海外が遠い彼方に行ってしまった。そういう世界にも少し慣れてきたけれど、旅する欲望が消えることはない。海外に仕事やバケーションで行くときは、必ずその土地にある名建築を巡ってきた。建築が建つ場所を訪れると、なぜ、その土地にそのカタチで建っているのか、その意味を体感でき、さらに調べることで、その土地自体のことを学ぶことができる。
フランスではル・コルビュジエを巡り、メキシコはルイス・バラガン、ポルトガルはアルヴァロ・シザ……。世界各地に点在する日本人建築家が手がけたものたちも。言うまでもなく、日本は世界に類を見ない、名建築家の輩出国である。
そう、海外などに行かなくとも、日本人名建築家が建てた建築は、日本に存分にあるのだ。コロナという目に見えないものに細心の注意を払いながら、この2年間は、日本国内の建築を巡る機会が格段に増えた。大きな発見だったのは、名建築家たちが建てた小さな建築。その造形はもちろん、「名建築家が作ったものだから」と知らない(かもしれない)管理者、来訪者が、丁寧に、そして敬意を持って利用しているのも素晴らしかった。町に愛される建築。
まずは近所から、ちょっと足を伸ばして隣町へ、様子を見ながら遠出して。小さな建築、愛される建築を巡ると、日本の“丁寧”な風土を感じることができる。日本ってやっぱりいいな、と思えるはずだ。
特集の巻頭で取材した【カトリック宝塚教会】。この建物を見たとき、ル・コルビュジエの後期の代表作、巡礼者のための村外れの小さな礼拝堂【ロンシャンの礼拝堂】と親しいな、と思ったのは、僕だけではないはずだ。しかし、実際に【カトリック宝塚教会】に行ってみると、それとは全く異なる世界観が外観にも内観にもある、と気づく。写真で見るだけではわからない、だから建築はおもしろい。とはいえ、【カトリック宝塚教会】に訪れた方は、いつか【ロンシャンの礼拝堂】にも訪れてほしい。
杉江宣洋(本誌担当編集)