ものから景色が浮かぶ、創造的で有意義な時間
「FREX asgard」の1階ラウンジの棚に、ずらりと並ぶ東市篤憲さんのコレクション。かの北大路魯山人による陶の器から、木彫りの熊、アンモナイトの化石まで、守備範囲は実に幅広い。「集め始めたのは5年ほど前から。日本各地を旅する中での偶然の出会いが多い」と東市さん。もとより美術や工芸に高い関心をもつ井浦新さんは、コレクションに興味津々。棚の前でひとつひとつをじっくりと見て質問を投げかける。

井浦
蝶をモチーフにした青い平皿はどなたの作品ですか?
東市
九谷焼の作家、松本佐一さんです。松本さんが拠点としていた石川県の吉野工芸の里には、今もお弟子さんがいて、その方を訪ね、どうやって作っていたのかを聞いたりして。いいなと思う作品に出会い、作り手のことを詳しく知っていくと、その方を起点に別の作り手に繋がり、また別の時代に目が向いたりと、数珠繋ぎにどんどん物語や世界が広がっていく。そういう広がりが、骨董やヴィンテージを蒐集する面白さだなあ、と思っています。掻き落としの壺や四角い花器も松本さんの作です。
井浦
コレクションにストーリーがあるって、素敵ですね。松本さんの作品を拝見していると、文様などはクラシックで九谷焼の伝統的な作り方をベースにされているのだと思いますが、何か新しさみたいなものも感じます。
東市
そうなんです。伝統を踏まえた上で、独自性のある作品も作っていた方で、見ているとインスピレーションが湧きます。僕は普段、映像を作る仕事をしていて、例えばミュージック・ビデオだと、最初は何も絵がないところに音楽をもらい、イメージを膨らませていく。古い器も同じで、手にとった瞬間にものの背景が感じられたり、景色が浮かんだりする。有名無名は関係なく、そういう感応性のあるものに惹かれます。
井浦
旅があって作品との出会いがあって、出会いからの広がりでコレクションが増える。そうやって東市さんみたいに好きなものをコレクションするときの一つの問題は、棚をどうするか、収納をどうするかがありますよね。作り付けの棚がある場合は、その活かし方を、後から作るなら、何をどう置くための棚にするかを考える。棚ってすごく奥が深いなと思っていて。
東市
確かに。棚を軸にコレクションを考えるので、家にどういう棚を設えるかは大事かなと思います。実際に、ものを集めるだけじゃなくて、置き場所を考えるのがすごく楽しくて、大きな木彫りから小さな茶碗まで、全部自分の裁量で配置を決めて空間をつくれるのが、自分の家の良さだなって、よく思います。今日もずいぶん悩んで、このラウンジなら、あえて何も置かないスペースがあったほうがいいなと、空けたままにしたところもあります。
井浦
余白も大事。わかります。そういうレイアウトや空間に対するもののコラージュは、ご自身のお仕事に影響がありますか?
東市
あります、あります。なんなら自主トレみたいな感覚ですね。飾ろうとしているものを手に持ちながら、部屋の中で立ったまま考え続けていることもあります。そういう時間って、すごく創造的で有意義だなと思います。


使うことで生まれる愛着と、日常の豊かさ
井浦
最初にこのラウンジを訪れたとき、窓からの光が当たって、綺麗だなと思ったのが、青いガラスのオブジェです。
東市
実はこれ、作家が作ったものではなく、海底火山から噴出した溶岩が急速に冷えて固まった、アフリカの火山ガラスなんです。
井浦
自然が作ったものなんですね。力強さを感じます。コレクションの中にアンモナイトの化石があるのもまたいいですね。
東市
過去と現代を繋ぐものを飾るのが好きなんです。だから太古の化石もあれば、今の作家の作品もある。この中で一番新しいのは、ルーマニアの陶芸作家、サンドラ・ベルギアヌさんの器です。日本でも陶芸の修業をされた方で、日本と海外の美が混ざり合いつつ、フォルムや色に圧倒的な個性がある。ドーナツ型のものは花器で、本当に花を生けられるんですよ。飾るだけじゃなくて、花器として普段から使っています。
井浦
作家は“どう使うか”を考えて作ったはずで、特に道具は使うこと、使われることが本意。僕は江戸時代の器を集めているんですけど、縁あって手に入れたものは全て使います。作られた当時は生活の中で当たり前に使われていて、時間が経ったから「骨董」としての価値が勝手に付いたけれど、食器であれば、ちゃんと料理を盛って食卓で使うとか、今の自分の暮らしの中で古いものをどう使うかが楽しみなんです。古い器でお茶を飲んだりすると、心でもおいしさを味わえる。そのもの自体を本当に活かせている感じがします。
東市
実際に使ってみないと分からないことも、たくさんありますよね。形が好きで買った花器を使ってみたら、水が溢れてきたりして、これ、詰めが甘かったんだな、とか(笑)。
井浦
それで愛着がまた湧いたりして。最初に手に入れるときは、いいなと思う“直感”かもしれないけれど、暮らしの中で自分との関係が深まると、手放せなくなってくる。ちょっと使いづらいところすら、なんて可愛いんだろうって。そういう“ものとの対話”みたいな時間があると、日常が豊かになります。


