「フランチャコルタ」とは?
“泡”といえば、シャンパーニュかカバでしょ!というアナタ、ちょっと待って!フランチャコルタは、“ヨーロッパ・ワイン最大の秘密(=Best Kept Secret)”の異名をとる、いま人気急上昇の産地だ。それというのも、生産量は二大巨頭の約10分の1以下。輸出量でもアチラが約60〜70%なのに対し、コチラはわずか11.5%と、これまでほぼ自国のみで消費されてきたから。
地理的表示のある高級格付けワイン=DOCに指定されたのが1967年。1995年には、格付け最高位のDOCGに。このスピード昇格は、フランチャコルタ協会による厳しい栽培&醸造上の規制のたまもので、収穫は手摘のみ、搾汁率は65%以下の一番搾りのみ使用が許される。澱熟成は最低でも18カ月と、ヨーロッパのワインのなかでも、最も飲み頃の状態で市場に出るスパークリングワインなのだ。
理想的な気候と、新興産地ならではの取り組み
フランチャコルタは、ロンバルディアの州都ミラノからベネチア方向に約1時間車を走らせたベルガモ県とブレシア県にまたがるイゼオ湖南岸の馬蹄形の丘にある。西はオーリオ川、東はブレーシャ、南端にはオルファノ山に囲まれた約3000ヘクタールの面積に、19のコムーネ(村)がある。
数億年前、湖の東にあるプレ・アルプスのカモニカ渓谷から徐々に氷河が押し寄せ、岩を削って生まれた氷堆石土壌(モレーン)と呼ばれる土壌で、さまざまな時代の地層が複雑に重なり合う。氷河の浸食により生まれたのがイゼオ湖で、3000メートル近いアルプスから吹き込む冷たい風は、一年を通して気温の安定したイゼオ湖が温めるので、ブドウは生理学的にバランスよく熟す。これがフランチャコルタの財産だ。
さて、トラディショナル方式(瓶内二次発酵)でのワインの製造工程を簡単におさらいすると……。一次発酵までは普通のワインと同じ。この後、「リキュール・ド・ティラージュ(ワインに酵母と蔗糖を加えたもの)を加えて瓶詰めし、瓶内でアルコール発酵を促す。この際に発生する滓とともに熟成させることで独特の風味が生まれる。
熟成期間中に瓶を倒立させて、毎日少しずつ回転させながら滓を瓶口に集めて(ルミアージュ)、最終的に瓶口を−20度の塩化カルシウム液に浸して、たまった滓を凍らせて抜き取り(デゴルジュマン)、減った分のアルコールを「門出のリキュール(原酒に糖分を加えたもの)」で補って(ドザージュ)、コルクで打栓して完成だ。
フランチャコルタでは、ブドウの糖度の高さに加え、過去の呪縛に捕らわれない新興産地ならではの柔軟性から、ドザージュの際に「門出のリキュール」でなく、自社畑のワインだけを加える「ゼロ・ドザージュ」を好む生産者も多い。
規定品種は、シャルドネ、ピノ・ネーロ、ピノ・ビアンコの3種に、2017年から、晩熟で温暖な気候でも酸度を保ち、風味がニュートラルなエルバマットが加わった。温暖化対策であると同時に、土着品種のリバイバルとなった。
フランチャコルタにしかない「サテン」とは?
フランチャコルタのワインは、5つのタイプがある。
最もベーシックな「フランチャコルタ」、「ロゼ」。収穫年度表示の「ミッレジマート」、瓶内熟成60カ月以上の「リゼルヴァ」。これらに加え、フランチャコルタならではのカテゴリーが「サテン」というブラン・ド・ブランで、シャルドネとピノ・ビアンコのブレンド。他のワインが5〜6.5気圧なのに対し、「サテン」は5気圧未満に抑えられるため、なんとも優しい喉越しだ。ちなみにロゼは、赤ワインと白ワインのブレンドではなく、黒ブドウの果皮を果汁に漬け込む「セニエ方式」で造られる。
魅力あるワイナリーの数々を巡る
フェルゲッティーナ
看板娘が切り盛りする、家族経営のワイナリー
エルブスコ村の農家に生まれたロベルト・ガッティさんが1991年に創業。現在は、栽培の指揮を執る娘のラウラさんが「ワイナリーの顔」として知られる。ロベルトさんは、23歳の時に、フランチャコルタを代表するワイナリー「ベラヴィスタ」に家族で住み込み、20年以上勤めた。やがてアドロ村に4ヘクタールの土地を借りて独立。「サテン1997」が専門誌『ガンベロ・ロッソ』のトレビッキエーリ(最高評価)に選ばれ、注目を浴びた。
現在、自社畑30ヘクタールに加え、長期賃貸契約の畑170ヘクタールで有機栽培を行っている。規模だけでは大企業に見えるが、自社ワインに使うのは、その半分の100ヘクタール。残りは他社に販売する。畑は、賃貸契約のものを含め、すべて職人気質のロベルトさん自身がクローンを選び、ブドウを植えた。
