ミリタリーウォッチの原点にして、現代の相棒
〈ハミルトン〉の「カーキ フィールド」コレクションは、1960年代、ベトナム戦争でアメリカ軍に供給された「GG-W-113」を源流に持つ。戦場での視認性、堅牢性、反射を防ぐマット仕上げ。すべては、任務を遂行するために必要とされた機能だった。陸・海・空、すべての軍に時計を納めた〈ハミルトン〉。そこから生まれた「カーキ フィールド」は、いまや都市生活のなかでこそ光るツールウォッチとなった。
最新作「カーキ フィールド メカ パワーリザーブ」は、ダイヤル上に配された小さなインジケーターが印象的だ。エンプティ(E)からフル(F)へ、巻くと針がゆっくりと上がっていく。その様子を見ながら〈Brift H〉代表の長谷川裕也が口を開く。
「まるでガソリンメーターみたいですよね。僕が乗っている古い車も、あんな感じで針が動くんです。68年式で、真夏は地獄みたいに暑いんですけど、それがいい。手をかけないと動かないものの方が、愛せる気がします」
ムーブメントは、スイスのETA社が〈ハミルトン〉のために開発したキャリバー「H-23」。手巻き式で80時間のパワーリザーブを誇る。巻き止まりのない構造は、ムーブメントを守りながら、ユーザーに巻く喜びを与える。
「手で巻くっていいですよね。家の壁掛け時計も機械式時計。朝、巻き上げる瞬間に、ちょっと気持ちが整うんです。スマートフォンで時間は見られるけど、そういう問題じゃない。自分の手で動かす行為そのものに、意味がある気がします」
40mmのケースは、数字以上に小ぶりに感じる。というのもラグを短く設計することで、腕になじむバランスを生んでいるからだ。
「時計って、デザインがやりすぎてないことが大事だと思うんです。『カーキ フィールド』は機能がそのままデザインになっていて、そこに潔さがある。引き算の美学というか。僕にとっての靴磨きの流儀も同じ。道具もクリームも無限にあるけど、僕はいつも決まったものしか使わない。増やすより、削ぐ方が難しい。でも、そこにしか本当の美しさは残らないと思うんです」


まるでワークブーツのように、日常の傷がつくことがこの時計を完成させる

「靴磨きのとき、時計はつけてなかったんです。お客さんに時間を意識してほしくないし、職人がどこの時計をしてるかを見られるのもなんか違う。だからあえて外していました。ただある時からつけるようになったのはミリタリーウォッチでした。その匿名性が僕のイメージとぴったりで、それ以来、仕事中には必ず腕時計をつけるようになりましたね」
そんな彼が「カーキ フィールド」に対して共感を受けたのは、古いものと新しいものの良いところを取り合わせた部分でもあった。
「昔の靴って革がすごくいいんですよ。オーダーなら古い革で作れたりもするので、そういう昔のいいものを使って、今の技術で作るようなものを最近は選ぶことが多いです。古いものに敬意を払いながら、現代のものづくりでアップデートされたものも、等しくいいなと思うんです」
たとえば、彼の車。1968年式のクラシックカーと、新車のハイエース。どちらも、彼にとっては欠かせない存在だ。
「古い車は味があって最高だけど、もう一台、ちゃんと用途に合った車もないと生きづらい(笑)。だから二台持ってるんです。仕事でも移動でも、状況によって使い分ける。そういう意味で、この「カーキ フィールド メカ パワーリザーブ」もハイスペックなハイエースみたいだなと思って。ツールウォッチという名の通り、目的に沿った道具として存在している感じがします」


そしてもう一つ、彼がこの時計に感じたのは丈夫さへの信頼だった。
「僕、丈夫なものが好きなんですよ。時計も傷とかはまったく気にしない。靴もそうですけど、綺麗なものに気を使うのって、ちょっと窮屈じゃないですか。仕事柄もありますけど、踏まれてもなんとも思わない。あとで磨けばいいだけ。お手入れまで含めて味なんですよ。ピカピカのブーツよりも、使い込まれた靴のほうが断然格好いい。ブーツもデニムもそうですけど、傷や色落ちは暮らしの記録みたいなものだし、だからこそ愛らしいと感じます」
さらに彼は、〈ハミルトン〉というブランドそのものにも魅力を感じている。
「アメリカブランドへの憧れってありますよ。あの野暮ったさがいい。でもこれはスイス製。最強じゃないですか。アメリカらしい無骨さがあって、スイスの精密さと品もある。スーツにも合いそうだし、ベルトを替えればドレスウォッチにもなる。いわば両方のいいところ取りですよね」
長谷川さんは何度も「削ぐ」「使い込む」という言葉を口にしていた。靴も、車も、時計も、自分の手を通して完成へと近づいていく。「カーキ フィールド メカ パワーリザーブ」の針がゆっくりと動くたび、そんな時間とともに育つ美しさの意味を考えさせられる気がしてくる。
