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森永邦彦が好きな花。自分たちだけの思い出を刻むヤマブキ

一人で眺める愛おしさも、誰かと美しさを分かち合う楽しさも。好きな花があるって幸せだ。好きな花にまつわる、物語。

Photo: Keisuke Fukamizu / Text: Masae Wako

あなたを喜ばせたくて、飾る花

万葉集に、ヤマブキを詠んだ恋の歌があることを、つい先日知りました。1000年以上昔の人も僕たちと同じように花を眺め、愛する人に思いを馳せていたんですね」

今日はなぜこの花を?と尋ねたら、淡々と、でもロマンティック全開な答えが返ってきた。〈アンリアレイジ〉デザイナーの森永邦彦さんが自宅の書斎に飾ったのは、細い枝の上で揺れる黄金色の花。

「花を生けるようになったのは奥さんの影響です。とにかく花が大好きな人なので、結婚前は毎月、季節の花とシロクマの置物を贈っていた。僕にとっては、花を飾りたくなる場所があり、花を贈りたいと思う相手がいることが幸せなんです」

水盤がついたフラワーベースを選んだのは、咲いている花と同じくらい、散った花にも惹かれるから。特に枝ものは、花が開いて枯れて、その後にみずみずしい葉が出てくる姿までを、長い間楽しめる。

「そういえば、祖父母も両親も花好きで、実家の庭にはヤマブキやキンモクセイがありました。花は移ろうものだということを、小さな頃から感じていたのかもしれません」

今は、花器を選んだり水を替えたりする行為自体も面白く感じている。

「毎日触れることで、日々の出来事や思い出が、花の景色とともに刻まれるじゃないですか。1年前はリビングにシャクヤクがあったとか、友達を招いたあの日は玄関にショウブを飾ったとか。カレンダーとは違う、自分たちだけの時間の経過が記憶に残る。そんな気がするんですよね」

森永邦彦 花
水盤のついた花器に、枝ぶりの美しいヤマブキを。万葉集には、恋多き歌人・大伴家持によるこの花の歌が7首も残る。「花の一瞬の美しさを閉じ込めるプロダクトを作りたくて、新しいブランド〈ANEVER〉も始めました」