新旧が混ざり合って生まれる新しいカルチャー
井浦
ヴィンテージの日用品や工芸品を嗜んでいる一方、僕らが生活しているところって、今現在の、都市ですよね。その都市生活の中で、嗜みがあってこそ感じられる豊かさって、どんなところでしょう。
東市
都市って基本的に、新しいものがより新しく、どんどん発展していく場所だと思うんです。そこに古いものが出会うことによって、また新しい発見があったり、自分の感性が磨かれたりする。温故知新じゃないけれど、新しい場所でも歴史を感じるものがあることがすごく大事なことなのかなって。
井浦
先ほど、過去と現代を繋ぐものを飾るのが好きだとおっしゃっていたのも、そこと関係していますか?
東市
していると思います。都市にいても、古いものと自分が繋がっている感覚を得られることは大事だし、自分が好きなもののコンテクストを考えることで、自分自身を知っていく、そのプロセスが面白いんじゃないですかね。
井浦
そう考えると、僕たちは、ものからたくさんの学びを得ているなと思うんです。今、都市で暮らしている自分は、大いなる時間や時代の一部でしかなくて、たまたま古物と出会い、その時代のことに思いを巡らせたり、作った人の技術やその人自身の歴史からもまた、学ぶことがある。今暮らしている場所や手にしている物は、自分だけで終わるわけではなくて、もしかしたらそれがまた10年後、100年後、もっともっと先の数百年後には他の誰かに……と、長い時間軸で考えられるようになる。
東市
受け継いで次の世代に繋ぐことの大切さも、古いものを飾ったり使ったり、空間全体で“体験”することでわかったりしますよね。
井浦
今日、この家を拝見していても、例えば室内は塗り壁になっていたり、職人の気配を感じとれるところがある。同時に、最新の設備が整っていて快適な環境でもある。そういう古い技術や気配の良さと、新しいものが混ざり合っていくって、ある意味、都市生活だからこそ生まれるカルチャーみたいなものだったりもしますよね。
東市
そうですね。新旧の良さが混ざり合うことで生まれる新しいカルチャー。それを実感できるのが、都市生活ならではの醍醐味かもしれません。

都市を嗜む、都市の暮らしの理想解
1972年に発売された都市型住宅「ヘーベルハウス」は、堅牢な鉄骨の躯体と高性能建材「ALCコンクリート・ヘーベル」を要に、いのちを守り、暮らしを豊かにし、人生を支える「LONGLIFE」な家づくりを実践。3階建て住宅のパイオニアでもあり、これまで培った技術を基に、都市における理想の暮らしを追求した3階建て邸宅の最新作が、「FREX asgard」だ。
構造は、重鉄・システムラーメン構造。1階、2階それぞれに、空間の豊かさと暮らしやすさを両立した天井高2,560㎜を選択することが可能で、鉄骨造の魅力の一つである大開口のバリエーションも強化。同時に、開口部の断熱性を上げるなど、省エネ住宅の基準「ZEH水準」を上回る断熱等級6を標準仕様化としている。
外壁デザインは、地質構造の「柱状節理」をモチーフにしたランダム縦目地の「ランダムバーチカル」で、外壁色は、マットな質感の新色「レニウムブラック」。「柱状節理」の縦のラインが邸宅に伸びやかな印象を与え、「レニウムブラック」の重厚な黒が力強い存在感を醸し出す。
