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ゲームと、原点 #01:初めては80年代アーケード。『Ghost of Yōtei』プロデューサーが語る、ゲームの原体験

1950年頃に誕生して以来、目まぐるしく進化を続けてきた「ゲーム」。ゲームはさまざまなカルチャーを取り込んで発展すると同時に、別のカルチャーにも影響を与えてきた。制作する側も、プレイする側も、その魅力に惹きつけられた人々に聞く「ゲームと、原点」。第1回は〈Sucker Punch Productions〉の共同創業者、ブライアン・フレミング。

photo: Hiromichi Uchida / text: Neo Iida

アーケードからオープンワールドまで。ゲームの進化を目の当たりにしてきた

『Ghost of Tsushima(ゴースト・オブ・ツシマ)』、『​​Ghost of Yōtei(ゴースト・オブ・ヨウテイ)』を世に送り出した〈Sucker Punch Productions〉。その共同創業者であり、両作のプロデューサーとして指揮を執るのがブライアン・フレミングだ。

「最初にゲームに触れたのは、ゲームセンターにあった『ドンキーコング』や『スペースインベーター』などのアーケードゲームです。そのあと《Apple II》(Apple Computerが1977年に発表したパーソナルコンピュータ)でゲームをするようになり、『ウィザードリィ』や〈アタリ〉の『ブレイクアウト』をプレイしました」

ブライアン・フレミング
ブライアン・フレミング|米ゲームスタジオ〈Sucker Punch Productions〉共同創業者。Microsoft勤務を経て1997年にスタジオを設立し、プロデューサーとして『怪盗スライ・クーパー』や『inFAMOUS』シリーズを手がける。2020年にはアクションアドベンチャー大作『Ghost of Tsushima』が世界的ヒットを記録。Ghostシリーズの最新作となる『Ghost of Yōtei』が好評発売中。

子供だったブライアンが初めてゲームを体験したのは1980年代。まだ任天堂が《ファミリーコンピュータ》を発売する以前、コンシューマゲーム機ではなくアーケードでゲームをプレイした時代だ。

ブライアンの成長とともに、ゲームのクオリティも進化。高性能のコンシューママシンが登場するごとに表現力が上がるのを目の当たりにした。

「昔からRPGが好きなんですよ。コマンドを入力して相手の順番を待つターンベースのシステムだった頃から、徐々にバトルもコミュニケーションもリアルなものになり、3Dが導入されて、今のようなオープンワールドのような形になっていくのを時代とともに体験してきました」

日本映画だけではなく、西部劇や『キル・ビル』にも影響を受けた

さらにブライアンが強い興味を抱いたのが映画だ。大学で映像のスペシャルエフェクトを学ぶなかでコンピュータのプログラミングに触れ、エンジニアになった。マイクロソフトにいた頃は、ビル・ゲイツのオフィスでテクニカルアシスタントをしていて米国ではローンチする前だった《プレイステーション》を触ったこともあるという。

1997年には〈Sucker Punch Productions〉を立ち上げ『怪盗スライ・クーパー』や『INFAMOUS~悪名高き男~』などのアクションゲームを手掛け、2020年に発表した『ゴースト・オブ・ツシマ』が世界的に大ヒットした。丹念な時代考証を重ねて13世紀の日本が見事に表現されており、侍たちの葛藤までを力強く描き切っていた。また刀を使ってのバトルには、明らかに時代劇の影響が感じられた。

『ゴースト・オブ・ヨウテイ』
『ツシマ』と同じGhostシリーズの最新作として2025年10月に発売された『ゴースト・オブ・ヨウテイ』。1603年の蝦夷地(北海道)を舞台に、“蝦夷富士”として名高い羊蹄山の麓で敵討ちの物語が繰り広げられる。剣戟、ステルス、探索が融合したオープンワールドアクションゲーム。

「実際に『ツシマ』や『ヨウテイ』を見ていただければその影響が見えると思いますが、昔から映画が大好きだったんです。日本映画であれば黒澤明監督の『七人の侍』や三池崇史監督の『十三人の刺客』。西洋の映画にはない静けさがあり、あえて動きがない描写が多い。そして個性豊かなキャラクターがたくさん登場しますよね。老人がいたり型破りな若者がいたりして、それぞれの個が融合していく。そこにも強く惹かれました」

前作『ツシマ』では、画面の色調をモノクロに変えることができる黒澤(明)モードを採用した。『ヨウテイ』でもそのオプションは引き継がれており、さらにカメラが寄って緊迫感を演出する三池(崇史)モードも新たに加わっている。特に『ヨウテイ』を作るにあたり影響を受けたカルチャーには、どんなものがあるのだろうか。

