「通いたくなる動物園」編集後記:動物撮影の秘訣とは?スケボーカメラマン、シロテテナガザルの腕渡りに挑む

2023年3月1日発売 No.980「通いたくなる動物園」を担当した編集者がしたためる編集後記。

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動物園取材というと「楽しそうでいいね」と言われたりもするし、まぁそうなんですけど、フォトグラファーにとっては実はけっこう大変です。人物の撮影と違って、動物はこちらの思うように動いてはくれません。またペットの撮影などとも異なり、動物園では撮れる位置や時間も限られます。そんなわけで実は難易度が高い撮影であり、では秘訣はあるのかと、動物を撮り慣れているフォトグラファーに聞いてみたら「根気」という答えでした。

さて、特集で紹介した山口県宇部市の〈ときわ動物園〉。動物本来の生息地の環境を出来る限り再現する「生息環境展示」で知られる動物園ですが、ここのスターはシロテテナガザル。スマトラ島で野生の環境を調査し、習性を最大限に発揮できるように樹木の高さや枝振り、間隔などを調整して展示デザインされているだけに、生き生きと動く様子を見ることができると人気です。

もちろん取材チームもこのシロテテナガザルをメインに据えて撮影に臨みました。フォトグラファーは平野太呂さん。人物も風景も、なんでも撮れるオールマイティな写真家ですが、動物カメラマンというわけではありません。撮影序盤はあまりにも自由に木の間を飛び回るシロテくんの動きに戸惑い、画角に捉えきれない時間もありました。しかし太呂さん、しばしじっとその動きを観察していたかと思うと、おもむろに同行していただいていた動物園スタッフの方に、「◯◯さん、もう少し奥に立ってもらえますか」と指示出し。

観察の結果、シロテくんはそのスタッフに興味津々で、“ちょっかい”を出したいために木々を渡っていることに気づいたのです。そして、その立ち位置によって移動のルートに表れる規則性を見出し、シロテくんをまんまと誘導した撮影ポイントで狙い澄まして、一撃パシャリ!「……撮れたよ」。

クレバーに動物を誘導したのもスゴイけど、シロテテナガザルの超速ブラキエーション(腕渡り)のベストタイミングを一発で仕留めた技術にも感動。なんでそんなことできるのと聞いたら「昔、スケボー雑誌の撮影をしていた時期があって、その動きに近いと思ったから」とのこと。

カッコイイとは、こういうことさ。でした。

「通いたくなる動物園」編集後記:動物撮影の秘訣とは?スケボーカメラマン、シロテテナガザルの腕渡りに挑む
そして、その写真がこちら。ブラキエーションの躍動感&浮遊感を見事に切り取れたのではないでしょうか。ちなみに「連写モードにしたら撮りやすいんじゃないですか?」とのんきな質問をした編集者に対して、太呂さんは「連写にすると、けっきょくベストな一瞬を逃すから」と、プロフェッショナルの矜持を示していらっしゃいました。すみません。

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