黒川紀章が設計した〈福井県立恐竜博物館〉。展示の専門性を、建築で際立たせる

幅広いコレクションを誇る「大博物館」もいいけれど、それぞれの地域にゆかりのテーマに特化した博物館・科学館には、その場所ならではの体験と、一つのことに全力を傾けた圧倒的な熱量がある。ここにしかない貴重な文化遺産。その思いを汲み取った、ここにしかない建築。だからこそ愛される博物館を紹介。

photo: Tetsuya Ito / text: Hisashi Ikai / edit: Tami Okano

設計:黒川紀章

迫力の展示を実現する
地下ドーム。

福井の緑豊かな山間に、ぽっかりと顔を覗かせる銀色のドーム。日本屈指の恐竜研究の現場として、世界にもその名が広く知られている〈福井県立恐竜博物館〉は、全長10mを超える巨大恐竜の骨格標本を多数展示するための、大胆な設計に挑んだ建築プロジェクトだ。

この博物館は、大きく分けて低層部と巨大な丸屋根の展示ホールの2つで構成されている。低層部には事務室や研究棟が入り、ドーム型ホールには恐竜標本が陳列されている。

驚くのは、起伏の激しい地形や積雪の影響などを鑑み、ドーム展示室の大半を地下に設定したこと。これにより、落ち着いた印象のファサードからは想像できないような圧巻の内部・大空間を実現した。来場者が地上1階から入っているように感じるエントランスは、実は建物としては3階で、ドームの中を一直線に貫くエスカレーターで地下1階まで一気に下る。頂点の天窓から光が差し込む姿も幻想的で、恐竜がいた太古の時代へとタイムトリップに出るような気持ちになるから不思議だ。

暗い通路を抜けた先の「柱が一本もないドーム」は、高さ37.5m、直径84mという圧巻のサイズ。44体ある恐竜標本をくまなく観察できるよう、動線も細かく配慮されている。1階から2階に上がるスロープをドームの内径に沿って設置。スロープを歩きながら、さまざまな角度から恐竜の骨格を確認できるのも、この博物館の醍醐味と言えるだろう。

福井〈福井県立恐竜博物館〉外観
周囲の景色を映す銀色のドーム。冬季の積雪を考え、自然に雪が落ちるよう下部を少しすぼめた回転楕円体の形状をしている。