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〈グッド グッズ イッセイ ミヤケ〉。ブランドではなく「プロジェクト」だから生まれる未知の面白さ

〈GOOD GOODS ISSEY MIYAKE〉は、「いいもの」を探求する雑貨開発プロジェクトだ。始まりは2018年。洗えるかごバッグ「MOKKO」や箱に着想を得たバッグ「BOX」など、遊び心あふれるプロダクトでファンを増やしてきた。この冬からはNYやパリなど海外でも展開。〈GOOD GOODS〉はブランドではなくプロジェクト——そう話すチームの皆さんに、ものづくりの舞台裏を聞いてみた。

text: Masae Wako

いつか見たことがあるようで、なんだか気になる形。手に取った瞬間に「出かけるのが楽しくなりそう」と思わせる佇まい。〈GOOD GOODS ISSEY MIYAKE〉のプロダクトは、年齢も性別も国境も関係なく、人の心をくすぐる力をもっている。一体どんなきっかけで、ものづくりが始まったのだろう?そして、なぜ雑貨にフォーカスしたのだろう。そもそも、どうして「プロジェクト」なのだろう?プロダクト作りに携わるデザインチームに話を聞いた。

Fさん

〈イッセイ ミヤケ〉にはいくつもブランドがあり、それぞれが独自に服や雑貨を作っています。多くのブランドには雑貨専門の担当者がいて、デザインはもちろん、時には生地作りから最終的な形まで一貫して手掛けている。そんな中「各ブランドから雑貨を専門とするデザイナーが集まってチームを作ったら、新しいクリエイションが生まれるのではないか?」というアイデアによりGOOD GOODSは始まりました。

Kさん

チームの発足と同時に、代官山に新たな店舗ができることとなりました。それが〈GOOD GOODS〉の始まりで、集まったのは数名。おのおのが所属するブランドで仕事をしつつ、新しい雑貨プロジェクトにも参加し、幾つものフィールドを横断しながら、独自の商品開発に挑戦しています。これはスタート当初から変わらず、今も同じです。

MOKKOシリーズ
軽くて柔らかく水洗いもできる無縫製のニットバッグ「MOKKO」シリーズ。新色はフラミンゴ、ターコイズ、ブルーパープル。MOKKO S.C. 2トートバッグ16,500円、22,000円、26,400円。ポシェット14,300円。

Nさん

ところが、急激に始動したはいいものの、従来のような「ブランド」「決まった素材」「コレクションテーマ」という全く枠組みのない状態で、イチから全てを自分達で考える、試行錯誤が続きました。当初は〈イッセイ ミヤケ〉のいくつかのブランドから雑貨をセレクトしたショップからスタートし、3年という歳月を経て、たくさんのオリジナルプロダクトを作りました。無数のアイデアやプロトタイプが生まれる一方で、プロジェクトの輪郭は依然としてぼやけたままでした。

Fさん

「GOOD GOODSって何なんだろう。どういう立ち位置?お店?新しいブランド?プロジェクト?」とチームで話し合いやリサーチを重ねました。おぼろげに見えてきたのは、「テーマやテイストを固定しないところから生まれる面白さもある」ということ。デザイナーひとりひとりの個性が、たくさんの可能性を提案できる。お客さんにとっては、むしろそのほうが選択肢も広がるよね、と。

まず手を動かして、「世の中に無いもの」を作ってみる

FUWA FUWA
野良着やもんぺに着想を得た「FUWA FUWA」。長方形の生地をひねって縫い合わせることで形作る。小さな生地片も無駄にせずパーツとして生かしている。植物残渣で染めた新色はグレー、オリーブ、ブラック。左2点・ショルダーバッグ各44,000円、右・バックパック47,300円。

〈GOOD GOODS〉とは何かを模索しながらも、ものづくりは続いた。このチームでは基本的に、一人一人が自身のプロダクトを企画から制作までソロで担当する。自分のペースで作り進め、見せられる段階になったらチーム内でプレゼンにかけるのだという。プレゼンはデザイン画やCG?あるいは……。

Nさん

すごくアナログです。素材だけでもいいしアイデアのもとになる道具でもいいのですが、何かしらの「もの」をみんなの目の前で見せるのが基本です。デザイン画だけでコミュニケーションすることは100%ないですね。

Kさん

僕は以前、バッグの会社にいたのですが、デザイン画を描いてスペックを出して素材のサンプルを添えて提出して…というやり方でした。でもここで同じことをしたら、「それじゃわからないから、なにか作ってきて」って。えっ、自分で作るの?どうやって?途方に暮れて周りを見たら、みんな自分で型紙を切ったり革を手縫いしたり、編み物してる人までいる。

Sさん

僕は入社して2年弱ですが、自分の手を動かして作ることが新鮮で。試作して、壁にぶち当たったら別のやり方を試してみる。ねじったり貼ったり織ったり組み立てたり……ものづくりのプロセスに「手」が関わるのが〈イッセイ ミヤケ〉らしさだな、と実感しています。

BOXシリーズ
折って組み立てるだけで平面が立体になる。「箱」のシンプルかつ優れた構造から発想したのが「BOX」。新色はチャコールグレー、ピンク、カーキ、ブラック。ショルダーバッグ・30,800円、36,300円、47,300円。

Nさん

想像したものをいったん形にしてみて、初めて意図が見え、意見の交換ができる。自分自身もチームの視点も、少しずつ整理されていくんですよね。面白いのは、ある時から、「言語」で整理されるのではなくて、「視覚的」に目の前のものと頭の中のイメージとのつながりが見えるようになってきたことです。

