クラシックな見た目ながら、利便性も視認性も申し分ない現代のミリタリーウォッチ
1960年代のベトナム戦争でアメリカ軍に供給された腕時計といえば、〈ハミルトン〉の「GG-W-113」。戦場での反射を防ぐ艶消しのステンレススチールや、日にちの表記がないシンプルなフェイス。その当時のデザインを引き継ぐように手がけられているのが「カーキ フィールド メカ」。
〈ayame〉のデザイナー・今泉悠さんに巻いてもらったのは、最新作「カーキ フィールド メカ パワーリザーブ」だ。その一本を目の前に、今泉さんらしい視点からすぐさま気がついたことがある。
「新しいモデル、サイズアップしましたか?仕事柄、横幅140mmほどの眼鏡を、0.1mm単位で調整するので、サイズに敏感でして。1mm異なるだけで印象もガラリと変わるなかで、これは径を2mm大きくしているとか。でも、クラシックな雰囲気を損なっていないところが素敵です」
このモデルを象徴するのは、文字盤に記された小さなインジケーター。Fで満タンになり、Eで空であることを示し、グルグルとリューズを巻けば、約80時間稼働する。メカニックらしさが詰まった仕様は男心をくすぐる。
「インジケーターによって利便性は高いのに、インデックスや3針などのフェイスは見やすい。選ぶ時計において視認性は重要なポイント。なぜなら、時間は時計でしか見ないから。手元から時間をチラッと確認する所作が好きなんです」


この一本の細部に宿る機能美を、アイウェア作りのインスピレーション源に

「巻く時計に合わせて服を選択するときもあります。例えば、高級感のある一本を選ぶときは、その時計をおもちゃっぽく演出するために、あえてストリートな服を着てみたり。今日はミリタリー感のある『カーキ フィールド メカ パワーリザーブ』によせてボトムスはチノパン。トップスもクラシックなパンツと時計に合わせて、オックスフォードシャツを羽織りました」
と話す今泉さん。〈ハミルトン〉が「カーキ フィールド」という定番を作り続けることに、共感を得ている。
「僕も定番品を手がけることを意識していますし、それが宿命の一つだと思っている。そもそも、その定番品が仕様や使う部品などがマイナーチェンジされて、今まで発売されていたモデルが修理できなくなるのは本末転倒。その初期の定番品を使ってくださるお客様が困るはず。『カーキ フィールド』は仕様やデザインを大きく変更しないことで、いつの時代も修理に対応している。その体制は素晴らしいし、模範にしたいです」

〈ayame〉のアイウェアは今泉さんが全ての眼鏡を手がけている。そのインスピレーション源を時計から抽出することもある。
「フェイスのレイアウトや文字の大きさ、さらにリューズの仕様など、どこかにメガネのデザインの参考になるポイントはないか?と時計を観察します。例えば『カーキ フィールド メカ パワーリザーブ』でもステンレススチールのブレスレットのモデルならば、そのブレスレットの一つ一つのコマがアーチ状であることが参考になる。丸みのある形によって装着した時の肌の触り心地は滑らか。金属をこの形状に加工するのは難しいですし、何よりも技術の高さに感銘を受けました」


「『カーキ フィールド メカ パワーリザーブ』は、10気圧までの防水性も備えているだけに、タフに使えるのがありがたい。その昔、出張中の朝に寝ぼけて、時計を巻いたままシャワーを浴びた経験がありまして(笑)」と笑いながら昔話を話した後に、時計とアイウェアの共通点を語る。
「メガネも時計も、その人のパーソナルな部分を象徴する存在の一つと言えます。あのかっこいい先輩はこの眼鏡をかけていたなぁと思い浮かぶように、時計も巻いている人を連想させます。『カーキ フィールド メカ パワーリザーブ』も、重厚感のあるミリタリー由来の一本だけに、身につける人の個性をきっと引き出してくれる」

最後に〈ハミルトン〉の「カーキ フィールド メカ パワーリザーブ」と、〈ayame〉の定番モデルNEWOLDを眺めながら、アイウェアにはまだ見出されていない時計の奥ゆかしい魅力を口にした。
「時計には、経年変化によって引き出される魅力が浸透している。でも、メガネにはその美学が根付いていません。時計にリスペクトを持ちつつ、見習う部分がまだまだあります。特に〈ハミルトン〉の『カーキ フィールド』はその象徴。堅牢性を備えているので道具としても長く愛用できるからこそ、経年変化を楽しめると思うのです」