「8村の110カ所の畑の個性を活かして醸造しています」とラウラさん。ブドウは、イタリアに2台しかないという旧式のマルモニエという圧搾機で優しく搾る。その搾汁比率は、協会規定の約半分の35%。また熟成期間は、ベーシックな「ブリュット」が33カ月、看板ワインの「ミッレディ(シャルドネ100%)」は、イタリア語で1000(日)を意味する通り、36カ月、「エクストラブリュット」は、協会規定の2倍の72カ月。いずれも実際に様々な熟成期間で醸造し比較試飲した結果、この数字に落ち着いたという。
「ミッレディ」のユニークな角型の瓶、通称「ピラミッド・ボトル」は、ラウラさんの弟で、醸造を担当するマッテオさんがミラノ大学の農学部醸造学科を卒論として取り組んだもの。瓶を横にして熟成させる際に、滓が平面に広がり、ワインとの接触部分は、丸型瓶の2.5培にもなるそうで、ヨーロッパとアメリカで特許を取得している。
「父から、家業を継ぐように言われたことは一度もないのですが、この仕事に携われて本当に幸せ。大変なことはたくさんありますが、自然な果実がワインに変わる手助けができる素晴らしい仕事」と、ラウラさん。いずれのワインも、ミネラル感ときれいな酸味が特徴で、その真摯な仕事ぶりが、味に反映されている。
FERGHETTINA
ベラヴィスタ
グランメゾンになった今も、手仕事を大事に
1977年、建設業で財をなしたヴィットリオ・モレッティさんがエルブスコ村に創業した、フランチャコルタを代表するワイナリー。サクセスストーリーは、19世紀の邸宅を購入したことに始まる。芸術と美食を愛する彼は、招いた友人たちをワインでもてなしたいと、自宅のセラーでワインを造り始めた。ボトルはムラノ島産のヴェネチアングラスだったそう。
1981年、若いエノロゴのマッティア・ヴェッツォーラさんを雇ったところクオリティがグングン向上(マッティアさんは、2007年、『ガンベロ・ロッソ』の年間最優秀醸造家に選ばれた。2022年独立)。ミラノ・スカラ座の公式サプライヤーでもある。2022年、シャンパーニュ「ドン・ペリニヨン」の元醸造長のリシャール・ジョフロワさんがコンサルタントになり、ヴィットリオさんの娘でミラノ大学の農学部を卒業したフランチェスカさんもチームに加わった。
6人いるワインメーカーのひとり、フランチェスコ・ペドラーリさんは、「私たちのポリシーは、テロワールを尊重すること。かつてのセラーマイスター、マッティアから学んだ一番大切なことです」と話す。12村にまたがる207ヘクタール全てが自社畑(150区画)だが、基本は個人で造っていた頃と変わらない。ルミアージュはすべて手作業で、熟練の職人、アッキーヌさんは、19秒で120本回転させるそう。一部熟成に樽を使用しているが、新樽は白ワインに使用して、フランチャコルタには5年以上経ったものを使用している。
スタンダード・キュヴェの「グラン・キュヴェ・アルマ・ロゼNV」は、ピノ・ネーロ35%。クリオ・マセラシオン(ブドウを凍らせてプレスする)の後に一次発酵させ、滓熟成は30カ月。クリアな果実の味わいが印象的だ。看板ワインの「ヴィットリオ・モレッティ2013」は、シャルドネ60%、ピノ・ネーロ40%で、50%樽熟成。ドザージュには、門出のリキュールではなく自社畑のワインを使用。ハーブのような爽やかな香りと、シルキーな舌触りが印象的だ。2000年代に入ってから造られたのは、2004、2011そして2016。現行ヴィンテージの2013は、2004に次いでよいできとのこと。
BELLAVISTA
バローネ・ピッツィーニ
オーガニック栽培は、このワイナリーから
サステナビリティを意識したワイン造りを牽引する生産者。1870年、フランチャコルタの北東にある、トレンティーノ・アルト・アディジェ州ロヴェレート(ハプスブルク帝国の旧領土)の貴族、ピッツィーニ家が、プロヴァリーオ・イゼオ村に創立。1993年に数名の実業家が資本参加し、新バローネ・ピッツィーニが始動した。現在の総支配人シルヴァーノ・ブレシャニーニさんは、フランチャコルタ協会の会長も務める。元・ミシュラン二ツ星レストラン「アンティカ・オステリア・デル・ポンテ(ミラノ)」のソムリエだ。お祖父さんがワイン生産者だったこともあり、小さい頃からワインが身近にあったという。
「私たちは、様々なバックグラウンドをもつ仲間で経営しているので、ワイン造りに固定観念をもっていません。2001年に、様々な実験を経て有機栽培の認証を受けたが、それが私たちのゴールではなく、高品質なワインを造るひとつの手段。これにより環境負荷の少ないワイン造りにつながりました」。その成功に続けと、有機栽培に転向するワイナリーも多いという。
