Live

「人生、思い通りにならないことだってある」〈SEEALL〉デザイナー瀬川誠人さんが山梨で農地を借りる理由

土に触れると、地球が持つ体温を感じる。普段の暮らしでは出会うことのない虫や動物が、循環する世界を作っていることに気づく。収穫した作物を食べる幸せだけでなく、自分で育てている実感が、未来と希望を生む。不確かな時代に確かな何かを求め、畑へ。

Photo: Masanori Kaneshita / Text: Masae Wako

東京から車で2時間の山梨へ
山も畑も美しい“絶景”自然農

「2週間通えないだけで、気になって気になって」。

南アルプス甲斐駒ヶ岳を真正面に望む絶景の畑で、ファッションデザイナーの瀬川誠人さんがそう語る。畑を始めたのは2年前。大好きな庭作りの延長のような感覚で、山梨にある自然農の教室に通ったのがきっかけだ。

「庭と畑は似ているようで全く違いました。庭は人が主体。好きな花や葉形を選んで自分好みにデザインします。でも畑の主体は自然。雑草や虫と共生し生態系を守ることで、結果的に強くておいしい作物が育つんです」

現在は都心からも鎌倉の自宅からも車で2時間の山梨県北杜市に農地を借り、「土を耕さず、除草せず、肥料や農薬を使わない」自然農で野菜やハーブを育てている。

「雑草は抜かず、作物の日当たりと風通しを確保するために刈るだけです。刈った雑草は土に被せれば、直射日光や乾燥を防ぎ、そのまま肥料にもなる。何より、“少しずつ多品目”育てるのが自然農の基本なので、畑自体の景色が変化に富んだ美しいものとなるんです」

ただし、手入れに来なければ3週間で雑草が伸び放題。

「荒天で全滅した野菜を見て、無力さに絶望したこともありました。でもそれが農業。人生、思い通りにならないことだってある、と心に余裕が生まれた気がします」

標高約700m、日照時間が日本一長く湿気の少ない山梨県北杜市。自宅から車で来て目いっぱい農作業をし、好きな温泉に寄って帰宅できる距離。