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原作者、ダブル監督の3者による、『化け猫あんずちゃん』映像化までの道程

漫画家いましろたかしさんの名作『化け猫あんずちゃん』が、実写で撮影した映像からトレースし、アニメーション化するロトスコープの手法を用いて、日仏合作映画として蘇る。本作でタッグを組んだアニメーション、イラストレーション、漫画家で活躍する久野遥子監督と日本映画の名手である山下敦弘監督の2人、そして原作者のいましろさんが、完成までの長い道のりを振り返る。

photo: Yudai Emmei / text: Tomoko Ogawa

『化け猫あんずちゃん』、どう動きだす?

山下敦弘

原作『化け猫あんずちゃん』は、いましろさんの中ではちょっと独特の作品ですよね。おじさんの話ばっかりだったいましろさんが小学生向けの『コミックボンボン』に描くなんて!という驚きもあったけれど、読んでみたら、ちゃんと主人公の猫は可愛らしくて。

久野遥子

いましろさんの漫画は、男の人が自分が今どのように負けているかといった状況をすごく見つめていて、その情けなさやキュートさがあると思っていましたが、あんずちゃんはハッキリと作風が違うなと。

猫だから、男性主人公とは違って、責任をある種背負ってない部分が魅力だなと感じていました。

山下

あんずちゃんはキャッチーだから、映像化には向いているだろうとどこかで思って狙っていたんですよね。

いましろたかし

5年ぐらい前に話をもらって、正直流れるかもしれないと思いながら聞いてましたけどね。最終的にアニメの企画になっていて、ポーズが正面、横、後ろしかないから、動かすのは結構難しいんじゃないかと思ったんだよね。

久野

確かに、ロトスコープでアニメにするという話が来たときは、原作にない角度を描かざるを得ないので、どうしようかと練る時間がありましたね。

左からいましろたかし、久野遥子、山下敦弘
左から、いましろたかし、久野遥子、山下敦弘。

もう一人の主人公が誕生

山下

物語の面でも、あんずちゃんともう一人主人公がいるだろうとは考えていたけれど、一本の長編としてどうまとめるかは、脚本のいまおかしんじさん含め、かなり時間をかけて話し合いましたよね。

久野

かりんという少女のキャラクターの投入が決まっても、彼女が前に出すぎると話の様子がおかしくなってしまうし、バランスが難しかったですよね。

いましろ

長編映画としてストーリーを作るんだったらフックがいるだろうし、別物にはなるだろうと想像していました。それで、久野監督と山下監督といまおかが、プロデューサーと一緒に持ってきた最終段階のシナリオを読んだんだけれど、完全には納得はできなかったのね。

だから、その理由を伝えて、「それでもやりたいのであれば、やってください」と言いました。僕は、映画は監督とプロデューサーのものだと思ってるから。

山下

そう言われるんじゃないかと予測はしてました。主人公も新しいキャラクターで、「これはかりんの映画だ!」と突っ走ってしまった時期もあり、「いや、あんずです」と久野さんに引き戻してもらっていたし(笑)、おかみさんも生きてないことにしちゃったし……。

いましろ

かりんはいいんですよ。でも、あんずちゃんに唯一冷たい態度をとるおかみさんがいないのは、僕としてはなんか寂しい。ほかの人はあんずちゃんに甘いという対比がいいなと思ってたから。

山下

ただ、いましろさんにいろいろ相談して、アドバイスをもらったことで決まっていったディテールも多くて。

いましろ

例えば、妖怪たちがあんずを助けにカウンタックで来るんです。それでもいいんだけど、僕は軽トラの方がいいと思ったんだよ。「カウンタックって2人乗りだよ?」って言って。

久野

そこは最後までそうおっしゃってましたね(笑)。展開の部分でも、妖怪たちと鬼との勝負の行方は、いましろさんのアイデアを使わせてもらってます。

山下

昆虫たちがあんずの危機を伝達するくだりもいましろさんの案だし。

いましろ

虫を使った伝言ゲームは、水木しげるの有名なアイデア。彼が一番最初に考えたのかはわからないけれど、小学生のときに見て、すごいと思って。

久野

いましろさんに意見をもらった段階で、完成に近いものになりましたよね。

いましろ

完成したものを観て、普通のアニメとは雰囲気が違う綺麗な絵だなと思ったし、いいですよね、のどかで。

『化け猫あんずちゃん』
おしょーさんに拾われた仔猫が、何年経っても死ぬことがなく37歳の化け猫あんずちゃん(森山未來)に成長。ある日、行方知れずだったおしょーさんの息子が11歳の娘かりんを連れて帰省。あんずちゃんはお世話係を頼まれるのだが……。7月19日、全国公開。