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マヌルネコ、ボブキャットetc.今、猫好きが熱い視線を送る“ネコ科動物”に会いに行く

身近な猫たちと共通の祖先を持ち、ルーツを共にするのが野生のネコ科動物たち。今、全国の猫好きが熱い視線を送る6種に会いに〈神戸市立王子動物園〉と〈神戸どうぶつ王国〉を訪ねた。

photo: Yoshiko Watanabe / text: Emi Fukushima

猫の愛らしさと、ハンターの勇ましさを携えて

監修:髙木佐保(麻布大学特別研究員)

丸みを帯びた体でキョロキョロあたりを見回すマヌルネコ、短いしっぽを動かし駆け回るボブキャット、小さな体を丸めて眠るスナネコ……。彼らは皆、私たちが家族として共に暮らす猫=イエネコと同じネコ科の動物だ。同じ祖先から派生し、土地環境に合わせて進化を遂げてきた。

「イエネコも元を辿れば中東に生息していたリビアヤマネコが約1万年をかけて家畜化した種。野生のネコ科動物の生態を知ることは、身近な猫のルーツや本質を理解することに繋がります」とイエネコを長年研究する髙木佐保さんは話す。生物学でネコ科に分類されるのは41種。野生下の姿を目にするのは難しいが、一部には動物園で出会うことが可能だ。

「ネコ科の動物は肉食獣。ライオン等のごく一部の種を除けば単独で行動をし、狩猟して生活します。ゆえに飼育下の動物からも、“ハンター”としての運動能力の高さや凶暴さを窺い知ることができます。一方、狭い場所や高い場所が好きだったり、毛づくろいをしたりする様子も。外見は違えど、イエネコと似通った姿もたびたび観察できます」

特に今動物園でアイドル的人気を誇るのがマヌルネコ。中央アジアの高地に生息し、過酷な寒さに適応するため蓄えられた豊かな体毛が特徴だ。〈神戸どうぶつ王国〉では2024年4月に4匹の赤ちゃんが誕生。飼育係の月原ひとみさんによれば「きょうだいで戯れたり母親に甘えたりする姿が見られます」という。

一方ハンターらしい行動も。獲物を攪乱するためしっぽを震わす仕草や、コマ送りのように走って、止まってを繰り返して獲物に近づく身のこなしは、丈の短い草がまばらに生え、隠れ場所が少ない岩場の動物ならではだ。

マヌルネコ
〈神戸どうぶつ王国〉で2024年4月に出産した母親のアズ(右)。警戒心の強い彼女は、周囲をヤンチャに動き回るメイ(左)ら子供たちの様子をいつも心配そうに眺めている。

そして〈神戸市立王子動物園〉でマヌルネコとともに人気動物の一翼を担うのがボブキャット。乾燥地帯から草原まで、多様な環境での狩りに適したがっしりとした体に、“ボブテール”と呼ばれる短く丸まるしっぽを持つ。「当園のソラは、ネコ科では珍しく人懐っこい個体。しっぽを動かしながら愛嬌を振りまいてくれます」と飼育係の若林亮介さん。

ボブキャット
国内の動物園で唯一飼育されるボブキャットは、〈神戸市立王子動物園〉のソラ。天真爛漫な性格で、ガラス窓に体をこすりつける“窓際ウォーク”で来園者を沸かせることも。

さらに〈神戸どうぶつ王国〉で飼育されるスナドリネコは、“漁(すなど)り”に由来する和名の通り魚を好んで捕食する種。前肢の指の間に水かきを持っており、飼育下でも躊躇(ちゅうちょ)なく水中に潜って魚を器用に捕らえる姿が観察できる。“猫は水が苦手”とのイメージは覆される一方で、懸命に爪を研いだり、大あくびをしたりする姿はイエネコそっくりだ。

スナドリネコ
水中でキャッチしたアジを食べ終え、一服するのは、〈神戸どうぶつ王国〉で飼育されるオスのエルク。現在は〈鳥羽水族館〉から来たばかりのメスのメオと網越しにお見合い中。

ほかにもこの2園では、小さな体と儚(はかな)げな佇まいから“砂漠の天使”の異名を持つスナネコや、耳の上の房毛がチャームポイントのシベリアオオヤマネコ、3mもの跳躍力を持つサーバルらと出会うことができる。

「多彩な種を眺めていると、それぞれの勇ましさや愛らしさを時折受け継ぎながらも、時間をかけて人と生活できるよう進化してきたイエネコの存在を一層尊く感じます」と髙木さん。ネコ科動物を知れば知るほど、身近な猫への愛情も深まるはずだ。

スナネコ
〈神戸どうぶつ王国〉ではメスのバリーを筆頭に3匹を飼育。来園者を魅了するかわいさだが、もちろん猛獣。鶏肉や鹿肉、冷凍のネズミやひよこまで1日200gを完食する。
シベリアオオヤマネコ
〈神戸市立王子動物園〉で飼育されるメスのベル。警戒心が強い一方で、共に同じ空間で飼育されるヤンチャなオスのアルを優しく見守る姉御肌な一面が魅力だ。
サーバル
2匹のサーバルを飼育する〈神戸どうぶつ王国〉。高いところでくつろぐのが好きなのが、オスのフク。しなやかな肉体を伸ばして、ハイジャンプを見せてくれることもしばしば。