「ホタルイカの身投げ」という現象をご存じだろうか?
3月から6月にかけて、富山湾では産卵のために浅瀬に集まるホタルイカが集団で浜に打ち上げられる。
その際、体に受けた衝撃に反応して蒼く発光するのだが、その光景がなんとも美しいそうで、それを目撃しようと全国から“身投げファン”が押し寄せてくるのだとか。
とはいえ自然の現象ゆえ、目撃できるかどうかは運任せ。それもまた楽しいのだが、「どうしても光るホタルイカを見たい!」という人のために、滑川市では〈ほたるいか海上観光〉というツアーを開催している。ホタルイカ漁を行う漁船と一緒に海に出て、発光するホタルイカを観察できる。
定置網で行われるホタルイカ漁では、網を引き上げる際にホタルイカが網にぶつかって、その衝撃に反応して発光するのだそう。シーズン中は、かなり高い確率で発光を見られると聞いて、ツアーに参加してみることにした。
夜の富山湾で、ホタルイカ発光ショーが始まる
午前3時。まだ真っ暗な中、滑川漁港に到着。すでにたくさんの漁船が出港準備をしている。長靴とレインウエア上下を着込み、救命胴衣を装着。通常のツアーでは観光船に乗って漁船の様子を観察するが、今回は取材ということで、漁船に乗せてもらうことになった。
「寒いから、火にあたって」と、漁師さんたちが焚き火の周りに案内してくれる。定置網があるのは船で10分ほどの沖合。漆黒の海には何も見えず、本当にホタルイカがいるのかと、少し不安になる。
「さて、やるか!」と漁師さんたちが立ち上がって、船のへりに横一列に並ぶ。どうやらここに定置網があるらしい。もう一隻の漁船と網を挟んで向き合う形になり、徐々に船を近づけながら網に入ったホタルイカを追い込んでいく。
「一瞬だから、しっかり見てね」と漁師さんから声がかかる。海面に目を凝らしていると、水中にチカチカと点滅する青い光が見えた。
儚く消えるからこそ美しい、自然の神秘
「ちょっと光らせてみるか」と漁師さんが網を揺すると、黒い海の中に星屑のように青い光が散らばって、まるで天の川のよう。大きなタモ網を使ってそれをどんどんすくいあげる漁師さんたちは、宇宙で星を集めているようにも見えて、なんともロマンチック。
2つの定置網を回って、1時間ほどで帰港。せり場にはすでに仲買人や地元の飲食店の方が集まっていて、そこに獲れたてのホタルイカが並ぶ。ほんの少し前まで、宝石のように輝いていたホタルイカは、そこではもう“食材”の姿になっていて、先ほどの光景が夢だったような気さえする。
夜には宿泊した旅館で、その日水揚げされたホタルイカの刺身を食べた。箸でつまんだら、青く光らないかしら?もちろんそんなことは起こらなかったけれど、あの美しい星たちのひとつが自分の体の一部になるのだと思うと、えも言われぬ神秘的な気分が湧き上がってくるのだった。