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星野源のアルバム『Gen』を読み解く。収録曲を4人のミュージシャンがクロスレビュー

現在の星野源をそのまま映したよう、と本人も形容する最新アルバム『Gen』。5年の歳月をかけた末に完成した全16曲の大作の魅力を、4人のミュージシャンがクロスレビューする。この記事ではその一部として「創造」「Star」「喜劇」の3曲のレビューを紹介。


本記事は、BRUTUS「星野源と、音楽と。」(2025年6月16日発売)から特別公開中。詳しくはこちら

text: Katsumi Watanabe

レビューしてくれた人:宇多丸(ラッパー、ラジオパーソナリティ)/キタニタツヤ(シンガーソングライター、プロデューサー)/柴田聡子(シンガーソングライター、詩人)/冨田恵一(音楽家)

レビューした曲はこちらの3曲

創造

星野の任天堂&マリオ・シリーズへの愛情とオマージュが込められた楽曲。今回、アルバム『Gen』用に新たなイントロを加え再構築された。

宇多丸

弾け回るドラムがマニフェスト!

今回はいよいよ本格的に「ビートが主役」で行きますよ!と元気いっぱい宣言するかのような1曲目。そこはかとない「YMOみ」も、全体に共通する要素だと思う。

キタニタツヤ

巧みな編曲と構成で、心躍るキラートラック

いろいろな音が使われているものの、オケの構成やアレンジの巧みさから、すべての音色がきれいに聞こえる。最初に聴いた時は、クオリティの高さに落ち込みました。

柴田聡子

過去と未来の制作へ尊敬を込めた名曲

シングル版にアレンジが加わり聴き応えが増したと思う。歌詞には、何かを作ってきた人への敬意と、後進へのエールがある。星野さんが言ってくれると勇気が出ますね。

冨田ラボ

DAWと生演奏による理想的なグルーヴ

推敲による編集感覚と肉体的な演奏におけるバランスではベストな曲。ゲームキューブ起動音パートが演奏によりフランク・ザッパみたいになっていて好き。

Star

「星」という曲名や「好きを源に」という一節を含め、『Gen』のタイトルトラックとも感じさせる楽曲。ストリングスアレンジは星野自身が担当。

宇多丸

イントロ2枚使いでラップしたい!

隅々まで妥協なきグルーヴが貫かれたスティーヴィー風ファンク。聴覚だけでは理解しきれない(でも韻は踏んでる)箇所もあえて含む歌詞の「和」な哲学性も素敵。

キタニタツヤ

リッチとニッチの理想の同居を実現

アルバムのベスト曲。星野さん主導によるスタジオワークと、DAWによる編集。そのバランスが素晴らしい。サビ終わりのストリングスの動きがすごくかっこいい。

柴田聡子

今後ライブで聴きたい。新アンセム誕生

石若駿さんのドラムには台風前夜にワクワクするような焦燥感がありますね。それをストリングスの不思議なフレーズで加速させている感じもいい。ライブで聴きたいです。

冨田ラボ

独自の視点による、メロウなAORの解釈

個人的に馴染みのあるAOR的なグルーヴの楽曲。とても好きな曲調です。僕も近いグルーヴの曲は作るけど、星野さん独自のアプローチがあって面白いですね。

喜劇

自らのことを、歌にすることを避けてきた星野が家族を主題に、初めて「自分の歌」として制作。自身のエッセイには制作背景を記している。

宇多丸

真の孤独を知る者が歌う人生の肯定

ネオソウルをどう自分流に消化するか?が星野源の進化を促した一つの原動力だったとするならば、これは明らかにその、ひとまずの決定版。リミックスも最高!

キタニタツヤ

正しい大人が描く、理想の家族の作り方

「血に勝るもの」と「君といる奇跡を」という2つのフレーズ。家族をこういう言葉で描くのかと感動して。正しく年を重ねた結果、出てきた言葉なんじゃないかな。

柴田聡子

思惑を超越して、真っすぐに届く歌声

巧みなアレンジや構成もすごいけど、多彩なメロディセンスが本当に素敵。「あの日交わした」あたりのメロディが切なくて、真っすぐ胸に来る。大好きな曲です。

冨田ラボ

仕掛けを探すうちにハマってしまった曲

フックの前に4分の2拍子とドミナント不在で転調に聞こえるあたりのコードサンプルのようなエレクトリックピアノの音色も好きです。ギミックをそう聴かせないうまさ。

アルバム『Gen』の総論

宇多丸

毎度唸らされるアルバムタイトル。今回も輪をかけてすごい。究極的に直球なようで、実は幾重もの読みが可能……そのバランスは、国民的スーパースターとなるほどに、より広い視野、より高く深いレベルの模索に乗り出さずにはいられないようでもある星野源の現在地、いわば「そう単純ではない普遍」、そのものだ。その覚悟は、本作に実っている。

キタニタツヤ

近年DAW(デジタル・オーディオ・ワークステーション)を駆使した制作のノウハウが集積する一方、リッチなスタジオワークを知らない人も増え、自分もその一人として悩んでいる。『Gen』では両者が有機的に絡み合い、良質な生楽器もカジュアルな宅録も平然と混在させハイクオリティな音楽を作り上げた。未来の音楽家の教科書になると思います。

柴田聡子

16曲収録の大作だけど、いい曲が多いので、最初から楽しく聴ける。何度もヘッドホンで聴き込んでいくうち、編曲やミックスを含め、ものすごく練られたオリジナルアルバムだとわかる。聴き馴染みのある既発曲には、新たなアレンジが加えられていて。時間をかけて自分の興味や理想を追い求める姿勢には驚愕させられました。

冨田ラボ

DAWを導入し、推敲を繰り返しながら作られたと思われる挑戦的なトラック。メロディは6曲目の「2」など、ほかの人が歌っても一聴して星野さんの書いた曲であることがわかる。声だけでなく、メロディにおいても記名性が強くなった印象。演奏における肉体性と、DAWによる編集感覚が加わり、絶妙なバランスで共存していると感じました。

No.1033「星野源と、音楽と。」ポップアップバナー