門脇 麦(俳優)
忘れないハグロトンボの羽化の瞬間。
祖父がナチュラリストで、幼い時から週に何度か虫観察の散策に連れていってくれました。庭で捕まえたイモムシを飼育し、ゴマダラチョウなどを羽化させる楽しみを知り、愛読書は虫図鑑。
ある図鑑の表紙に目を惹かれたのがテングビワハゴロモでした。タイとミャンマーの奥地に生息し、テングの名にふさわしい長い頭。翅を広げた時の差し色の美しさにも驚きました。果樹の樹液を吸うので、食べると甘いとも。
家の近所には里山や多摩川があり、弟の親友の吉良君が数種のヤゴを育てていて、ある晩、「カワトンボのハグロトンボが羽化しそうだから見せに行くわ」と水槽を抱えて我が家へ。そこから数時間、固唾を呑んで見守って、無事、脱皮して翅がすべて出てきた時の美しい瞬間は一生忘れない。いつか母親になった時、子供に同じ体験をさせたいです。
堀川ランプ(芸人)
身近なところにいる、特異なムシ!
海外だけでなく日本も面白い虫の宝庫なんです。自分たちの普段の行動範囲にも珍奇な姿が潜んでいる、と思ったらワクワクしますよね。だから、僕は日本の昆虫推し。
大学生時代に藤沢(神奈川)のキャンパスの裏の林で見つけたのが、オオミズアオです。絵に描いたような完璧な姿で、華麗さはずば抜けています。舞台衣装をオオミズアオカラーに新調したほど、惚れ込んだ虫なんです(笑)。
動物が冬眠に入るオフシーズンの冬に羽化する戦略的な生態を持つのが、フチグロトゲエダシャク。その狡猾ともとれる生態に夢中になってしまいました。捕食される心配がなく逃げる必要がなかったため、メスは飛ぶことをやめて翅が退化し、蛾らしからぬ「何だコレ?」ってビジュアルをしています。本当に面白い。昆虫の“沼”から、おそらく一生抜け出せません。
長谷圭祐(プラントハンター)
指先で愛でられる、熱帯雨林の昆虫たち。
僕は子供の頃、甲虫類が好きで、クワガタを飼ったり、図鑑を読み漁ったりしていました。そこから植物に興味を持ち、今では熱帯雨林の植物を探るべく、年に数回、東南アジアや南米を訪れます。ゆえに密林での未知なる虫との遭遇は楽しみですが、同時に毒を持った種には注意せねばなりません。
マレーシアの林で、オウサマミツギリゾウムシが手に飛び乗った時も、とっさに振り払おうとしました。しかし縦に細いシルエットが、なんともスタイリッシュで。手のひらにちょこんとのる大きさも、小型植物を愛する僕にはグッときたんです。
南米のカラステングゴミムシダマシは、クワガタに似た顎と角を持ちます。エナメルに似た光沢感がカッコいい。こちらも小さな虫ですが、名前を漢字表記にすると「鴉天狗塵騙」と、イカつい印象になります。このギャップがまた、面白いんです。
知久寿焼(ミュージシャン)
新種発見⁉ 極端に幅広で小さな体のツノゼミ。
昔から小さな虫が好きでしたが、ツノゼミにハマったのは25歳、海野和男さんの本でその存在を知り、同じ頃に国内でトビイロツノゼミを見つけてから。ツノゼミを見るために20年以上東南アジアに通っていて、ここ数年はタイに昆虫調査用の部屋を借りています。
中でも一番好きなのは、2000年にカンボジアで発見したズングリチビズキンツノゼミ。ズキンツノゼミ属は、極端に幅広な体、翅の付け根から左右横方向に耳状に伸びる角が特徴ですが、この種はその角もほとんど伸長しません。
最初はフィリピンのチビズキンツノゼミと同種だと思っていましたが、丸山宗利さんに出会い、新種ではないかと教わって、一緒に学会の口頭発表まで行いました。最近もタイ北部にこれとそっくりな別種らしいのを見つけて。自分が生きている間には研究し尽くせないですね。