Visit

彫刻家・菅原玄奨の個展『湿った壁』が開催中。どこか虚無感を背負う、現代人のオブジェクト

彫刻家・菅原玄奨さんの個展が、神宮前〈EUKARYOTE〉で開催中。現代社会の実体のなさに光を当てた作品を生み出す菅原さんに、新たに挑戦して辿り着いたという技法とモチーフについて話を聞いた。

text&edit: Emi Fukushima

外圧と内圧の間(あわい)に佇む、儚(はかな)い現代人の姿を

ありふれた誰かのようであり、自分自身のようでもある。現代社会の実体のなさに光を当て、どこか虚無感を背負う現代人をかたどるオブジェクトを作る菅原玄奨さんの個展が、東京・神宮前の〈EUKARYOTE〉で開催中だ。

彼の従来の作品の多くは、粘土で作った塑像(そぞう)の型の中にFRP(繊維強化プラスチック)を込めて成型したもの。だが2023年からは作陶に用いられる粘土を型に込め、素焼き(テラコッタ)の像を形作る試みを始めた。今回の新作3点も、この新たな技法によるもの。菅原さんは次のように話す。

「込める素材が扱いやすいFRPから、水分量や室温に敏感な粘土になったことで、時間も手間もかかるようになりました。またFRPは型の中で硬化させる一方、粘土は型から外した後も軟らかいまま。作業には一貫して繊細さが求められますが、細部まで、そして焼成する直前まで自分の触覚を頼りに成形を進められるため、彫刻の本質により踏み込めたように思っています」

一般的に彫刻は削る行為を通じて外から内へとアプローチするが、型を介することで内から外へ粘土を押し当てる工程が入るのもこの技法ならでは。

彫刻家・菅原玄奨の作品
表面のひび割れにも注目。撮影:Kazuto Ishikawa

「外圧と内圧の表層に像が形作られるさまは、社会からの外圧と、反発する感情の内圧との“間”でせめぎ合う現代人のイメージとまさに繋がる点。かねて表現してきたモチーフと技法とがうまく結実したように感じています」

それぞれの像の表面に残る型と粘土の圧迫によるひび割れが、外圧と内圧、そしてさまざまな“間”でせめぎ合う現代人の脆さや儚さを象徴する。展示期間は残り少ないが、この機会にぜひ実物をいろんな角度から眺めてほしい。