「つながりがあるから撮れる」インテリアスタイリスト・作原文子の写真の話
互いに信頼する人たちと作る、写真の世界観
作原文子は、写真家と喜びを共有するインテリアスタイリストだ。雑誌や広告、映画の美術にイベントディレクション。第一線で活躍し続けているのは、モノ選びの確かさや圧倒的なセンスゆえ。でも、これだけ多くの現場から求められる理由はそれだけじゃない。
「私の仕事は私だけでは成り立たない。スタイリングした空間やモノを写真に撮ってもらって初めて、多くの人に届く形になるんです」
例えば下の3枚は、愛媛県松山市で開催中の『道後アート2023 クラフトミュージアム』に展示している写真作品だ。作原は、世界的に活躍するテキスタイルデザイナーの石本藤雄から若手木工家の河野源まで、愛媛ゆかりの作り手をフィーチャー。彼らの作品を紹介する会場には、その制作プロセスや作家の気配のようなものも感じさせたい、と考えた。
即興的スタイリングを、若手写真家と撮影
2024年2月末まで開催された『道後アート2023 クラフトミュージアム』(愛媛県松山市・道後温泉地区)で展示されていた写真作品。年代もキャリアもさまざまな作家をつなぐスタイリングは、地元の人の自宅などを借りて行ったもの。撮影は当山礼子。額装作品やポストカードにして販売。
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若手木工家、河野源の木工作品。
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ロサンゼルスが拠点の〈tomoro pottery〉の陶器と、〈マリメッコ〉などで活躍した石本藤雄の手ぬぐい。
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河野源のオブジェと、しめ縄の技を使う上甲清(じょうこうきよし)による亀の藁(わら)細工。
「木工家のご自宅などプライベートな空間で作品を撮影させてもらい、実物と一緒に展示しています」
訪問した場所にあるものを使った“即興的なスタイリング”になるから、瞬発力と作品への敬意が必要だ。作原がこの大事な撮影を託したのは、フォトグラファーの当山礼子。完成した写真は、作り手たちの人となりを想像させるだけでなく、日常の中にこそ魅力的な輝きがあることも伝えている。
「信頼する写真家と一緒に何かを作れることが、すごく嬉しいんです。今までも“このチームだからいいものができた”という現場をたくさん経験してきたから」
ちなみに作原は旧知の写真家に対して、“このアングルで、こういう画角で撮ってほしい”とリクエストすることがほとんどない。彼女ほどのキャリアでこのスタンスをとる人は、おそらく少数だ。
「空間を作る時、どこにカメラを構えてどう撮ってもらっても、自然に心地よく見えるようスタイリングします。“この位置から撮ったら素敵だろうな”っていう自分なりのポイントはあるんです。でも、まずは写真家に委ねたい。その方が、自分が思っている以上のことが生まれるとわかっているから。もちろんスタイリングは自分の責任です。チームの誰かがしっくりきてないと感じた時は、写真家が見ているアングルを確認しながら、私がスタイリングを調整すればいい。そう考えています」
愛する写真家たちの作品をスタイリングでつなぐ
そんな作原ならではの仕事が、大好きな写真家たちの表現を緩やかにつなげていくプロジェクトだ。
原点とも言えるのが、2010年に手がけた「mountain morning “FIRST”」。写真家20人に声をかけ、オリジナルのポストカードセットを制作した。
「“山の朝という言葉から自由にイメージした作品を1枚、提供してもらえませんか?”という私のわがままなお願いに、全員が応え、楽しんでくれたんです。朝ご飯、山の景色、穏やかな光。写っているものはいろいろですが、それらを箱に入れてセットにすることで、一つのストーリーが立ち上がってくる感覚がありました。それに、自分たちのつながりが写真によって具現化されたようで、本当に嬉しかったんですよね……」
このプロジェクトが大好評で、次はぜひ参加したいと手を挙げる写真家もたくさんいた。
「2作目を作った時のイベントでは、独立したてのフォトグラファーや発表の場を探している若手が、自分の写真を出力してきて自由に貼れるコーナーを作ったんです。会場には写真に興味のあるお客さんや編集者が来てくれるから、いい出会いがあるかもしれない。みんなインスタなどの発信ツールは持っているんだろうけれど、違うベクトルの場を作ることで、何かがつながったらいいなって」
2019〜20年に手がけたのは『日めくりカレンダー展』。写真家やアーティストの作品をプリントした巨大な布43枚を空間に垂らし、日めくりカレンダーのように毎日1枚ずつはがしていくというインスタレーションだ。はがした生地は大きなテーブルの上へクロスのようにかけ、その日のメイン写真とリンクする一日だけのスタイリングも施した。
年末をまたいで43日間。目が回るほど忙しくても、深夜や早朝になっても会場へ足を運んでスタイリングに手を加え続けたのは、仲間たちのカッコいい写真を見てほしいという気持ちがあったから。「それに、プリントされた写真にスタイリングを加えることで、写真の世界観がより深く伝わることもあると思ったんです」
2018年、作原はパリがテーマのポスターを自主制作した。協力したのは写真家の松原博子やデザイナーの村田錬という、付き合いの長い仲間たち。子供のつたない字で綴られたフランス語は“Le bonheur partagé”。「幸せの共有」という意味だ。
大切な写真家たちの作品をポストカードに
写真のテーマはそれぞれの「山の朝」。信頼する写真家20人による作品でポストカードを作り、セットにした『mountain morning “FIRST”』より。箱やグラフィックも含め、デザインは〈brown:design〉の村田錬。作原が商品開発や空間プロデュースを手がけるプロジェクト〈mountain morning〉を立ち上げるきっかけにもなった。
巨大プリントした写真のインスタレーションも
2019~2020年に東京・青山の〈INTERSECT BY LEXUS − TOKYO〉で行われた企画展『PAGE−A−DAY PHOTO&ART CALENDAR HOPE for 2020』。20組の写真家やクリエイターの作品を巨大な布にプリントし、1日1作品ずつ、日めくりカレンダーのように展示した。カレンダーのデザインは〈Hd LAB inc.〉。26日の写真は山口恵史、27日は三部正博。
作原が自主制作したポスター。写真は松原博子。幸福についての一節は、「フランス人の甥っ子に万年筆で書いてもらったもの」と作原。