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超低予算で映画を作るには?アメリカのインディ映画からノウハウを学ぶ

300万円という破格の製作費で作られ大ヒットした『カメラを止めるな!』を観て、お金がなくても映画撮れるかも?と思った人も少なくないだろう。だが、数十億円という製作費が珍しくないアメリカの映画界にも、『カメ止め』より低予算でヒットした作品が数多くある。では、低予算でも良作に仕上げるために監督たちはどんな工夫を凝らしているのか?インディ映画に詳しい〈グッチーズ・フリースクール〉主宰の降矢聡さんに語ってもらった。

初出:BRUTUS No.904『映画特集 いま観る理由』(2019年11月1日発売)

text: Keisuke Kagiwada

「現在30代の私たちの世代にとって、低予算で作られたにもかかわらず大ヒットした作品として忘れられないのが『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』。これは1999年のホラーですが、現在の低予算映画にも通じるアイデアに満ちています。

例えば、本当にあった怖い話を映したドキュメンタリーという設定にすることで、手持ちの安価なカメラによるブレブレの映像を、逆にリアリティのある映像として提示した点などです。2012年のスプラッター映画『ファウンド』も画質の悪いカメラで撮っているのですが、主人公たちがVHSのB級ホラー好きという設定にすることにより、作品の世界観を補強する要素に変えていました」

どうしても予算がかけられない部分を、アイデア一発で作品の世界観をより強化するために逆利用する。この発想の転換が、低予算映画の質の向上に繋がっているようだ。では、ホラー以外はどうなのだろうか。

「お金がかかりそうなイメージがあるSF作品にも、『プライマー』や『アナザー プラネット』といった驚くほど低予算な作品があります。いずれも物語や設定の妙で、話題になった作品。私たちが配給した青春群像劇『アメリカン・スリープオーバー』は、ほぼ全員が素人俳優ですが、まだ色がついていないからこそ出せる、生き生きとした魅力が刻まれています。

また、本作の作り手たちにはお金はないけど時間はあったので、製作期間は6年以上と準備には多くの時間をかけたそうです。つまり、今回紹介したいずれの作品にも当てはまるのは、作者の想像力は無限だし、無料だということかもしれません(笑)」

製作費600万円
『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』

'99米/監督:エドゥアルド・サンチェス、ダニエル・マイリック。

現代低予算映画のオリジネーター。魔女伝説を題材にしたドキュメンタリータッチのホラー。「“本当にあった怖い話ですよ”と宣伝するという話題作りもうまかったですね」。

製作費80万円
『ファウンド』

'12米/監督:スコット・シャーマー。

見せられない部分は見せない。その潔さが奏功したホラー。兄が自室に生首を隠しているのを発見してしまった少年の物語。「クライマックスの殺人を、直接は見せずに音だけで表現するシーンも低予算ならではの秀逸なアイデアですよね」。

製作費70万円
『プライマー』

'04米/監督:シェーン・カルース。

一般作では許されない複雑な物語でカルト的人気に。ガレージでタイムマシンを発明した2人の青年の旅を描く。「低予算映画でなければ企画が通らないくらい物語が複雑。結果、検証サイトがいくつも立ち上がるカルト作に(笑)」。

製作費1,000万円
『アナザー プラネット』

'11米/監督:マイク・ケイヒル。

一休さん的発想で地球と別の惑星を描く。地球と瓜二つの惑星をめぐるSFドラマ。「この作品は“地球と瓜二つの惑星”という設定から、あり得たかもしれないもう一つの人生という人間ドラマに展開していくのがうまい」。

製作費300万円
『アメリカン・スリープオーバー』

'10米/監督:デヴィッド・ロバート・ミッチェル。

素人俳優だからこそ出せる魅力を収める。お泊まり会に参加する少年少女の瑞々しくも切ない姿を綴る。「撮影は駆け出し時代のジェームズ・ラクストン。その後『ムーンライト』で有名になりました」。