50ヘクタールの自社畑は、26の区画に分けて栽培している。2011年から、温室効果ガスの影響を管理、抑制する「イタ・カ・プロジェクト(Progretto Ita.Ca.)」に参加し、2015年には『ガンベロ・ロッソ』から、「持続可能な特別賞」が与えられた。看板ワインの「アニマンテ」は、シャルドネ、ピノ・ネーロ、ピノ・ビアンコに加え、酸味がきれいなエルバマットを効果的に使って、テロワールを表現している。「バニャドーレ(リゼルヴァ)」は、樹齢20年以上の単一畑のブドウから、最良のヴィンテージのみ造られる。
BARONE PIZZINI
モンツィオ・コンパニョーニ
理想的な環境で育ったブドウを、若いチームが醸造
建設業を祖業とするマルチェッロ・モンツィオ・コンパニョーニさんが、エルブスコ村とアドロ村の境にある15世紀の修道院を買い取って1987年に創業した。最初はカベルネやメルロなど赤ワインを造っていたが、個人的に愛好していた伝統製法のスパークリングワインに挑戦したところ、将来性を見いだした。有名なエノロゴのドナート・ラナティさんが加わってさらに品質が向上。2021年12月にマルチェッロさんが他界した後は、弟のジョヴァンニさんが引き継いだ。
広報担当のピーター・マルコリーニさんは「自社畑は22ヘクタール。畑は東向きで、夜露を朝日が乾かしてくれる。ブドウにとって理想的な環境」という。醸造現場では、若いワインメーカーのチームが瓶詰め作業の真っ最中。チーフのステファノ・グラフィさんは35歳。実家が酒屋+セラードア(角打ち)を営んでいたことから、ワイン造りに興味をもち、オーストラリアのバロッサ・ヴァレー「ケラーマイスター」やドイツ・ファルツの「ヘンゼル」などで修業の後、フランチャコルタに。「同世代の仲間のワインメーカーたちと一緒にワイン造りを楽しんでいる」と話す。アイコン的ワインの「エクストラブリュット2019」は、シャルドネとピノ・ビアンコ半々のブレンドで、しっかりした骨格が際立っている。
MONZIO COMPAGNONI
旅して味わう、フランチャコルタ
レオーネ・フェリーチェ・ヴィスタ・ラーゴ
マルケージ・チルドレンが造るスローフード
フランチャコルタはワイナリーだけでなく、美しい景観、そしてワインと料理を併せて楽しむレストランや宿もあり、旅の目的地としても注目したいエリアでもある。その中の一つ、ワイナリー「ベッラヴィスタ」を営むモレッティ家が、ワインツーリズムの先駆けとしてオープンしたホテル「ラルベラータ」内のレストラン。イゼオ湖を見下ろす高台にあり、30年ほど前には、「ヌオーヴァ・クチーナ」を牽引した伝説のシェフ、グアルティエロ・マルケージが腕を振るったことでも知られる。
現在のシェフ、ファッビオ・アッバッティスタさんも、いわばマルケージ・チルドレン。ロンドン、パリ、ミラノで修業の後、2014年からこの店に。プーリア出身で、大家族で食卓を囲むのが何より幸せという家庭で育ったという。農家や漁師とのつながりを大事に、できる限り地の食材を使うのがポリシーだ。
Leone felice Vista Lago
住所:Via Vittorio Emanuele 23, 25030 Erbusco Brescia|地図
営:12:30〜14:30、19:30〜22:30
休:無休
HP:https://www.albereta.it/franciacorta/ristorante-lago-iseo/
ディスペンサ・パーニ・エ・ヴィーニ
グラス1杯から、気軽に寄れるショップ&バー
アドロ村のショッピングモールにあるワインショップ&ワインバー。ワインラックには、フランチャコルタのワインが約750種も揃う。生ハムをつまみながらの軽く1杯から、しっかりディナー、あるいはスイーツと、様々な用途で訪れる人たちでいつもいっぱい。オススメは、自家農園で採れる30種もの野菜が楽しめるオーガニックガーデンサラダ。気軽に立ち寄れる一軒だ。
Dispensa pani e Vini
住所:Via Principe Umberto,23 25030 Adro, Brasica|地図
営:10:00〜15:00 (木金土〜23:00)
休:無休
HP:https://franciacorta.wine/it/ristoranti/dispensa-pani-vini-franciacorta/
レ・クアトロ・テッレ
ワイナリー併設の美食宿
フランチャコルタのワインツーリズムでは中心的存在になる宿。2006年、ジョルジョ、マッティオ、マルコのヴェッツォーリ3兄弟が、古い農家を買い取ってワイン造りを開始。2014年にホテルを開業した。客室の前には広いバルコニーがあり、一面のブドウ畑が見渡せる。事前に申し込めばワイナリーツアーにも参加できる。
Le Quattro Terre
住所:Via Risorgimento, 11, 25040 Corte Franca, Brescia|地図
HP:https://www.quattroterre.it/en-us/