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自分だけの物語を作る。“ゲームならでは”の体験を、ライター・さやわかが解説

目の前に広がる、見たことのない景色。その世界の中で、今この瞬間、自分だけがこの物語を知っている。選ばされるのではなく自由に選び取る。ゲームライターさやわか氏解説のもとゲームならではの体験について考察。

text: sayawaka

“ゲームならでは”の没入感が、新しい物語を作る

文:さやわか

10年前、世界中のゲーム開発者の間で「ナラティブ」という言葉が流行した。一言でいえば「なぜか自分だけの物語を体験したように感じてしまう仕組み」を指す言葉だ。

たとえば『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』や『ELDEN RING』のプレイ中には、何となく山を登ってみたくなる。けれど途中で飽きてふと周囲を見ると、たまたま洞窟を発見したりする。そこに入ってみたら、閉じ込められた人に助けを求められたりもする。

ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム(2023)
2017年発売の人気作『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』の続編。広大な土地や大空を翔(か)けめぐり、主人公リンクが王国を襲う異変に、新たな力で立ち向かう。
(対応機種:Switch)
ELDEN RING(2022)
人気RPG『ダークソウル』シリーズなどのフロム・ソフトウエアによる初のオープンワールド作品。シナリオには『ゲーム・オブ・スローンズ』で知られるジョージ・R・R・マーティンも参加。
(対応機種:PS5/PS4/Xbox/PC)

プレイヤーは、それらを自分の意志で行ったと感じる。山を登れと命じられた訳ではないし、洞窟の場所が標識で示されもしない。「偶然」それを行い、「たまたま」人に遭遇したふうに思える。だが実はプレイヤーは、そう感じるように導かれている。はっきりと指示せず、でも丁寧に作り込んで、プレイヤー自身がその筋書きを生み出したと強く思える仕組み。それがナラティブだ。

つまりナラティブは物語作りの「工夫」をシンプルに指す言葉で、ナラティブを感じる作品は昔から存在する。それでもこの言葉がゲーム好きの間で流行したのは、映像や音声が高度になったからこそ、物語自体の没入感も意識しようと捉えられるようになったからだろう。

以前からゲームの物語は高度化していた。広大な世界を作り込んだオープンワールド形式の作品や、シナリオが無限と思えるほど分岐する、膨大な文章量を持つゲームが無数に生み出されていった。ナラティブの流行は、そういったゲームを洗練していくものだった。

たとえば『The Last of Us』シリーズや『The Witcher3』なども、Netflix系のグイグイ引き込まれるテレビドラマを思わせつつ、プレイヤーの没入感を深める工夫を数多くちりばめている。名作『Skyrim』のスタッフによる最新作『Starfield』も従来のオープンワールドの流れにありながら、尋常でないほどの作り込みを行い、プレイヤーに「自分だけの物語」をもたらす。

あるいは日本のノベルゲーム『レイジングループ』なども同様かもしれない。シナリオがすさまじく長大なので、自分の選択でどこまでも話が続いていくように楽しめるのだ。

The Last of Us Part I(2022)
謎の寄生菌によるパンデミック後の世界を描いたサバイバルゲームのフルリメイク版。主人公が少女を守りながらアメリカを横断する原作の物語は高く評価され、続編やドラマ化も成功。
(対応機種:PS5/PC)
The Witcher 3: Wild Hunt(2015)
ポーランドのファンタジー小説を原作とするシリーズの3作目。非常に高い完成度から、本作を単体でプレイする人も多い。原作はNetflixでドラマ化もされた。
(対応機種:Switch/PS5/PS4/Xbox/PC)
Starfield(2023)
『Skyrim』『Fallout』シリーズなどで知られるベセスダ・ソフトワークスの完全新作。多数の勢力が争う壮大な宇宙を舞台にしたオープンワールド作品。
(対応機種:Xbox/PC)
レイジングループ(2015)
村に迷い込んだ主人公が殺人儀式に巻き込まれる人狼ゲームを題材にした推理ノベルゲーム。プレイを繰り返すことで真相に迫る“ループもの”としても秀逸。
(対応機種:Switch/PS4/PC/iOS/Android)

『Life is Strange』『Detroit:Become Human』などのSF作品は、主人公の人生観や社会問題、哲学的なテーマなどにプレイヤー自身が向き合える思考的なナラティブの作り込みがあり、幅広い層に届くヒットにもなった。つまりナラティブの重視は、従来の、ゲームの物語を自分と無関係な、空々しいものに感じる人々を振り向かせてもいる。

Life is Strange(2015)
主人公はアメリカの片田舎に住む女子高生。時間操作SFと青春が交錯する。シーン内の様々な物品に触れると物語が進行するアドベンチャーゲーム。
(対応機種:PS5/PS4/PC/iOS/Android)
Detroit: Become Human(2018)
主人公は3人のアンドロイドで、おのおのの物語が入れ替わりながら進行していく。AIの進化と彼らへの差別を扱ったシナリオは、重厚でリアル。
(対応機種:PS4/PC)

ナラティブなんて一過性の流行語だと話す人もいた。だが、実際はこの10年でその考え方が浸透し、それに伴ってゲームの物語がどんどん奥深くなっていったのだと言える。自分だけの物語を生き、自分だけの思い出を作れる。そんな物語を楽しめるゲームが、今は山ほどある。