越したばかりだったんですが、それまでの住人たちがどんな人たちだったのかに思いを馳せたんです。そして、今住んでいる私と、過去に住んでいた人たちをどうやったら同時的に表すことができるのか考え試行錯誤していたところに、友人がWindowsのマルチタスク画面を見せてくれて、“これだ!”と思ったんです」
1989年版は、雑誌に掲載されたわずか6ページのものだったが、2014年版は書籍ということもあり、さらに大がかりで複雑化している。
「1989年版は架空の空間だったのが、書籍にするに当たってもっと深く掘り下げなければと思って、自分の生家をベースにすることにしたんですね。そこから1年かけて、あの地の歴史についてリサーチしました。もちろん、中心に据えているのは自分の家族の話ですが、メモワールを書いたわけでも歴史書を書いたわけでもないんです。
自分の両親があの家に住んでいたのは50年という期間ですが、地球の歴史を考えるとほんの一瞬ですよね。そんな、それぞれの時代の一過性を書いてみたかった。だから、原作に登場する人物たちは、脇役どころか、みなエキストラにすぎません。そこが映画との一番の違いだと思います」
最後に、それが映画になった時の感想を聞いた。
「コロナ禍の2021年に、代理人を通してゼメキスが映画化したいと相談してきました。私は内心無理だろうと思ったんですが、彼がいろんな良いアイデアを出してきて、自分では思いつかなかったものでもあり、彼を信頼するに至りました。ロンドンのスタジオでの撮影も1度見に行きました。私が描いたあの部屋が立体的に再現されていただけでなく、同じ部屋が2つも造られていたことには驚きました。
そして、試写室で初めて出来上がった作品を観たんですが、圧倒されましたね。あえて、エリック・ロスの書いた脚本は読んでいなかったんですが、あらかじめエンディングはこうなると彼から聞いていたものの、感極まって自分も泣いてしまいました」
ロバート・ゼメキス監督の最新作。主演のトム・ハンクスとロビン・ライトの数十年にわたって変化していく姿を最新VFXによってリアルに表現している。4月4日、全国公開。