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〈ベルベルジン〉藤原裕と〈ミスタークリーン〉栗原道彦が語る、古着の現在地と未来

藤原裕さんは〈ベルベルジン〉、栗原道彦さんは〈ミスタークリーン〉という東京を代表する古着店の顔役。今の古着シーンや90年代のブーム期を知る2人がリアルな事情を語る。

photo: Hiromichi Uchida / text: Kei Osawa

古着文化が日本に根づいた90年代、2000年代初頭に訪れた“冬の時代”、そしてコロナ禍を経て空前のブーム。どの時代も2人は、当事者として業界の中心にいた。今は共に日本を代表する古着のキーパーソンとしてシーンを牽引している。

現在は〈ベルベルジン〉の店頭に立つ藤原さんと、バイヤーとしてアメリカを駆け回る栗原さん。そんな2人だからこそ語れる、リアルな事情と今後の展望。

栗原道彦

世界中で古着が盛り上がっている中、特にアメリカでの人気が高まっているから、バイヤーの商売としては厳しい時代かな。ただ日本がブームである程度高値でも売れるから続けられているっていう。

藤原裕

なるほど。店に立っているだけだと気づかないな。じゃあ買い付けをしていて、ブームの今だから値段が顕著に変わったものは?

栗原

後付けパーカやスヌーピーのスエット、後はUSエアフォースのG-1ラインマンジャケットとか。それらはアメリカ独自の相場ができてきていて、日本でも需要があるものは高値でも買わないといけないから、その分、日本での売り値も上がってしまう。店に立っていて何か感じることはある?

藤原

店だとやっぱりヴィンテージデニムを手に取る人が多いかな。特に〈リーバイス®〉のデニムパンツとGジャンは国内外で探している人が多いから値段も高い。あと〈チャンピオン〉のヴィンテージTは結構高額だけど、すぐに売れちゃう。

栗原

〈ベルベルジン〉さんは古着なら何でも揃うからすごい。これは昔からだけど、友達が初めてアメリカに行った時に口を揃えて言うのは「こんなにヴィンテージがないとは思わなかった」って(笑)。みんな日本の古着屋の品揃えに慣れてしまっているから(笑)。

藤原

俺が言うのもなんだけど、たしかにそれは間違いない(笑)。ところで、アメリカではアイテムが減っているといわれているけど実際どう?

栗原

初めての買い付けは1996年だったけど、当時よりも今の方が物が出ている感じはするかな。コロナ禍前から、現地の20代前後の若者の間で古着人気に火がついて一気に出てきた。若い子たちは最初はTシャツだけだったけど、今は70年代頃までのデニムやスエットなど、僕らが“ヴィンテージ”として認識しているアイテムを、商材として扱う若者が増えたね。スリフト(リサイクルショップ)やビン(スリフトのアウトレット)で買い付けている。

ただSNSで、例えば「○○(バンドやアート)のTシャツが高値で売れる」と知れば、こぞってそれを探すわけ。最近だとTikTokの影響力も大きくて、有名な子がビンの動画を上げたりすると10代の若い女の子たちがビンに大挙するっていう。

あとこれはかなりヤバいんだけど、アメリカには「バンド」と呼ばれる廃墟があって、最近はそこに忍び込んで古着を掘る人もいて、今市場で急増しているボロのデニムやワークウェアはそこから出てきたものが多いよ。昔は同業の日本人バイヤーが競合だったけど、今はアメリカの若者たちがライバル(笑)。

藤原

うわあ……、うかうかしていられないな。市場に物が出てきている感じはあるね。20年以上デニムを見てきても、最近は特に初見のものが多いから。

栗原

1990〜2000年代は世界のヴィンテージ古着のシェアのほとんどが日本だったけど、今は違う。仮に日本でブームが終わって国内の需要が下がれば、今よりもさらに、外国人が日本へ買い付けに来る状況になるかもね。

藤原

買い付ける側から買い付けられる側になるということか。

〈ベルベルジン〉ディレクター・藤原裕、〈ミスタークリーン〉オーナー・栗原道彦
左から、〈ミスタークリーン〉栗原道彦、〈ベルベルジン〉藤原裕。

ヴィンテージデニムは今後値段が下がらない⁉

栗原

日本とアメリカにいて思うのは、主に日本人はデッドストックかマッコン(=真っ紺。一度洗った程度の美品)、外国人はボロを好み、特に若者たちはその傾向が強いこと。

例えば、同年代&同サイズのデニムがあるとする。一本はボロでもう一本はマッコン。ボロはアメリカ国内での需要も高いから、僕らの日本での売り値と変わらない値段を言われてしまうから買えないけど、マッコンはボロとそこまで言い値が変わらないから、買えることがある。

藤原

あと圧倒的にわかりやすいアイテムは〈チャンピオン〉のリバースウィーブでしょ。日本では大人気だけど、アメリカ人は見向きもしない。アメリカの若者は超タイトなヴィンテージTシャツに、色が薄いボロボロの〈リーバイス®〉501XXを穿く、ある種王道アメカジ。外国人は手足が長いから、めちゃくちゃ似合うんだよなあ。

栗原

若いディーラーの家に行った時のことだけど、そこにリバースが何十枚かあったわけ。その中にオールドイングリッシュのフォントでプリントされた“Ohio State”のリバースのパーカがあって、それだけが値段が高くて。“Ohio State”のリバースって昔は日本の古着ラバーの間ではデザインとしてはワーストに近いという印象。

でも最近、菅田将暉さんが着用したことで、今は日本の若者の間でカッコいいものになってて。そのことを知っていたから、なんでこれだけ高いのか訊いたら「だって人気なんでしょ?」って。菅田将暉は知らないけど、“Ohio State”に価値があることは知ってた。

藤原

商売としての割り切り方はアメリカ人って感じだね。そうそう、古着を買い付けている人間として、買っといた方がいい物って何?

栗原

デニムかな。この4、5年で約3倍の価格になっているからね。一部のGジャンはもっと高いし。十数年前なんて〈リーバイス®〉のセカンド(507XX)のマッコンでも9万8000円程度だったのに。

藤原

うちの店でもTバック(40年代製の〈リーバイス®〉506XXのビッグサイズモデルの通称)を、29万8000円で売ってた。セカンドも7枚ぐらい余ってたし。昔話をするたびに「買っておけばよかった」ってみんな後悔してる(笑)。

栗原

昔は日本国内の需要によって相場が上下したけど、今後は日本で人気が下がっても世界では下がらないと思うから、気になるものがあれば買っておいてもいいかなとは思うけどね。特にデニムは世界的に需要があるから。デニムマスターのユタカさんはこれからますます忙しくなりそうですね(笑)。

藤原

あれ⁉なんかイヤな言い方するなあ〜(笑)。

大事なのは思い出!会えてよかった♡俺のプライスレス(藤原)

大事なのは思い出!会えてよかった♡俺のプライスレス(栗原)