「黒澤作品や三池作品はもちろんですが、西部劇や『キル・ビル』にも影響を受けました。BGMを聴いていただくと、そのあたりの要素がわかると思います。さらに今回の舞台となっている北海道からも大きな影響を受けています。その土地が持つ特有の自然、そこにしかない植物、動物、そして歴史と文化。チームで何度も北海道に足を運び、住んでいる人たちに会い、古い時代を知る識者の方々にも話を聞きました。あとは博物館に行ったり、資料を読み込んだりして、北海道が育んだ様々なものに触れてきました」

まず描きたかったのは篤という人物。そこに北海道という土地が融合した

『ツシマ』は13世紀後半の長崎が舞台だった。例えば織田信長や豊臣秀吉が登場する戦国時代や開国への機運が高まる幕末などのアイコニックな史実ではなく、九州が戦場となった元寇を取り上げた〈Sucker Punch Productions〉のセンスは大きく評価された。

今回、『ヨウテイ』の舞台は17世紀の北海道。蝦夷地と呼ばれ、古くからこの土地に住むアイヌ民族の他に、松前藩が勢力を伸ばし支配を強めた時代だ。北海道を描くことに決めたのはどういう理由があったのか。

「17世紀の北海道というのは、僕らにとって非常に面白そうなところだったんです。広大な世界であり、開拓地であり、危険でありながら美しい。そして人口密度が高くない。そういった要素が西部劇と共通し、壮大な物語を語るにはちょうどいい場所だなと感じたのです。といっても、『ツシマ』の続編を作ろうと思って、あえて場所を探したわけではないんですよ。我々〈Sucker Punch Productions〉では、作品の中でキャラクターのオリジンストーリーを語るというのがゲーム作りの大きなテーマなので、まずは篤という人物をしっかり描きたかった。シーンをどう見せようかといろいろ考えたとき、西部劇の開拓地のような雰囲気があるといいなと思っていて、そういったアイデアと北海道という場所が融合し、着地したんです」

主人公である篤は、両親の仇を討つため羊蹄六人衆を探す。敵と対峙した際に鳴るエレキギターの音色やアクロバティックなバトルは、いわゆる日本の時代劇だけでなく、ブライアンの言葉どおり西部劇や『キル・ビル』のようなアクション映画の影響が感じられる。

また、画面の演出オプションとして黒澤モードと三池モードがあるのに対し、サウンドオプションではアニメ『カウボーイビバップ』や『サムライチャンプルー』で知られる監督の名を冠した渡辺(信一郎)モードが搭載されている。

このモードを選ぶとBGMがLo-Fiサウンドに切り替わり、Sweet Williamやmabanua、江﨑文武らによる現代的かつ心地よい音楽で蝦夷地を冒険できるのだ。ブライアン曰く「チーム内には『サムライチャンプルー』のファンがたくさんいますから」とのこと。新感覚サムライアニメと呼ばれ、楽曲にはNujabesやFat Jonが参加し音楽的な評価も高い名作の影響も、『ヨウテイ』には息づいている。

『ヨウテイ』に表現された、日本文化の静けさ、余白

ちなみに、ブライアンは釣りが趣味だそう。釣りといえば、獲物を釣り上げることはもちろんだが、川や海に糸を垂らして物思いにふける静謐な時間もまた醍醐味。

『ヨウテイ』にも相通ずるものを感じたが、「実際に釣りが『ヨウテイ』に直接的な影響を及ぼしたわけではない」とブライアンは言う。ゲームはあくまでチームで作る総合作品であるから、ブライアンの趣味嗜好が大きく反映されているものではないのだ。ただ、日本文化への解釈はチームで一致しているという。

「西洋文化が作るエンターテインメントが刺激を詰め込む傾向にあるのに対し、日本文化には静けさや無の時間、余白があるように思います。その魅力をなるべく表現しようと思い、『ヨウテイ』にも取り込みました。ですから、そういう感覚を持っていただけることは嬉しいです。……そうですね、釣りでいえば、私の好きな言葉をお伝えしましょう。ジョン・バカンの言葉なんですが、『釣りの魅力というのは、手に入らないわけではないけれど、なかなか手に入らないものを追いかけるところにある。常に希望を持ち、希望を繋げるところが魅力なのだ』。これは私がとても大切にしている言葉のひとつです」

最後の一節は、ゲームを作るクリエイターとしてまたゲームを愛し冒険を続けるひとりのプレイヤーとしてのブライアンの言葉のようにも思えた。

ブライアン・フレミング
「風景を眺めて目に留まったところに行ってみる。誰かの話がヒントになる。『ヨウテイ』ではそんなふうに、キャラクターとしての出会いがストーリーを進めてくれます。あなただけの物語を体験してください」とブライアン。手に特典版に付属する「怨霊の面頬」を持って。