Kさん

そうそう。同時に、「常に世の中に無いものを作る」という感覚も生まれてきましたよね。〈GOOD GOODS〉は専門分野も個性も技術も違うメンバーが集まって、未知のものを作ろうとするチームである。つまり、ブランドではなく「プロジェクト」なんだと気づいたんです。プロジェクトならば実験的な発想もできるし、変化することも怖くないですから。

デザインの背景やプロセスを見せる展示が話題に

2020年に発表した「MOKKO」、2022年の「FUWA FUWA」、2023年の「BOX」など、次々と新しいプロダクトを生み続けた〈GOOD GOODS〉。その名をより広く世に知らしめたのが、2023年の展示「工夫 KUFU」だ。ディレクターに熊谷彰博を迎えたこの企画では、ものづくりのプロセスをひも解きながら、その背景にある日用品や古道具も紹介した。

Aさん

この展示をするにあたって、自分たちがどんなふうにものを作ってきたのかを、とことん見つめ直したんです。そうしたら、「GOOD GOODSは、生活の道具に着想を得てものづくりをしている」という側面が浮かびあがってきた。無我夢中で進めてきたプロジェクトが、ひとつの輪郭を持ち始めたような感覚がありました。

Fさん

実際、カゴや織り物などの生活道具が作られている現場へ勉強に行くこともあるんです。明確な目的に添ったリサーチというより、昔の素材や技法、使う時の所作などを、まず学ぶ。現代のデザインに昇華できるかもしれないし、できないかもしれないし、5年後に突然「あの時の技法をバッグの留め具に使えないかな?」と、つながるかもしれない。

工夫
大好評だった2023年夏の展示「工夫 KUFU」。〈GOOD GOODS〉のアイテムと併せ、関連性のある日用品や民具も展示した。

Kさん

「まずやってみる」という実験的なものづくりができるのは、プロジェクトならではですよね。

Nさん

それで言うと、チームメンバーが異なるブランドに属していることもプロジェクトの強みです。それぞれが異なるブランドの一員としても活動し、異なる知恵や知見を持っている。だから、誰かが悩んでいるのを見て、「その形なら、この素材が役立つかも」と声をかけたり、逆に〈GOOD GOODS〉の雑貨のアイデアが、ブランドの服作りに反映されたりもします。

Kさん

〈GOOD GOODS〉のバッグのデザインに〈A-POC ABLE ISSEY MIYAKE〉の素材を掛け合わせるというような、社内の協業もありましたね。

そして2024年春には、渋谷PARCOの3階に新店舗がオープン。中村圭佑率いる〈DAIKEI MILLS〉が、棚やパネルを自由に組み替えられる可変的な空間を設計した。軽やかでポップなディスプレイに、「お店の前を通って〈GOOD GOODS〉を初めて知った」「実際に手に取ってびっくりした」と興味をもつ人が続出。実験的なアプローチが生む面白さは、直観やイメージを重視する若い世代にも広く伝わりはじめている。

社会の動きや人の想いとつながるデザインをしたい

そしてプロジェクト開始から6年となる今年の冬。再び「工夫 KUFU」をテーマにした展示が始まった。今回は国内のみならず、〈イッセイミヤケ〉のNY、パリ、ロンドン、ミラノの店舗でも展開。昨年の「工夫 KUFU」に興味を持った現地スタッフからの熱いオファーもあり、プロジェクトにとっては初めての海外展示となった。今年もディレクションは熊谷彰博。「MOKKO」「FUWA FUWA」「BOX」の3シリーズを取り上げつつ、ものづくりのプロセスの、さらに一歩先を紹介するディスプレイを展開する。一歩先とはどういうことだろう?その答えの鍵は、先ほどスタッフが語った「言語で整理されるのではなく、視覚的に商品とイメージとのつながりが見えるようになってきた」という一言にある。

Fさん

言葉で説明しすぎることはせず、感覚や直観にうったえる店頭ディスプレイや映像を考えていただきました。商品とともに展示するのは、「アイデアの芽がプロダクトとして形になるまでのプロセスを、部分的に切り出したエレメント(オブジェ)」です。

〈GOOD GOODS〉の商品と併せて展示されるエレメント
〈GOOD GOODS〉の商品と併せて展示されるエレメント(オブジェ)。左上は「MOKKO」のもとになったカゴを連想させるもの。2023年の「工夫 KUFU」ではリアルなカゴを展示したが、今回は概念としてのカゴである。右上は野良着やもんぺから「FUWA FUWA」が生まれた過程を想像させる造形。

Nさん

これはイメージや概念を視覚化したものなので、わかりづらいかもしれませんね。商品と関連した形もあれば、これから生まれる新たなプロダクトの一部となるかもしれないものも含まれます。

でも、はっきり理解してもらえなくてもいいと思っているんです。ディスプレイを見て、「面白いな、これ何だろう?」と疑問が生まれ、興味が湧いて、バッグを手に取って何かに気付いてもらえたら十分。

Kさん

〈GOOD GOODS〉の面白さは、一歩踏み込んだところにあるストーリーやプロセスに色濃く表れる。この展示はそういう“自己紹介”なんです。

Fさん

たぶん僕たちは、雑貨を作るというよりデザインをしているんだと思います。年齢や思考性で分けたカスタマーに向けてものを作るのではなく、人々の生活や社会の動きとつながるものをデザインする。そう考えると、〈イッセイ ミヤケ〉らしさを色濃く継承したプロジェクトなのではないでしょうか。