今回の特集の最初の取材は香川の父母ヶ浜からだった。干潮時にできる潮溜まりが、空やそこに立つ人物を鏡のように映し出す、ボリビアのウユニ塩湖のような絶景が見られるとあって今人気のスポットだ。雨はもちろん、風が吹くと水面が揺れてしまうので、かなり天候に左右される。いつ行っても見られる景色というわけでもない。
父母ヶ浜が知られるようになったのは、実はこの5年くらいだという。浜のある仁尾町は製塩や海運で栄えた素朴な城下町で、訪れる観光客は年間でも5,000人程度だったそう。それが父母ヶ浜を写した1枚の幻想的な写真がSNSで拡散されたことにより、今や年間50万人を集めるようになった。干潮の夕暮れ時が近づくと、駐車場には次から次へと車が押し寄せ、わらわらと人が浜へと繰り出していく。地元の人からすると、浜は変わらずずっとあったわけだから、急に人が溢れるようになったのはやはり不思議な光景らしい。実際、昼間の満潮時に訪れると、正直どこにでもある普通の海辺だ。
風景自体は変わっていないのに、「視点」が発見されたことによって、新しい旅が生まれるようになったというのは面白い。私自身も旅好きではあるが、海外に行けない昨今、国内限定となると「ここもあそこも行ったことあるしな」と、旅先に悩むこともある。でも昨日行った場所であっても、自分の視点次第で今日は違う風景になるかもしれない。そう思うと、旅へのモチベーションをまた掻き立てられるようでもあった。人生変わっちゃったかもしれない。
さて、肝心の撮影だが、運良く初日からコンディションに恵まれた。フォトグラファーが絶景撮影に挑んで(本誌で見てね)構図に苦心しているのを横目に、私はスマホでそこを訪れる人を撮ってみた。「今日、この日の旅を共有する友人たちよ!」と、酔っ払ったような気持ちで。
旅って、やっぱり楽しい♪
中西 剛(本誌担当編集)