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ビールと野菜とスキーヤー。フレッシュな“白馬らしさ”を求めて

白馬村で話題のクラフトビールのブルワリーも、野菜の無人販売所のオーナーも、野菜を卸すファーマーも、みんな山を愛するスキーヤーだった。

photo: Moe Kurita / text: Takuro Watanabe

山を愛し、山を遊ぶ人が造るビール

2015年に創業した白馬を代表するビールであるハクバ・ブルーイング・カンパニー。フルーティーなペールエールをはじめ、調和がありつつしっかりした味のラインナップ。白馬の山の水を用いた、山のビールを造るブルワリーを訪ねた。

「2015年当時の日本には、自分が飲みたいビールがなくて自分で造ろうと思いました。白馬の小麦も使いますし、何よりも仕込みで使用する白馬の水は最高ですよ」

そう話すのはオーナーのダン・コウバーンさん。ちなみに、ダンさんをはじめ、スタッフの加藤健次さん、谷相健太郎さんによるハクバ・ブルーイング・カンパニーの皆さんはスキーヤー、スノーボーダー。山を愛して山を遊ぶ人ならではのムードが皆さんの顔から滲み出ている。

「とにかく雪と山が好きなんです。北海道や長野、新潟、日本の雪がいい土地にはたくさん行きました。でも白馬が最高ですね。日本で最も美しい山間の村のひとつだと思います。スイスにも長く暮らしたことがあるのですが、白馬も同じように美しい土地だと思います。スティープ(急勾配)でアルパイン(高い)な山でのスキーは最高ですよ」とダンさん。

白馬の山々の雪が長い年月をかけて山や岩石を通り、滲み出てきた水を用いて醸造され、無濾過でボトリングされるビール。美しい白馬の自然の恵みである山のビールをぜひ。

ハクバ・ブルーイング・カンパニーのダン・コウバーンさん
ケンブリッジ大学で科学を学んだダンさんは、発酵学のスペシャリスト。

村のための無人野菜直売所

白馬村で採れたオーガニック野菜
白馬村で採れたオーガニック野菜が毎朝並ぶ。

白馬話題のニュースポットとして誕生したのが『えいようフーズ』。野菜の無人直売所だ。オーナーは白馬村で育った写真家である栗田萌瑛さん。日本のオーガニック食文化を牽引する存在である長崎・雲仙のオーガニック直売所『タネト』でのインターン経験を経て、地元・白馬で野菜の直売所を準備してきた。

「白馬オーガニックマーケットの運営を5年ほどやってきて、野菜はやっぱり毎日買えないと!と思ったのがはじまりです。白馬という土地は、環境への意識が高かったり、身体を気遣う人が多く、オーガニック野菜の需要があると思いました。

私たちは農薬や化学肥料をなるべく減らす農業を働きかけていますが、その輪が広がると良いなと思います。まだ始めて間もないけれど、出荷してくださるファーマーたち、一般のお客さん、近隣飲食店の方からは嬉しいことに歓迎の声をもらっています。また野菜を作る人、家畜を育てる人、料理する人、食べる人がお店で出会い、交流している光景が見られてとても嬉しいです」

えいようフーズの外観
えいようフーズ
住所:長野県北安曇郡白馬村北城3020-1276 楓の駅|地図
Instagram : @eiyofoods

「白馬で暮らす人に必要とされる店を目指しています。野菜の委託販売はやっぱり、どれだけの量を売っても大きな商売にはなりにくいので、売る人、買う人が常に通ってくれることが、続けるための条件なんです」

白馬を愛するスキーヤーでもある栗田さんの想いに賛同してくれるファーマーは増え続けている。

『えいようフーズ』に野菜を置く、無農薬の野菜を作り続けて35年になるロッジ『基』のオーナー・小林肇さんもその一人。スキーがきっかけで白馬村に移り住んだ小林さんは雪が解けはじめたら農作業が始まり、ブルーベリーをはじめとした35種を超える野菜と向き合って暮らしている。

「山が険しくて強いよね。この山の強さが白馬の魅力なんだと思います。高地ゆえの冷涼な気候は野菜の甘さと強さを引き出します。山の環境がいいと遊びが増えちゃうんですよね(笑)。スキーをやる人にとってはこれだけスキー場が連なっているのも最高なんですよ。白馬の人は山好きが多くて、すぐ友達になるのもいいですね」

世界が羨むスノーリゾート、白馬村にも外国資本の波は年々押し寄せている。それは避けられないことかもしれないが、白馬村らしさは薄れないでほしいと願う。その土地の個性をつくり出すのは土地に暮らす人たちだ。

自身が暮らす土地にもっと魅力を感じることで土地を想う人が増えていくのだろう。『えいようフーズ』は小さな無人直売所ではあるが、この小さな拠点から、新たな“白馬らしさ”を生み出そうと、大きな夢を抱いている。

『えいようフーズ』の目印の“白い馬“の看板
『えいようフーズ』の目印は“白い馬”の看板!