良い写真って、何だろう?幡野広志と永積崇が話しながら撮り歩き、見えてきた正体 〜後編〜

photo: Satoko Imazu / text: Chisa Nishinoiri / edit: Taichi Abe

コロナ禍で写真を撮り始め、初の写真集『発光帯』を発表した音楽家、永積崇さん。写真家として活躍しながらもワークショップを開くとたくさんの方々が集まる幡野広志さん。共にカメラを持って東京・日本橋の街を歩き、シャッターを切り、対話した、写真のこと。前編はこちら


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良い写真、ダメな写真。うまいへたって何だろう?

幡野

僕は良い写真とダメな写真って明確にあると思っていて。それと同時にうまい写真とへたな写真もある。写真は、うまくて良い、うまいけどダメ、へたでダメ、へただけど良い、の4つに分かれる。それって、音楽も似ていないですか?

すごく歌はうまいけど、そんなに心に響かないよねという曲もあれば、へただけどなんか心に響く曲もある。写真も全く同じだと思うんです。

永積

ちなみにポートレートを撮る時は、その人と初めましてのことも多いですよね。僕なんか初めて会う人にカメラを向けて、表情を引き出すというのは、すごく緊張するんです。そういう時はどんな気持ちで臨むんですか?

幡野

例えば永積さんが人物を撮ろうと思ったら、普通のフォトグラファーが撮るよりも圧倒的に有利だと思います。だってその被写体の人は、永積さんに撮ってもらいたいと思うから。

フォトグラファーでも、有名になるとそういうメリットがあると思う。基本的には、初対面の方とでもちゃんとしゃべれるようにします。

例えば写真家を目指す人って最初はスタジオで働くことが多いと思うんです。そこでは照明の組み方や技術的な手伝いをするんですけど、有名なフォトグラファーさんがタレントさんを撮る現場を見ていると、写真が特別うまいことが重要なんじゃないんだな、ってことにだんだん気づいてくるんですよね。

実際に幡野さんが行っているワークショップを体験すべく、カメラを持って街に繰り出した2人。お互いに気になる被写体を見つけては、パチリパチリとシャッターを切っていく。

永積

あぁ、そこじゃないんだ。

幡野

技術や照明のテクニックとかはそこまで重要ではない。それよりも、人と会話ができる能力の方が圧倒的に大事で、その部分をいかに積み上げていくかの方が重要だな、と。

永積

もしかしたら、音楽もすごく近いかもしれないですね。僕も音楽を始めた頃なんかは、ライブの時は準備してきれいに演奏して、整ったものを出すことが大事だと思っていた。

でもどんどんライブを重ねていくと、結局、目の前にその日を楽しみにしているオーディエンスがいて、その人たちとどう交わるかということで、よりミラクルが起こる。こういうライブにしようとゴールをガチガチに決めていくと、その日のライブ感みたいなものが汲み取れないまま終わっちゃうことがあって。

だからある時から、ライブをきっちり作り込むことに正解を感じなくなって。やっぱり生きているものというか、その日動いているものだから、ライブなんだなって。

幡野

まさにそうですよね。永積さんにはそういう経験の積み重ねがあるから、写真にもその表現が表れているんだと思います。

一見遠回りかもしれないけれど、瞬間を楽しめる素直な心みたいなものも、良い写真のゴールなのかもしれないですね。

撮影データをパソコンに取り込み現像のレクチャー。幡野流の画像処理で押さえるのは「露出」「コントラスト」「レンズの補正」「トリミング」「ホワイトバランス」「粒子」の6項目。わかりやすい説明で永積さんも作業が進む。

幡野さんの一枚

雨が降るなか、レンズを気にしながら優しい表情を見せる永積さんを振り向きざまにパチリ。雲が晴れて光が差した一瞬を捉えた一枚。「暗い部分をしっかり黒で締めてコントラストをつけるのがポイントです」(幡野)

永積さんの一枚

相合い傘で、仲むつまじく通りを横断する初老のお2人。こなれた風情でスーツを着こなす紳士の後ろ姿は、まるで昭和の銀幕スターのよう。見せたい被写体が中心に来るように、上下を少しトリミングして仕上げた。