コインを駆使して、ホテル起点で出かける旅とは
文・せきしろ
私は旅が好きだ。初めての地方都市に行くとテンションが上がる。寂れていたならさらにテンションは上がり、望郷の念に駆られつつ、創作へと繋がっていく。
ホテルに泊まることも好きだ。泊まる必要がない時でも、たとえば仕事でどこかへ行って余裕で帰れたとしても泊まることがある。もちろん前泊もある。泊まるだけで「旅度」が上がる。
知らない町を訪れた時に「ここに住んだらどんな感じなのか?」と考えることが多々あって、それを少しでも体験したくて泊まることも多い。それだけではその町の数パーセントもわからないのは承知の上なのだが、知らない町の知らない朝、そんな日常を見るだけで満足する。
試行錯誤しながら完成した一年は満足いくものになった。すると今度は他の人の一年も気になってくる。それぞれの一年を持ち寄って発表して語りあいたい。できれば知らない町で。
そんな私であるから旅をする時は行き先がメインで、ホテルは二の次で泊まれればいいくらいの考えであった。そのため「HafH」のようにホテル起点で旅を計画したのは実に新鮮であった。ジャケ買いのようにホテルの名前で選んでみたり、ロケーションで選んだり、コンセプトで選んだりしつつ、ホテルを絞っていく。
次にコインを計算して一年の計画を立てる。今回は想像するだけではあるが、限られたコインを駆使することによりある程度の制限も生まれ、リアリティがかなり増した。これがコインではなくお金だと輪郭がぼやけてしまうだろう。
START!
3月/書きながら泊まる、元喫茶店の宿
まずは「普段は喫茶店で仕事をしているので、そのまま泊まれるのが魅力的」と手頃な静岡の〈泊まれる純喫茶 ヒトヤ堂〉で2泊。元喫茶店を改装したゲストハウスでカフェ営業も。近くに徳川家康終焉の地、駿府城跡あり。
4月/アイデアを探して、昭和レトロなホテルへ
「原稿のヒント欲しさに変わったところに行きたくなる」らしく、春の宿は熱海の廃映画館横にある〈ロマンス座カド〉に決まり。シングルルーム「文豪の部屋」には宿横にある書店の鍵が隠されているとか。
5月/仕事が詰まっているため、今月はお休み
6月/水田に囲まれたホテルで雨を感じる
梅雨は「雨で隔離される気分を味わいたい」と山形・庄内地方の〈SHONAI HOTEL SUIDEN TERRASSE〉で過ごす。建築家の坂 茂が「田んぼに浮かぶホテル」をコンセプトに設計したホテルで、田園ビューの客室が人気。
7月/8月・9月に備えてコインを貯め、次の目的地を調べる
8月/空に近い八女茶の産地で思案する
インプットに励む8月。福岡の茶処・八女(やめ)の〈天空の茶屋敷〉は笠原川が生んだ峡谷の山頂にあり、露天風呂からの眺めは最高。「福岡は都会だと思っていたけれど、山奥にはこんなに大自然が!」と感動し、思わず2泊。
9月/離島の宿で本に囲まれ、筆を進める
「約3,000冊の本に埋もれて執筆を」と2泊したのは、かつて文人墨客で栄えた伊豆大島の港にあるゲストハウス〈露伴〉。宿名は幸田露伴と『ジョジョの奇妙な冒険』に登場する岸辺露伴に由来し、カルチャーを感じる場所。
10月/2ヵ月連続で旅をしてインプット完了。東京で働く月
11月/北陸で自然の香りに包まれる
静寂の中でインスピレーションを……と石川県小松の宿〈伝泊 小松〉で2泊。国登録有形文化財である上層農家・旧下里家を改修した母屋の眼前には雄大な大杉谷川が流れる。「森林が醸す“ずっと嗅いでいたい香り”がありそう」
12月/年の瀬はなんだかんだ忙しく、いったんお休み
1月/島根の温泉街で伝統に触れる
新年は「知らない文化や風習がある気がする」と島根で2泊。築145年の古民家ゲストハウス〈湯るり〉は1,300年前に開湯した温泉街の中ほどにあるため、温泉巡りで執筆疲れも吹っ飛ぶ。毎週土曜の夜神楽もチェック。
2月/知床の流氷を眺める、人生初のサウナタイム
最後は北海道の〈北こぶし知床 ホテル&リゾート〉。この時季近くのウトロ漁港には流氷が漂着し、併設のサウナから真っ白な海が望めるとか。「雪深いし部屋に籠(こ)もるはず。サウナ未経験なのでこの機会に堪能します」
せきしろさんの旅は続く。
※ホテルの宿泊に必要なコイン数は2月1日時点のもので、変動の可能性があります。